久留米競輪場で練習する選手たち。バンクに猫が入ってくることもあるという=福岡県久留米市野中町
選手宿舎に入る受付事務所の近くにも猫がいた。近づいても逃げず、人に慣れているようだ=福岡県久留米市野中町
福岡県久留米市の久留米競輪場で、野良猫をめぐる騒動が起きている。バンク(走路)に乱入し、選手たちの邪魔をするのだ。時速約70キロで疾走中に衝突し、転倒すれば命にかかわる。競輪場を運営する市は猫の捕獲(殺処分)を検討したが、動物愛護団体が反対。里親探しに切り替えたものの、騒動は収まっていない。
久留米競輪場は、住宅地に囲まれた緑豊かな小高い丘の上にある。市競輪事業課によると、競輪場の内外に住み着いた野良猫は50〜60匹。この2、3年で急増したといい、職員は「無責任に捨てたり、えさをやったりする人がいて増えたのでは」とみる。
場内へは複数の入り口があるほか、バンクを囲む高さ約3メートルの金網も猫にとっては出入り自由だ。バンクに入る通路や建物内で目撃するのは日常茶飯事。これまでレース中にバンクへの乱入はないが、練習中はしばしばで、選手から苦情が出ていた。
昨年10月、ヒヤリとさせられることがあった。レース直前、選手が通る「敢闘門」に猫が侵入し、職員があわてて追い出した。今年6月にも同じ騒ぎが起きた。職員は「どこから入るのかはわからないが、敢闘門につながる建物にもよく猫がいると聞く。そこからではないか」と話す。
競輪やオートレースの振興を図る財団法人JKAは「全国的にも聞いたことがない。非常に危険だ」と指摘する。久留米競輪場は1周400メートル、コーナーの斜度は30度以上。自転車の速度は最高で時速約70キロに達するが、ブレーキはない。突然現れた猫を避けるのは至難の業だ。日本競輪選手会福岡支部長の藤田剣次選手(32)は「バンクに猫が入ってきた瞬間、他の選手にも知らせ、練習を中断する」という。
これまで猫が侵入するたび職員が外へ追い出し、えさを与えないよう求める注意文書を来場者らに配った。猫を引き取る職員もいたが、抜本的な解決には至っていない。
日本自転車競技会西日本地区本部と日本競輪選手会福岡支部は8月、市に対し「公平で安全なレースのため、野良猫対策を」と要望。市は捕獲(殺処分)を計画したが、くるめ動物応援団(木村文一代表)は「行政とボランティアが協力した里親探しが理想」と反対を申し入れた。市は猫の里親探しに切り替えたが、引き取り手はなかなか見つからず難しい状態だ。
次のレース開催日は24〜26日。市の担当者は「殺処分は望んでいないが、事故が起きた後ではどうしようもない」と苦慮している。(矢島由利子)