政府が来年度税制改正で、現在1本8・7円のたばこ税の増税を目指している。困った時の財源確保を狙った過去と違い、国民の健康を守る観点を強調している。基本的な考えを支持しつつ、この機会に増税だけではない総合的なたばこ規制に乗り出すことを求めたい。
たばこ税の07年度税収は2兆2700億円で、消費税約1%分の税収に相当する。98年に旧国鉄債務などを返済するため1本0・82円の特別税を創設し、03年には企業減税の財源として、06年には児童手当などの財源として、それぞれ1本約0・8円増税した。今回は財務省ではなく、厚生労働省が増税を求めた。
たばこは肺がんや循環器疾患の原因になるうえ、周囲にも健康被害をもたらす。JTによると日本人の喫煙率は男性が40%弱で国際的に高く、女性は10%前後で横ばいだ。一方で、喫煙者の多くができればやめたいと思っているとの調査もある。
このため、増税で価格を上げて消費を減らすのが厚労省の狙いだ。日本も批准した世界保健機関の「たばこ規制枠組み条約」も、喫煙率を下げるため価格引き上げを各国に求めている。厚労省は欧米の価格を参考に、一般的な1箱300円を500~700円に引き上げたいようだ。
自民党政権では、既得権益にとらわれ「脱たばこ」の大胆な政策をとれなかったことを考えると、大きな進歩である。しかし、「国民の健康のため」は建前で、財源不足を補うために持ち出した疑いもぬぐいがたい。増税構想が先行して、たばこをめぐる問題に本腰を入れようという姿勢が見られないためだ。
たばこ条約は、価格引き上げだけでなく、健康被害を警告する画像のパッケージ表示、公共の場や飲食店、職場などを禁煙とする実効性のある国内法整備などを求めている。日本はこうした取り組みが欧米はもちろん、アジアや中東の一部の国よりも遅れている。タイでは、喉頭(こうとう)がんになってのどを切開した人の写真が箱に印刷してある。03年施行の健康増進法で禁煙化・分煙化の流れは加速したが、十分とはいいがたい。
思い切った対応の妨げになっているのが、たばこ産業の発展と税収確保を目的にした「たばこ事業法」の存在だ。事業法は財務省所管で、箱への警告表示も財政制度等審議会の分科会で話し合っている。小売価格は認可制で、税率変更時以外の値上げ、値下げは極めて困難だ。
時代遅れの事業法を廃止し、健康の観点からたばこを規制する新法を作って、たばこ問題は財務省でなく厚労省が仕切るのがまともな姿だ。さまざまな対策の一環として増税を実施すべきである。
毎日新聞 2009年11月22日 東京朝刊