「大相撲九州場所7日目」(21日、福岡国際センター)
九州の星、日本の星だ。大分県出身の東前頭9枚目嘉風が翔天狼を送り倒して初日から7連勝とした。全勝を守る朝青龍、白鵬の両横綱に食らいつく展開に、今場所初めて満員御礼となった館内からは大喝さい。昨年6月に手術をした左目の視力が低下するという不利を背負いながらも“台風の目”となっている。大関陣は不調でかど番の千代大海は5敗目。日馬富士も4敗目を喫し黒星先行となった。
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無我夢中だった。体が自然に動いた。立ち合い全力でぶつかり、翔天狼に押し込まれた次の瞬間、嘉風が左からまわしを伝って背後に回り込んだ。176センチ、137キロと決して大きくない体を預けて、相手もろとも土俵に倒れ込む。平幕ただ1人の全勝を死守した。
一気に土俵際まで持っていかれ、逆転の突き落としで辛勝した前日とは違う、内容のある白星に満面の笑みだ。「手を前に伸ばしていこうと思った。気がついたら(相手の)横についていました」。前日の相撲で土俵下に落ちた際、腰に打撲を負ったが、前日夜に部屋でトレーナーの治療を受けて土俵に立った。
昨年6月に左目に負った網膜裂孔という病気の手術を受けたが、その影響から視力が0・02まで低下した。2・0の右目とバランスが取れず、相手が見えにくいはずだが、「まあ、見えますよ。コンタクトをつけたこともありますけど、土俵上で取れちゃったんで、今はしてません」と、決して勝負の言い訳にはしない。
体格差も、けがも気持ちではね返す嘉風の支えは愛夫人と、5月に生まれたばかりの長女・梨愛(りな)ちゃんだ。「場所後の月曜日に(福岡に)来るんです。気持ちはそこに集中しています」。01年秋場所の琴光喜(東前頭2枚目)を最後に平幕優勝は出ていない。大番狂わせが家族への最高のプレゼントになる。