宮森さんのエアチェック情報

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No.84 (2007年6月28日) 

今年の夏は雨不足が心配されるとのことですが、次第に蒸し暑さも加わり通勤がしんどくなってきました。皆さんにおかれましてはいかがお過ごしですか。スタミナをつけて今から夏ばて予防に努めましょう。11月公演予定の「ドイツレクイエム」が来年の4月に延期され、やや拍子抜けしているかたもおられることと思います。僕は逆に、この機会にじっくりとこの曲に取り組み、ドイツ語も含めて体に染込ませたいと考えております。
さて、7月のTV番組では有名オーケストラの公演が多いようです。イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団70周年記念演奏会やサンクトペテルブルグ交響楽団、それに29日のNHK
教育のオーケストラの森でシュナイト先生の指揮による神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏が紹介されます。声楽では8日深夜にある「グレート3テナーズ・ガラ・コンサート」が注目されます。新3大テナーの登場です。ご期待ください。

 7月の推薦TV/FM番組 
 
◎1日(日)BSU24:55〜3:59 クラシック・ロイヤルシート
 ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団70周年記念公演、他
 ピアノ;バレンボイム 他、曲;ブルッフ「アヴィオリン協奏曲」第1番、他
 *ブルッフのヴァイオリン協奏曲が3番まであったとは知りませんでした。

○5日(木)BSU10:55〜11:50 クラシック倶楽部
 ザ・ジェンツ(男声声楽アンサンブル)コンサート 指揮 ペーター・ダイグストラ
 曲:シューベルト:夜、他

○6日(金)BSU10:00〜11:39 クラシック倶楽部
 N響定期演奏会 指揮;アシュケナージ 曲;ベートーベン「田園」、他
 *アシュケナージはN響とベートーベン交響曲チクルスをすすめています。

○6日(金)NHK教育22:25〜24:40 芸術劇場
 宮崎国際音楽祭 指揮;シャルル・デュトワ ピアノ;ジャン・フランソワ・エッセー他 
 曲;ファリャ:交響的印象「スペインの庭の夜」、他
 *この音楽祭はもともとアイザック・スターンを中心としたのですが、最近はデュトワが主役。

◎8日(日)BSU24:55〜3:59 クラシック・ロイヤルシート
 グレート3テナーズ ガラ・コンサート 東京交響楽団、東響コーラス
 指揮;ニコラ・ルイゾッティ  ニール・シコフ、ジュゼッペ・サバティーニ
 ヴィンチェンツォラ・スコーラ

○12日BSU10:55〜11:50 クラシック倶楽部
 ロザリンド・プロウライト メゾ・ソプラノ リサイタル ピアノ;ピーター・クロックフォード 
 曲;ヴェルディ:誘惑、他

○13日(金)BSU10:00〜11:39クラシック倶楽部
 九州交響楽団演奏会 指揮:秋山和慶 東京フィルハーモニー交響楽団
 曲;グリンカ:歌劇「イワン・スサーニン」序曲、他 *僕の福岡時代には指揮者は小泉さんでした。

◎15日(日)BSU24:55〜3:59 クラシック・ロイヤルシート
 指揮;ユーリ・テルミカーノフ  サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団演奏会2006  ピアノ;エリソ・ヴィルサラーゼ 合唱;東京オペラシンガーズ、 曲:リャードフ「キキモラー民話」、他

○19日(木)BSU10:55〜11;50 クラシック倶楽部
 ザ・タロー・シンガーズ ア・カペラの世界 指揮:里井宏次 曲;武満徹:小さな空、他

○ 20日(金)BSU10:00〜11:39クラシック倶楽部
セントラル愛知交響楽団演奏会 指揮;小松長生
曲;グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲、他

○20日(金)HNK教育22:25〜24:40 芸術劇場
 ・海外情報 大野和士スカラ座デビュー 
*最近ヨーロッパでの大野さんの人気は大変なものです。
 ・特集 ジュリアード弦楽四重奏団61年目の響き

○22日(日)NHK教育 21:00〜22:00 N響アワー
 もっと知りたい  メロディの歌い手 孤高の響き〜フルート奏者 
神田寛明 (N響首席フルート奏者)
曲;ベートーベン :交響曲第6番「田園」から第2楽章、他

