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2009年11月13日

「会社を辞めろ」と言われても……泣き寝入りせずに抵抗する方法

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『非正社員から正社員になる!』(著・吉田典史氏、光文社)

 上司から「会社を辞めてくれ」と言われたら、あなたならどうするだろうか? 「仕方がないので会社を辞める」人も多いだろうが、「泣き寝入りをしたくない」という人もいるのでは。そこでリストラに関する取材を続けてきた筆者が、会社に抵抗する方法を紹介する。

 「なぜ、リストラがこんなにスムーズに進んでいるのでしょう?」

 先日、出版社の週刊誌編集部から取材を受けたものの、私はすぐに言葉が出てこなかった。確かに、ここ数カ月の間にも大きなリストラがいくつも行われている。

 報道によると、経営再建中のパイオニアでは、1300人の早期退職の募集に1204人が応募し、9月末で退職した。三洋電機は、希望退職者の募集に800人を超える社員が応募したという。また消費者金融大手アイフルは、グループで約2000人の希望退職を募集し、正社員を2010年2月末までに半減させると発表している。

 これらは、多くの企業で行われているリストラのごく一部である。一部の外食産業や金融機関、小売店の中には、30代の社員を対象にリストラを行っている企業すらある。それでも、大きな話題になっていない。

 ここで問題視されるべきは、ほとんどの人が「NO!」と拒絶の意思を示さないことである。むしろ、「仕方がないか……」とあきらめているようにすら思える。その姿勢が、経営者たちに隙(すき)を与えているのではないだろうか。

 リストラを受けた会社員が納得して会社を離れているのかといえば、実はそうではない。報道によると、解雇などで収入が減り、住宅ローンの返済が難しくなり、その相談に金融機関に現れる人が増えているという。三菱東京UFJ銀行は、その数が毎月500件ほどになる。三井住友銀行、みずほ銀行なども相談を受ける行員を増やしたり、電話相談の窓口を設けたりしている(2009年10月25日、日本経済新聞朝刊)。

 多くの人は、リストラに納得していないことがうかがえる。当然のごとく、生活に困っている。それでも、会社に自らの意思を強くは示さない。おとなしく、耐えることで乗り越えようとしている。

 その考え方や生き方を私は否定しない。もしかすると、会社が願うように、辞表を素直に出すことの方がよいのかもしれない。だが、その選択が得策であるのかどうかを今後の人生を考えた上で冷静に検証することを勧めたい。いま、20〜30代の人も無関係ではいられない。数年後は、我が身であるかもしれないのだ。

●解雇ではなく、退職強要でくる

 仮にあなたが正社員だとして会社の上層部から「辞めろ!」といわれたとする。拒絶の意思を強く示すならば、その対応策を紹介しよう。リストラの取材は13年ほど前からしてきたが、これはベストに近いものと自負している。

 まず、自分の意識を確かなものにすることである。会社はよほどのことがない限り、正社員を解雇にはしない。このことを心得よう。

 解雇には3種類(懲戒解雇、整理解雇、普通解雇)あるが、いずれもが会社からすると、ハードルが高い。裁判や外部の労働組合、労政事務所などの第三者にその社員が解雇の話を持っていくと、会社にとって不利になる。正社員の法的な保護は、会社員が想像する以上に進んでいる。そのあたりは、自信を持っていい。

 ただし、これは従業員数200〜300人以上の会社に限られた話である。小さい会社の場合、ワンマン経営者が労働法に無知ということもあり、強引に解雇にすることがある。だが、その場合も安心してよい。その大多数が不当解雇だ。争えば、不利にはならない。

 会社は、正社員を辞めさせるときに解雇という手段を選ばない。最も多いのが、退職強要である。退職強要とは、本人が「辞めない」という意思を伝えているにも関わらず、会社がそれに反して執拗に「辞めろ」と迫ることだ。

 会社は解雇通知を出すと後々に問題になるので、退職強要をうまくすることで辞表を書かせようとする。この手口は、よく覚えておこう。

●「辞めろ」と言われたら、「私は辞めません」と繰り返す

 一番大切なことは、会社に残りたいのであれば「私は辞めません」と、繰り返し言うこと。意思を表明するのである。法的にも、これは意味がある。「辞めない」と意思を伝えても、会社が退職を迫るならば、それは許されない行為なのだから。退職強要は不当な行為であり、民法の損害賠償の請求対象行為である。

 退職強要は、例えば、管理職や人事部員が社員を個室に呼び出し、「話し合い」と称して、辞表を書くように説得したり、さらには仕事を取り上げりする。要は、イジメである。それでも、「私は辞めません」と言おう。くどいようだが、意思を伝えることが大事なのだ。

