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普天間移設―鳩山首相の牽引力を問う

 米海兵隊の普天間飛行場の移設問題で、鳩山政権が悩み苦しんでいる。

 オバマ米政権は自民党政権との3年前の日米合意通り、名護市辺野古へ移すのが唯一現実的だという。

 一方で、沖縄県民の多くは、ただでさえ在日米軍基地の75%が集中する沖縄に、普天間に代わる新たな恒久基地を造ることに反対だ。政権交代が実現しても、事態が変わらないのでは、県民の期待は打ち砕かれてしまう。

 日米安保体制を支える基地の重要性と、戦後ひたすらその重荷をほぼ一身で耐えてきた沖縄。北朝鮮をはじめ、安全保障にかかわる問題があるにしても、この矛盾は何とかできないか。

 そんな国民の思いが、本社の世論調査で日米合意の見直しに対する過半数の支持になっているのだろう。それだけ難しい課題である。

 鳩山由紀夫首相がオバマ米大統領との会談で、政権交代を踏まえて事態の困難さを率直に伝えつつ、打開策を探ろうとした姿勢は評価されるべきだし、日米合意の「検証」も急ぎたい。

 ただ、そうした過程で、日本の安全保障の柱である同盟を支える基本的な信頼関係が損なわれては困る。その点で、首相や閣僚のこの間の言動には懸念を抱かざるを得ない。

 問題の決着は、年内がひとつのメドだろう。岡田克也外相が言うように、来年度予算に移設費用を盛り込むかどうか決める必要がある。1月の名護市長選の結果にげたを預けるような態度は取るべきではない。

 なのに首相は首脳会談で、普天間問題を「早期に解決する」といいながら、翌日には必ずしも年内決着を急がない考えを示した。さらに、現行計画を検証する閣僚級の作業部会の位置づけをめぐっても、オバマ氏との認識の食い違いが露呈した。

 戸惑っているのは米国だけではない。北沢俊美防衛相が現行案を前提にした打開案を検討し、外相は嘉手納飛行場への統合を探る。首相は県外移設を否定せず、「(最後は)私が案をつくる」と言う。沖縄県民も国民も、これでは政権の意思がどこを向いているのか、分かりようがない。

 日米合意では、在日米軍基地の整理・統合やグアムへの海兵隊の移転、その移転経費の日本側負担などがパッケージになっている。大事なのは、首相がこの枠組みそのものを変えるつもりはないと明確に語ることではないか。

 そのうえで、もし辺野古以外の移設先を探るのであれば、米国側にはっきりと提起しなければならない。全体の方向性をあいまいにしたまま作業部会の検討を長引かせるのは、米国に対して不誠実であるばかりか、国民の期待をもてあそぶことになりかねない。

 首相は自らのメッセージの重さを自覚し、牽引(けんいん)力を発揮すべきなのだ。

デフレ再燃―たじろがず新成長戦略を

 政府が「デフレ宣言」を出した。月例経済報告の基調判断に「物価の動向を総合してみると、緩やかなデフレ状況にある」という文言を盛り込んだ。政府が物価下落をデフレーションと認定したのは3年5カ月ぶりだ。

 デフレは総需要の不足が原因で、物価が全般的に下がり続ける現象である。販売や生産、消費の不振を招く巨大な圧力となる。

 日本はバブル崩壊後から消費者物価が下がり、先進国としては戦後初のデフレに陥った。政府は01年3月にデフレ宣言を出し、06年6月までデフレ状態と認めていた。長期にわたり物価下落が経済を圧迫してきたのだ。

 その後、景気回復につれてデフレはおさまったが、政府は「逆戻りする可能性が残る」との判断から「デフレ脱却宣言」を見送り続けてきた。

 そして今回、再びデフレ状態に舞い戻ったと表明。世界同時不況が引き起こした経済収縮で、デフレが悪化していることを認めざるをえなくなったといえよう。

 消費者物価の連続下落が7カ月。国内総生産(GDP)統計の国内部門の物価指数も年初から3四半期連続で下がっている。経済協力開発機構(OECD)の経済見通しで、日本経済がデフレに陥っているとしているだけでなく、デフレが11年まで続くと予測していることをみても、政府の「宣言」は妥当だ。

 宣言がきっかけで、「物価はこれからも下がる」という「デフレ期待」が国民の間に広がることを警戒する声も金融界などにある。人々の財布のヒモが固くなって、消費不振がさらにひどくなるのでは、という心配だ。

 だが、いま必要なのは「宣言」の副作用を心配することではない。不況を長期化させかねないデフレをきちんと認識したうえで、その克服策を打ち立てることだ。

 菅直人副総理兼経済財政相は、きのうの記者会見で日銀にデフレ克服策を求めたが、政府も日銀と力を合わせて、政策を総動員する必要がある。

 バブル崩壊後のデフレを緩和するのに威力を発揮したのは、米国と中国の経済成長に引っ張られた輸出の増加だった。それに刺激されて設備投資が拡大し、企業業績は回復した。

 いまは、鳩山政権が掲げる「コンクリートから人へ」の大方針に沿った福祉経済化や雇用対策、地球温暖化対策としての「グリーンな経済」づくりを基礎に、民間の投資や消費を引き出すような成長戦略を組み立て、実行に移すことが期待される。

 来日したOECDのグリア事務総長は今週、日本の課題について、女性の社会進出や環境技術の発展で「新たな成長をめざす必要がある」と指摘した。このエールにこたえたい。

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