○22日(日)24:55〜4:55 クラシック・ロイヤルシート
 BBCプロムス2006公演 ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」
 指揮;アントニオ・パッパーノ  プラシド・ドミンゴ、他 コヴァントガーデン歌劇場管弦楽団 *パッパーノは現在「リング」の全曲録音中。次代の最高のオペラ指揮者としてきたいされている。

◎29日(日)NHK−FM 14:00〜18:00 海外オペラアワー
 [1]ロッシーニ:歌劇「アルジェのイタリヤ女」
  オリガ・ボロディナ(メゾ)、ファン・ティエゴ・フローレス(テノール)、他
[2]スウェーデン放送合唱団 指揮フレデリク・マルムベルグ
   ロッシーニ、ヴェルディ、ベリオなどの合唱曲(2007年2月ストックホルムでの演
*世界最高の合唱団の最近の演奏会からの録音です。

◎29日(日)NHK教育21:00〜22:00 オーケストラの森
 神奈川フィルハーモニー管弦楽団演奏会 指揮;ハンス・マルティン・シュナイト
 曲:ブリテン:シンプル・シンフォニー、他

○29日(日)24:45〜3:59 クラシック・ロイヤルシート
 リヒテル 〜謎のピアニスト〜 *同名のDVDが出ています。

 今月この一冊

○今井信子著 「憧れ ヴィオラとともに」春秋社

 いまやヴィオラ奏者として世界的第一人者となった今井信子さんの自伝です。
ヴィオラという楽器は、ヴァイオリン奏者が片手間に弾くものと思い勝ちですが、昨今のヴィオラの地位は頗る向上しており、ユーリ・バシュメットなどヴィオラ一本で
 音楽活動を続ける音楽家も出現しております。日本人でも今井信子さん以外に、あのベルリンフィルの首席ヴィオラ奏者として清水直子さんががんばっております。
 今回の出版と並行して今井信子さんのCD「祈り Blessing」が発売されました。
 ヘンデルの「私を泣かせてください」が細川俊夫の編曲で演奏されています。そのほか武満徹、西村朗、林光、野平一郎など、日本人作曲家の曲が取り上げられております。とても聞き応えのある選曲です。


○「MOSTLY CLASSIC」8月号 巻頭言  黒田恭一の感動道場


 「ポートレート」と題された若手女性ヴァイオリニストのヒラリー・ハーンのDVDを見ての感想が述べられております。僕が日ごろ感じていることをズバリ語ってくれているので嬉しくなった次第。
「ヒラリー・ハーンは、どんなに難しいフレーズでも、表情ひとつ変えることなく、さらりと弾いてのける。近年は、悲しい音楽をひくときに悲しげな顔をしてみたり、演奏のフ難しい部分で苦悶をあらわにしたりと、音楽の絵解きを表情でしてみせる演奏家が少なくない。演奏中のヒラリー・ハーンは悶絶寸前といった、はしたない表情はしない。それでいて、どのような作品でも、彼女の演奏はいうべきことを充分いいきっていて表情ゆたかで、しかも美しい。」 
 お隣の国の某女性ヴァイオリニストや、日本人で世界的に有名な某女性ピアニストの顔が浮かびますね。さてどなたかな?


No.83 (2007年5月31日) 

5月もまもなく終ろうとしておりますが、皆さんのゴールデン・ウィークはいかがでしたか。ぼくは正にコンサート三昧でした。国際フォーラムを中心とする「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン『熱狂の日』音楽祭」は今や完全にゴールデンウィークの風物として定着した感じです。今年のテーマは「民族のハーモニー」でした。これまでの統一テーマ、「ベートーベン」、「モーツアルト」と較べるとやや焦点の絞りの甘さが懸念されていましたが、蓋を開けると全くの杞憂で、66万人が動員されました。来年のテーマは「シューベルトと仲間たち」。今から楽しみです。
それでは今月のTV/FMの番組から、独断と偏見で興味のあるプログラムをピックアップしてご紹介いたします。今月の目玉はNHK/FMで25日夜のベスト・オブ・クラシック「スウェーデン放送合唱団演奏会」、モーツアルトとフォーレのレクイエムです。昨年12月のオペラシティでの公演。バックはオルガンだけという省エネ版です。

