きょうの社説 2009年11月20日

◎インフル登園許可書 柔軟な対応も大事な視点
 新型インフルエンザの感染拡大を防ぐため、七尾市が保育園と医療機関の連携のもとで 、園児が治癒したことを証明する「登園許可書」の発行を計画しながら、見送られることになった。

 国が各自治体に対し、学校などが医療機関に治癒証明書の発行を求めないよう呼びかけ ているためだが、自治体の働きかけに地元医師会が発行に協力しようとしたことは、国の方針に一石を投じるものであり、それぞれの自治体と医師会の判断にゆだねる考え方もあってよいのではないか。

 証明書を安易に求めるケースが増えれば、医療機関は発行業務に時間をとられ、流行拡 大で患者が押し寄せた時にはパンクしかねない。国の自粛呼びかけにはそんな懸念があった。その一方で、保育園は園児の密着度が高く、感染には人一倍神経を使う施設でもある。治癒証明を特定施設に認めるか否かは、その地域の感染状況や医療機関の混み具合にもよるだろう。国の一律的な指示に従うだけでなく、地域の実情に即して柔軟に対応することは新型インフルエンザ対策の大事な視点である。

 七尾市が計画した「登園許可書」は、インフルエンザに感染した園児が症状の治まった 段階で定型の許可書を持って医療機関を再受診し、医師に記入してもらう仕組みである。七尾市医師会は理事会で「許可書」発行を了承し、加盟医療機関に協力を求める予定だった。これはあくまで保育園に限った措置であり、他の施設が我も我もと発行を求めれば混乱を招きかねない。自治体が仮に実施するにしても、地域が定めたルールをしっかり守るのが前提である。

 ワクチン接種が段階的に始まり、予約受付の初日には1日で100件以上の電話が殺到 した小児科医院もある。本格的な冬の到来とともに患者が急増すれば、医療機関は多忙を極めるだろう。

 平日の診療時間延長や休日当番医の態勢強化に踏み切る地域も出てきた。医療を提供す る側が周到に準備を整えるなかで、「念のため受診」などはできる限り控えたい。新型インフルエンザは地域医療とそれを支える住民の連携を試しているとも言えよう。

◎金融法案の採決強行 独善的と言われぬように
 中小企業金融円滑化法案が衆院財務金融委員会で、野党の自民、公明両党が欠席のまま 強行採決され、与党と共産党の賛成多数で可決の上、本会議に緊急上程された。与党としては、今臨時国会の会期末が今月30日に迫っているのをにらみ、衆院採決のタイムリミットと判断したのであろうが、自公政権時代の強行採決や衆院再議決を「数の横暴」と批判してきただけに、実質的に1日だけの委員会審議で採決に踏み切るのはいただけない。

 鳩山政権にとって、現在の最重要課題は2010年度予算の編成である。景気の「二番 底」も心配される厳しい経済情勢を考えれば、年内に予算案をまとめ、来年3月末までに予算関連法案とともに成立させて、新年度入りとともに予算執行できるようにすることがきわめて重要である。

 予算編成の越年はなんとしても避けたいところで、そのために臨時国会の会期を延長せ ずに提出法案を仕上げ、閣僚が予算編成に集中できるようにしたいという与党の思いは、もっともである。

 それでも、国会審議の手順はきちっと踏む必要がある。鳩山由紀夫首相は今回の法案採 決について「国会が決める話だ」と述べ、民主党代表の立場では、党と国会運営の全権を小沢一郎幹事長にゆだねる姿勢をとっている。

 その小沢氏は政治手法においてかねて「独善的」「強権的」という批判を浴びがちだっ た。政権交代を実現させたいま、国会運営でそうした批判を招かないよう、強引なやり方は慎まなければなるまい。今回の事態では内閣と民主党の連携不足も指摘される。また自民党が求める党首討論を政府・与党が先送りしているのも、国民には合点のいかないことだ。

 中小企業金融円滑化法案の強行採決に至った背景には、国会同意人事である人事院人事 官の任命をめぐる与野党対立で法案の審議入りが1週間遅れたこともある。自民党は意気消沈する党の立て直しをめざして「戦う野党」の姿を見せようと懸命であるが、「健全な責任野党」としての振る舞いも忘れないでほしい。