路上に出ると一台のスクーターが目についた。後部に付けられた金属プレートに妙な日本語が記されている。インターネットで検索したら、製造元は分からなかったが、上海以外の各地での目撃情報が報告されていた。
戦前、上海の租界の公園には、中国人と犬の立ち入りを禁ずる看板があった。「日本人と犬−」はそのもじりだろう。首相の靖国神社参拝をめぐり、「反日」が強かった時期は過ぎた。今や「友愛」のはずだが、「嫌日家」が突然、いなくなるはずもない。
雲南省昆明では「日本人と犬は入るべからず」と掲げた飲食店もあるという。嫌日家が危害を加えることはまずないが、露骨な不快感を示されれば、気分はよくない。
タクシーに乗った。「あんた、日本人か。『謝謝』って、日本語では何と言うんだっけ」。運転手から気さくに尋ねられたが、意図を探り身構えてしまった。 (小坂井文彦)
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