 自分が受けている行為は、ノートに記録すること。退職を迫られているやりとりは、ICレコーダーなどに録音するべきである。ポケットに忍ばせておけばよい。会社は、第三者機関から攻撃を受けると、必ず「辞めろ、なんてことは言っていない」と逃げる。逃げ道を防ぐためにも、録音するのである。

 今度は近くにある、コミュニティユニオン(労働組合)に入ることを勧める。連絡先が分からなければ、全国コミュニティ・ユニオン連合会に電話をして確認するのもいいだろう。組合費は、大体、月に1000〜2000円程度になる。

 社内に労働組合があるならば、「不当な行為を受けている」と執行部に伝えておくこと。ただし、さほど頼りにはならない。要は、いきなり社外に持ち出そうとはせずに、社内で相談をしたという事実を作れば、それでいいのだ。後々、争う上で有利な材料となりうる。

●決して泣き寝入りはしない

 今度は、最寄りの都道府県庁の労政事務所に相談に行くことを勧める。インターネット検索で「労政事務所」と入力すると、そのWebサイトが出てくる。ちなみに東京都の場合は労政事務所ではなく、労働相談情報センターという名称になっている。

 労政事務所は労働相談を受けたり、労使間の問題の解決に向けて双方の調停をしたりする役所である。相談員は地方公務員であり、守秘義務は心得ている。その点は、信用していいだろう。

 労政事務所は会社に対し、労働基準監督署のように法的な強制力がない。このことをとって、一部の人は「労政事務所は弱い」という。私は、だからこそ、第1ラウンドとして勧めている。

 この時点では、会社との交渉の場を作ることが大切だ。相手をひきずり出すためにも、労政事務所はベストだ。仮にユニオンならば、会社は警戒し、冷静な話し合いにならない場合がある。

 労政事務所は、会社からするとやっかいな存在であることには変わりがない。経営者は社内で起きたことを外に持ち出されることに、強いアレルギーがある。労働相談情報センターの相談員が、呼び出しの電話を会社にすると、そのうちの9割近くが同センターに現れるという。これは、会社がいかに第三者機関に弱いかを物語っている。

 相談員には、自分がユニオンに入っていることを伝えよう。その際、組合加入を証明するために入会の領収書などを見せるといい。そして、労政事務所の調停がうまくいかないときは、ユニオンから団体交渉を申し入れることも考えられるだろう。相談員は、真剣に話を聞くはずである。労政事務所とユニオンの執行部とはつながりがある。

 その上で、自分が受けている行為を証拠をもとに説明し、自分の意思を伝えること。そこで考えられるのは、主に以下のものだろう。

1.退職強要という事実を会社に認めさせ、それをストップさせ、元のように仕事ができるようにする。その環境を会社が整える。

2.退職強要という事実を会社に認めさせ、その上で退職金と和解金を支払わせて辞める。=条件退職

 上記のどちらを選ぶかは、あなた次第だ。労政事務所の相談員には、会社側にこのようなことを言ってもらおう。実際、多くの相談員はこのように思っている。

 「〇〇さんはユニオンに入っているので、我々労政事務所との調停で決着をつけないと、事態は深刻になりますよ。ユニオンとの全面対決は、避けた方がいい」

 つまり、労政事務所とユニオンをいわば合体させることで、会社に対しての強い圧力にするのである。ベテランの相談員ならば、この意味するものを理解し、会社に上手く交渉してくれるはずだ。仮に調停がうまくいかない場合は、ユニオンから団体交渉を申し入れることも考えられるうるだろう。とはいえ、東京都の労働相談情報センターの解決率は7〜8割なので、ある程度は信用していい。

 ましてや、背後にユニオンが控えていれば、会社も軽い扱いはしないだろう。何とか、労政事務所の段階で決着を図ろうとするに違いない。条件退職の道を選ぶならば、ユニオンの存在をちらつかせることで、和解金が増えるかもしれない。会社は、ユニオンをそのくらい警戒している。

 ただし、前述の1と2のどちらを選んでも、私が取材している限り、その後の人生は必ずしもスムーズではない。しかし、その人たちは自分の意思を会社に示して生きている。そのこと自体、素晴らしいことであり、称賛されていいことだ。

 自分の意思は、会社に伝える。泣き寝入りはしない。その姿勢こそ、いまの時代に大切なものなのではないだろうか。

 女性ユニオン名古屋の執行委員長の坂喜代子さんから、厳しいひと言をいただいた。

 「テレビや新聞が、『大企業が業績悪化によりリストラしなければならなくなった』などとあおったことも、リストラを加速させたと言えるのではないでしょうか」

 さらに、こうも付け加えた。

 「ほとんどの労働者は、闘うすべを知りません。ユニオンにたどり着く人は、ほんの一握りです。企業は、おとなしく辞めない社員に対して、見せしめのような締め付けを強行します。企業に対してどんなときにも、毅然とした態度で臨むことが必要です。“簡単に手出しができないぞ”というオーラを放ちつつ、働くことですね」



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