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事業仕分け―大なた効果を次につなげ

 国の予算案づくりの過程が、これほど多くの国民の監視の目にさらされたことは、かつてなかった。

 歳出の無駄を洗い出す行政刷新会議の事業仕分けの前半が終わった。マスメディアを通じて作業の様子が連日伝えられ、ウェブ中継へのアクセスはピーク時で2万4千件に及んだ。

 税金の使途に対する世論の視線が、それだけ厳しいことの反映でもあろう。鳩山由紀夫首相は仕分けを尊重し、対象外の類似事業にもメスを入れるなど、予算案決定に向けて無駄の排除と効率化を徹底してほしい。

 今回の経験で、民主党のマニフェストの実行に必要な予算を事業仕分けだけでひねり出すのは難しいということも、明らかになった。

 「廃止」「来年度の計上見送り」とされたのは46事業計1500億円。埋蔵金の国庫返納や予算規模縮減を含めた総額は1兆円規模となる。

 95兆円に膨らんだ概算要求の削減目標は約3兆円である。来週行われる仕分け後半の成果を見込んでも、達成は容易ではない。しかも、埋蔵金は一度使えば次年度からは当てにできず、恒久財源にはなりえない。

 マニフェストを初年度に、どこまで実現するのか。鳩山政権はいよいよその優先順位を決めなければならない局面にきたといえる。

 事業仕分けに対しては、「短時間の議論で結論を出すのは乱暴だ」「仕分け人は現場を知らない」「廃止や見直しの結論ありきではないか」といった批判がある。

 とりわけ、引きこもりなどの若者の就職を支援する「若者自立塾」や、子どもに読書や自然体験をさせる「子どもゆめ基金」の廃止には、現場の関係者から存続を求める声が出ている。

 確かに、教育や福祉、科学技術などは、費用対効果の物差しだけでは単純に割り切れない分野である。

 多少の副作用もあろうが、そのくらいの大なたをふるわないと、自民党の長期政権時代のしがらみを断ち切るのは難しいということでもあろう。

 本当に政府が面倒をみなければいけないのか。自治体や民間に任せられないか。行政サービスのあり方を根本から考えようとした事業仕分けの意義は大きい。そのうえで、なお必要だというなら、効果的な手法を工夫して存続させる道はあってもいい。

 首相は今回のような事業仕分けは今年限りとする考えを示している。今回の対象が国の全事業の約15%に過ぎないことを考えれば、一度はすべての事業の総ざらえが必要ではないか。

 何より、全面公開で行われる事業仕分けは、霞が関の官僚の意識改革や納税者の参加意識の向上にもつながるに違いない。来年以降の予算編成にも、何らかの形で生かしてもらいたい。

党首討論―情けない首相の逃げ腰

 政権交代から2カ月あまり。鳩山政権は10年度予算編成に向けて、自公政権下でとられてきた政策を次々に見直そうとしている。

 麻生政権による補正予算の全面見直し。八ツ場ダムの建設中止。行政刷新会議の事業仕分け。米軍普天間飛行場の移設についても、日米で合意した計画の見直しを含めて「検証」を進めている。

 なぜ、政策の大規模な変更なのか。どう実現するのか。鳩山由紀夫首相は説明責任を負っている。

 下野した自民党の谷垣禎一総裁はどう反論するのだろうか。過去の党の政策をどう評価するのか。自民党の新しい道は何か。今ほど、有権者が両氏の主張のぶつけ合いを聞きたいと思っている時はないだろう。

 ところが、両氏による党首討論がこの国会で開かれるのかどうか、怪しい状況になってきた。当初、与野党は初の討論をきのう開く方向で話してきたが、結局、政府与党が応じなかった。谷垣氏の自転車事故の前から、きのうの党首討論の可能性は消えていた。

 一部の閣僚が公務で出席できないから、というのが言い分だ。確かに、討論には全閣僚の出席を原則とするという与野党の申し合わせがあるが、拒む理由としては納得しがたい。

 党首同士がやりあうのに、なぜ全閣僚の出席が必要なのか。与党は申し合わせをたてに討論を避けた、と言われても仕方あるまい。

 討論は原則として水曜日に開くという申し合わせもある。そうすると次の機会は25日だが、自民党の開催要求に政府与党はまだ応えていない。政府与党は30日までの会期中に開かなくてよいと考えているのだろうか。

 閣僚が欠席したとしても何の不都合もないし、開催日をずらす手もある。野党時代、民主党は討論の開催を強く要求してきた。与党になったとたんのこの不熱心さは、なんとも説得力を欠く。政府与党は速やかに党首討論を実現させるべきだ。

 予算編成に集中するため国会の会期延長は避けたい。法案処理が最優先なので時間がとれない。そんな解説は理由にならない。討論はわずか45分間という慣行なのだから。

 自らの政治資金疑惑や政府内の足並みの乱れを突かれたくないからではないか。討論を避ければ避けるほど、そう言われるのを首相は覚悟しなければならない。

 所信表明演説で「真に国民のためになる議論を力の限り、この国会でぶつけ合っていこうではありませんか」と呼びかけたのは首相だ。

 この国会を逃すと、党首討論の機会は来年の通常国会までなくなる。歴史的な政権交代を果たしたというのに、そんな怠慢は情けない。

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