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欧州統合への取り組みが始まって50年余り。欧州連合(EU)に、ついに「大統領」が生まれた。
加盟27カ国の首脳が集まり、欧州理事会に新たに置く常任議長に、ベルギーのファンロンパウ首相を選んだ。
欧州理事会は、EUの最高意思決定機関である。常任議長は、年4回の首脳会議を仕切るだけでなく、日本や米国、中国などとの首脳協議にも、EUを代表して出席する。
「EU外相」にあたる外務・安全保障上級代表には、英国のアシュトン欧州委員が起用される。二人の「EUの顔」が決まった意義は大きい。
欧州統合は、各国の合意を積み上げながら実績を重ねてきた。今や通商や農業など各国の経済政策づくりの大半はEUに委ねられ、外交・安全保障から環境、司法、食品安全基準まで共通政策の実績も積んだ。当初6カ国だった加盟国は27カ国に拡大している。
ところが「EUの顔」がないままでは、欧州各国の市民とEUとの距離感が縮まらないばかりか、国際社会への発信力も高められない。
EUの旗の下に集まる国々を束ねて国際社会に「一つの声」を示すポストが必要だ。そういう論議が始まったのは10年近く前だ。曲折を経つつ、常任議長などの創設を盛り込んだリスボン条約が来月に発効する。
常任議長が主宰する首脳会議は、加盟国の大使・閣僚らがもんだ議論を最後に決着させる場だ。各国の利害対立をほぐして合意まで持っていく。その成否は、手堅い調整力があるファンロンパウ氏に大きくかかっている。
「外相」の権限と責任も大きい。
欧州では90年代の旧ユーゴスラビア紛争を機にEU外交が活発化した。これまで上級代表のソラナ氏は米国や国連などと連携しながら、中東和平やアフリカの紛争解決にも奔走した。
リスボン条約の発効により、EUの外交部門が一本化され、6千人規模の欧州対外活動庁が発足する。新たにかじ取り役になるアシュトン氏の実力は未知数だが、ソラナ氏を上回る活躍が期待されている。
イランの核問題や中東和平、地域紛争の解決など、欧州の外交力を必要とする世界の課題は少なくない。米中の「G2」、日米欧中の「G4」とさまざまな枠組みが語られるなか、ルールづくりにたけ、交渉能力も高い欧州の底力は無視できない。
G8などの会議には、EUの行政執行機関である欧州委員会のバローゾ委員長が出ていた。今後、ファンロンパウ氏とバローゾ氏の役割分担をどうするか。上級代表と各国外相との協力関係をいかに築くか。落ち着くまでに時間もかかろうが、自前の「大統領」を生み出した欧州統合は、また新しい一歩を踏み出した。
地球温暖化の今後を左右する重要な国際会議が半月後に迫ってきた。デンマークの首都コペンハーゲンで開かれる国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)である。
京都議定書を引き継ぐ国際的枠組みをつくるには、各国首脳がCOP15の場で大枠について政治合意をまとめなければならない。
先週あった閣僚級のCOP15準備会合で、目指すべき「コペンハーゲン合意」の骨格を議長国デンマークのラスムセン首相が提案した。
先進国の温室効果ガス削減目標をはじめ、新興国・途上国の削減行動、途上国への技術や資金の支援など、すべての課題について、具体的で政治的拘束力のある合意文書をまとめる。それをバネに、来年の早い時期に法的拘束力のある新しい枠組みをつくる。そういった内容の提案だ。
コペンハーゲン合意をあいまいな内容にしないよう、この提案に沿って交渉を加速させる必要がある。
これまで、先進国と新興国・途上国の対立で交渉は難航してきた。「京都議定書を単純延長すればいい」といった意見もくすぶっている。
だが、現行の京都議定書の枠組みのままでは、離脱した米国と途上国扱いの中国に削減を促せない。排出量1位の中国と2位の米国だけで世界の排出量の4割も占める。二つの大国(G2)の削減努力が欠かせない。
これまで中国は「先進国がまず削減すべきだ」と主張してきた。米国内には、中国にも削減義務を課すよう求める声が根強い。互いの出方をうかがう消極姿勢が国際交渉を足踏みさせてきたことは否めない。
オバマ大統領は今回の訪中で胡錦濤国家主席と会談し、COP15の成功に向けて努力する姿勢を確認した。それは有意義なことだが、両国に求めたいのは行動である。排出削減の具体的な目標を早く示してほしい。
オバマ大統領は、関連する国内法の年内成立が難しい現状では国際公約を掲げにくい、という苦しい事情を抱える。だが、米国の思い切った行動なしにCOP15の成功はない。大統領の指導力に期待したい。
胡主席は、9月の国連会議で「国内総生産(GDP)当たりの排出量を05年より著しく減らす」と表明した。その意欲を裏付ける目標数値を早急に知りたいところだ。
ここへきて、ブラジルや韓国などが相次いで削減目標を打ち出している。日本も12年までの3年間で90億ドル規模の支援で、新興国・途上国の行動を後押ししようとしている。中国が目標値を掲げるなど積極的に動けば、交渉を一気に加速させられる。
いまこそ「二つの大国」が決意と行動で世界を引っ張る時である。