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週刊ダイヤモンド11/21号に掲載されている記事「新規参入は断固拒否!! 保育園業界に巣くう利権の闇」という記事が話題を呼んでいる。この記事が巻頭ページを飾っているということだけでもかなり目立つが、ダイヤモンドオンライン(http://diamond.jp/series/closeup/09_11_21_001/)として、WEB上で記事を読むことができ、Yahoo Japanのニュースで紹介されたため、賛否両論、大変な反響のようだ。私のコメントが引用されていることからもわかるように、ダイヤモンド誌は、記事を書くにあたって、私のところにも取材に来た。
タイトルからしてまさに過激であり、書きぶりもやや煽るようなものとなっているが、冷静に読めば、記事の内容自体は、ごく常識的なものであることがわかる。記事の内容を大まかに要約すると、
(1)現在、待機児が深刻な社会問題となっているが、このように保育に対する需要が非常に大きいにもかかわらず、保育所の供給がなかなか増えない背景には、認可保育所が抱える構造的問題がある。
(2)構造的問題の一つは、認可保育所、特に公立保育所が、人件費をはじめとして非常に高コスト体質になっていることである。また、認可保育所の保育料は平均的に非常に低く設定されているため、保育所の運営費のほとんどは補助金で賄われており、各自治体とも財政難のおり、簡単に認可保育所を増やすことができない。
(3)また、この高コスト構造は、すでに強固に利権化している。そのため、利権を守るために、保育業界(日本保育協会、全国私立保育園連盟、全国保育園協議会連盟のいわゆる保育3団体)は、政治活動を通じて、株式会社やNPOなどの主体が保育業界に参入することを拒み続けており、それが保育所の新規参入・供給増が進まない大きな原因となっている。
というものである。特に最後の点については、まさに今、待機児童問題の解決を中心に、保育制度の改革を目指して議論を行なっている厚生労働省の社会保障審議会・少子化対策特別部会(http://www.mhlw.go.jp/shingi/hosho.html#shoushika)及び、その下にある専門部会(保育第一専門委員会(http://www.mhlw.go.jp/shingi/hosho.html#hoiku1)、第二専門委員会(http://www.mhlw.go.jp/shingi/hosho.html#hoiku2))における保育3団体の傍若無人なハイジャックぶりを見ても明らかであろう。議事録も上記HPに全て公開されているが、自己の利権を守るための身勝手な発言ばかりであり、こうした業界団体が、待機児童問題の解決にはほとんど関心がないことがわかる。
彼等の利権保持のロジックは、「保育の質を下げるべきではない」というものであり、今後、待機児童対策のために緊急に作られるべき新しい保育所にさえも、認可保育所並みの高い基準を求めている。保育の質とは、本来は、ハコモノの施設基準や人員基準といったハードウェアと、保育内容のソフトウェアの2つの面があるはずであるが、彼等の定義はハードウェアのみである。ハードウェアには高コストの費用が生じ、それが彼等の利権となっているのであるから、彼等の「現在の保育の質を下げるべきではない」という主張は、「(待機児童が生じようと、無認可保育所に不本意に入っている人がいようと、働きたくても働けない母親が居ようとも)、我々の利権を守れ!」ということと同義である。
特に最近は、「認可保育所並みの『保育の質』が保たれないと、待機児童の母親達ですら安心して保育所に入れない。」とか「保育の質が無認可保育所で保たれていないことが、待機児童が起きている一因である」という主張がされ始めているが、この「論理のすり替え」は実に許しがたい。待機児童の親たちのほとんどは、認可保育所に入れないので「やむなく」無認可保育所を選んだり、働くこと自体を諦めているのであり、保育所の質云々をみて、自発的に現状を選んでいるのではない。認可保育所、特に公立認可保育所の「ハードの質」を保つために、莫大な費用と補助金がかかり、限られた予算の中で、いわばそれにはじき出される形で、待機児童問題があるのである。
認可保育所の利権保持は、苦しい財政状況の中では、待機児問題の解決を、これまで同様、延々と放置・先送りさせることになる。これは、彼等に悪意があるかないかという問題ではない。例えば、限られた予算の中で運営されている生活保護制度では、母子加算の復活や医療扶助費への寛大すぎる支出をすると、予算不足の中、「水際作戦」と呼ばれる厳しい審査が起きて、本来、生活保護を受けるべきワーキングプアやホームレスが生活保護を受けられなくなるという事態となっている。母子加算の復活や医療扶助の潤沢な支出は、決して当人達に悪意あることではないが、結果として、かわいそうな人をさらにかわいそうな状況に追い込むのである。保育制度では、「質を保て」と署名活動にいそしむ認可保育所の親たちに決して悪意があるわけではないが、質に伴う莫大な補助金と認可保育所の利権を守ることにより、結果として、かわいそうな待機児童の母親達に犠牲を迫ることになっているのである。
ダイヤモンドの記事は、こうした利権に関連して、保育業界内では有名であるが政治的に絶対的タブーとなっていた話題(認可保育所の高コストぶり、私立認可保育所の一族経営の状況、その旨味と利権、東京都23区の「正規」保育士の高給ぶり、保育3団体の異常な政治活動と労働組合活動、それに対する厚労省と自治体の弱腰ぶり等)にも踏み込んでおり、やや不正確な記述や、若干の勇み足があるものの、全体として非常に勇気ある内容となっている。ダイヤモンドの記者には大いに敬意を表したい。
今までの自公政権下では、ほとんどこうした正論は押しつぶされ、こうした記事を書くマスコミもなかったので、こうした動きが出てきたことは大変望ましいことである。ダイヤモンド誌や他の経済誌にはもちろん、保育業界からの異論・反論も当然あるだろうが、これは大いに歓迎して、オープンな保育改革論議に持ってゆくことが重要である。これまでは、保育3団体や保育労組、自民党「保育族」が暗躍し、厚生労働省の審議会を牛耳ったり、密室政治の中で保育政策が決まってきた。これからは、公論の場でオープンな改革論議がなされ、これまで議論に参加する余地がなかった待機児童の親たちや、働くことを望んでいる専業主婦たちの立場を代弁するものがいる中で、保育改革論議が進むべきである。こうした中では、単なる身勝手な既得権益・利権の保持を唱えるものは非難を受けることになるだろう。
さて、この種の雑誌記事では仕方がないことであるが、わかりやすさを重視、あるいはインパクトを重視のため、ややバランスを欠いている点や、不正確な記述がある。その点を補っておこう。
以下、(下)に続く。
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