「政治家同士の議論を」というのが民主党が掲げる国会改革のうたい文句である。与野党のトップが2人で議論を戦わせる党首討論はそのシンボルだろう。ところが、鳩山政権が発足して約2カ月、鳩山由紀夫首相と谷垣禎一自民党総裁との討論は一度も開かれていない。
一時、与野党で合意していた18日の開催は早々に見送られ、会期末(30日)を控えた来週25日も未定という。見送りの理由は法案審議を優先する民主党側の事情による。しかし、実際には鳩山首相が逃げているのではないか。そう見られても仕方がない状況だ。
今国会では政府提出法案の審議日程がなかなか固まらず、各法案の会期内成立が難しくなっているのは確かだ。このため、民主党は自民党に対し、法案の審議入りにめどがつけば党首討論に応じる姿勢を示している。つまり、党首討論は既に国会対策をめぐる駆け引きの道具と化しているといっていい。
だが、与野党党首が国の基本問題について論じ合うというのが党首討論の本来の趣旨だ。しかも、政権が交代した大きな節目で開催しないのは、その重要性を自ら否定しているに等しいではないか。
実はもっとほかに理由があるのではないかと疑いたくなる。
首相自身の「故人」献金問題は今も決着していない。その後も08年に株売却で得た所得を税務申告していなかった問題が発覚したのに続き、最近では首相の資産報告書などの記載漏れが判明し、総額5億円余相当に上る訂正をしたばかりだ。民主党が党首討論に消極的なのは、この問題を避けたいからではないのか。
早急に党首討論を開くべきだと考えるのは重要な理由がある。懸案となっている沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題だ。先の日米首脳会談後も、鳩山首相のこの問題に関する発言は日々ぐらついている印象だ。いつ、どんな形で決着させたいと首相は考えているのか。党首討論は論点を整理する格好の場となる。
鳩山政権側にもメリットはある。岡田克也外相は自民党政権がなぜキャンプ・シュワブ沿岸部(沖縄県名護市)に移設する現行計画に至ったのか検証したいと再三語っている。ならば、党首討論で自民党総裁である谷垣氏に、その経緯や、なぜ現行計画が最善かを鳩山首相がただし、議論を重ねればいいではないか。
「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)の小委員会が先にまとめた国会改革の提言には、党首討論を週1回定期的に開くことも盛り込まれている。与野党の駆け引きから離れて、最優先で開催するよう明確に制度化する時期だ。
毎日新聞 2009年11月19日 2時30分