食品衛生法違反行為と、契約の私法上の効力が問題になった二つの最高裁判決です。結論の違いがどこから来るか、考えてみて下さい。また、仮に無効とした場合、不当利得等による事後処理がどうなるのかも検討して下さい。
<食肉販売業無許可判決>(最判1960.3.18民集14-4-483)(参照、百選I7)
<事案>
・X会社はYに対して精肉を売り渡し。Yが代金の残りを支払わないので、Xが支払請求。
・Xは従来Yが代表取締役を務めるA会社と取り引きしていたが、A会社が代金支払を怠りがちのため取り引きは中絶。Yの懇請により、Y個人がXと契約。A会社は食品衛生法上の許可を受けているが、Y個人は許可を受けていない。
・1,2審はXの請求を認める。Yは、無許可営業との取り引きは無効であると主張して上告。最判は上告棄却。
<判旨>
「本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、上告人が食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。それ故右許可の有無は本件取引の私法上の効力に消長を及ぼすものではないとした原審の判断は結局正当であり、所論は採るを得ない。」
<有毒アラレ事件>(最判1958.2.25民集18-1-37)
<事案>
・XはYに対してアラレを販売し、Yは代金支払のため手形を引受、Xに交付した。
・アラレには有害な硼砂が混入していた。
背景の事情:Xはアラレに硼砂を使用することが有害なことを当初は知らなかつたが、新聞紙上で硼砂を使用したアラレの製造が食品衛生法により禁止されていることを知りこれを使用しないでアラレを製造する方法の研究を始めるとともに、上告人に対し当分アラレの売却を中止したい旨連絡した。しかしYは、「今はアラレの売れる時期だからどんどん送つて貰いたい、自分も保健所に出入りしているが、こちらの保健所ではそんなことは何も云つておらぬ、君には迷惑をかけぬからどんどん送つてほしい」と送品の継続を強く要請しその結果本件取引が行われた。
・Xは支払場所で手形の支払を求めたが拒絶されたので、Yに支払いを求め、出訴した。第一審は、「食品衛生法の規定は、専ら行政上の取締を目的とするものであって、これに違背するものには同条所定の制裁を科するに止り、その取引自体を当然無効とする法意ではない」としてYの無効の抗弁を退ける。第二審も結論を維持したので、Yは上告。最高裁は破棄自判、Xの請求を棄却。
<判旨>
「思うに、有毒性物質である硼砂の混入したアラレを販売すれば、食品衛生法四条二号に抵触し、処罰を免れないことは多弁を要しないところであるが、その理由だけで、右アラレの販売は民法九〇条に反し無効のものとなるものではない。しかしながら、前示のように、アラレの製造販売を業とする者が硼砂の有毒性物質であり、これを混入したアラレを販売することが食品衛生法の禁止しているものであることを知りながら、敢えてこれを製造の上、同じ販売業者である者の要請に応じて売り渡し、その取引を継続したという場合には、一般大衆の購買のルートに乗せたものと認められ、その結果公衆衛生を害するに至るであろうことはみやすき道理であるから、そのような取引は民法九〇条に抵触し無効のものと解するを相当とする。然らば、すなわち、上告人は前示アラレの売買取引に基づく代金支払の義務なき筋合なれば、その代金支払の為めに引受けた前示各為替手形金もこれを支払うの要なく、従つて、これが支払を命じた第一審判決及びこれを是認した原判決は失当と云わざるを得ず、論旨は理由あるに帰する。」