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キャリワカ

小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」

JALへの公的支援
誰が損をし、得をするのか

 現状の収益力の点から見ると、この状態をうまく切り盛りして切り抜けられるということは難しいでしょう。そのために民事再生手続きや会社更生手続きという法律制度があるのですから、なぜそれを使わないのか、疑問に思います。不思議だと思いませんか?これだけ重い負債の大部分を削減することができるので、JALの再生には最適なはずです。

 逆に、政府は融資を公的保証しますと言っているわけです。公的保証をするとどんなメリットがあるのかというと、銀行の貸し倒れリスクがなくなるのです。そこで、自己資本比率の規制の問題が出てきます。

 はじめにも触れましたが、銀行が国際的に業務をする場合、自己資本比率が8%以上必要だという規制が課せられています。(それを12%に上げようという動きがあることはすでに説明しました。)しかし、銀行の自己資本比率の計算をする場合、少し注意しなければならない点があります。

 銀行の自己資本比率規制というのは、基本的には、先程も触れた「資産」「負債」「純資産」の考え方と同様です。しかし、銀行が自己資本比率を計算する場合には、それに修正を加えています。これは、銀行のリスクを計算するものなので、資産の中でも非常に安全性の高い資産に関しては、「資産」として計上しなくていいという規定があるのです。つまり、自己資本比率の式でいうと“分母”に入れなくてもいいということで、自己資本比率が嵩(かさ)上げされるのです。

 JALの負債を国が公的保証をしたらリスクは国債と同じになりますので、銀行はそれを「資産」として計上しなくてよくなります。銀行にとっては、貸し倒れリスクが無くなる上に、自己資本比率計算上の分母である資産がゼロになるというすごいメリットがあるわけです。

 自己資本比率の強化は、サブプライム危機の反省から生まれた動きです。つまり、資本の質を高めようとしているのです。具体的には、今8%ある自己資本比率を12%にすることや「中核自己資本」(※補完的な資本ではなく、基本的な資本。)の質を高めようとしています。

 ちなみに日本の銀行は、この「中核自己資本」が弱いのです。ですから、自己資本比率を上げられた上に、「中核自己資本」の質を高めるように規制を強化されてしまうと、規定の率に届かなくなってしまうのです。そこで、JALの法的整理があって1千億円規模の損失が出るとこれはファイナンス力が弱い銀行にとっては大変なことになるわけです。JALに資金を貸している銀行が千億円という損失を被ってしまったら、その部分はまた資本の増強をしなければならなくなるからです。

 それを国が公的に債務保証をするということになったら、銀行の資本規制上、銀行にとってすごく有利に働くということです。

 JALの公的支援について、私は、そのことが非常に関係しているのではないかと思っています。

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