警察庁は足利事件の教訓から、DNA型鑑定を実施した試料について、全国約1200の警察署全署にマイナス20度の冷凍庫を配備し、再鑑定の態勢を整える方針を固めた。足利事件では、18年ぶりの再鑑定で菅家利和さん(63)の無罪が確定的になったが、試料が常温で長期間保管されていたため劣化の可能性があり、再鑑定の可否が懸念されていた。冷凍保存が進めば、再鑑定に耐えうる試料が増え、冤罪(えんざい)防止にもつながるとみられる。
警察の捜査活動全般について定める犯罪捜査規範では、血液などの鑑識に当たっては、残りを保存しておくなど再鑑識のための考慮を払わなければならないとされ、DNA型鑑定試料もこれに基づいて取り扱われている。保管については、冷凍保存を求めている。
警察庁によると、鑑定に使用した試料は、検察庁に送致することになっている。実際は、検察庁の委託を受けて各都道府県警で保管するのが一般的。各警察本部の科学捜査研究所にはマイナス80度の専用冷凍庫が設置されているが、容量に限界がある。そのため十分乾燥させ、担当の警察署で常温保管しているケースが少なくない。
08年のDNA型鑑定実施件数は、全国で3万74件と03年比で約26倍。常温保管の背景には件数の急増もあるとみられる。保管が長期化すれば、試料が腐敗するなど劣化する可能性が高い。足利事件では、常温保管されていた女児の下着からDNAを抽出して再鑑定できたが、劣化していれば、冤罪の証明は困難だったとみられる。
警察庁は再鑑定の環境充実を検討、良好な状態で試料を長期保存できるマイナス20度の冷凍庫を導入することにした。保管対象を試料自体にするか、抽出したDNAにするかなど、詳細は今後検討する。凶悪事件以外にもDNA型鑑定を活用する場合が増えており、全署に配備を目指す。
警察庁科学警察研究所によるDNA型鑑定は89年に始まった。導入当初主流で足利事件でも活用された鑑定法では、別人が一致する確率は「1000人に1・2人」。最新の鑑定法は「4兆7000億人に1人」で、ほぼ個人を特定できる。東京高裁が再審決定の判断材料とした再鑑定は、最新の鑑定法だった。【千代崎聖史】
毎日新聞 2009年11月22日 東京朝刊