 6月の推薦TV/FM番組 

○1日(金)BSU10:00〜11:39 クラシック倶楽部
 N響定期 指揮ロレンス・フォスター ピアノ:ルドルフ・ブッフビンダー
 曲;ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」、ほか

◎1日」(金)NHK教育22:00/24:40 芸術劇場
 別府アルゲリッチ音楽祭 指揮・出:ユーリ・バシュメット(ビオラ)
 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)、桐朋学園オーケストラ
 曲:ブラームス「クラリネット五重奏曲」ほか
 *教育TVの芸術劇場が以前の日曜の夜からこちらに移ったようです。
 *アルゲリッチはこの桐朋学園オーケストラを高く評価しているらしいです。

◎3日(日)BSU24:00/3:59 クラシック・ロイヤルシート
 @サイトウ・キネン・オーケストラ演奏会2006、他
 指揮 小澤征爾 曲;武満徹 ディスタンス 笙 宮田まゆみ  ベートーベン 「ピアノ協奏曲第5番 "皇帝"」ピアノ:内田光子、 ショスタコーヴィッチ「交響曲第5番」
 A「証言ドキュメント 教育者、斉藤秀雄の真実」 *まさにサイトウ・キネンだらけですね。

○4日(月)BSU10:55/11:50 クラシック倶楽部
 スウェーデン王立男声合唱団「オレフェイ・ドレンガー」
 指揮;ローベルト・スンド ピアノ;フォルエケ・アリーン
 曲:ベルマン;オルフェイ・ドレンガー賛歌、ほか

◎5日(火)BSU10:55/11:50 クラシック倶楽部
 エマ・カークビー(ソプラノ)&ロンドン・バロック演奏会
 *バロックソプラノの大御所エマ・カークビーです。是非お聞きください。彼女のもともとの経歴は音楽専攻ではないのですが、指揮者のガーディナーなどもふくめ、英国にはこの手のキャリアの音楽家が結構多いですね。ゆとりを感じます。

◎6日(水)BSU10:55/11:50 クラシック倶楽部
 クレマン・ジャヌカン・アンサンブル 曲:アルカデルト;聖母ミサ曲からキリエ
 *この合唱団もルネサンス・バロック音楽専門の合唱団です。

◎8日(金)BSU10:00/11:39クラシック倶楽部
 N響定期(5月公演) 指揮;ロレンス・フォスター ピアノ;小菅 優
 曲;エネスコ:ルーマニア狂詩曲第1番、ほか
 *最近若手ピアニストの活躍ぶりが目覚ましいものがあります。小菅優もその一人です。
  ベテラン勢もチャーミングなピアニストがたくさんいます。小川典子、田部京子などなど。

○10日(日)NHK教育 21:00/22:00 N響アワー
 没後100年 ヨアヒムの功績 指揮;ロレンス・フォスター
 出;ヘンリク・シェリング 曲;ベートーベン「ヴァイオリン協奏曲」、ほか
 *名ヴァイオリストであるヨアヒム特集です。ヘンリク・シェリングの端正な演奏振りが懐かしいです。

○11日(月)BSU10:55/11:50 クラシック倶楽部
 クラシック・アーカイブ ピエール・フルニエ(チェロ)、フィルヘルム・ケンプ(ピアノ)
 曲;ベートーベン「ピアノソナタ第17番"テンペスト"」
*まさにアーカイブらしい組合せです。僕の青春時代が甦る組み合わせです。

◎14日(木)BSU10:55/11:50 クラシック倶楽部
 クラシック・アーカイブ
 ダビッド・オイストラフ(ヴィオリン)指揮;ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー
 モスクワ・フィルハーモニー交響楽団、ほか 曲;ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」、
 *オイストラフは20世紀を代表する名ヴァイオリニスト。僕のメンコンの初耳がオイストラフでした。

◎15日(金)BSU22:25/24:40 芸術劇場
 メトロポリタン歌劇場 ガラ・コンサート 指揮;ワレリー・ゲルギエフ
 ウォルビー前総支配人 引退記念ガラ・コンサート
 *メト関係歌手達が総出で、引退記念ガラを盛り立てております。完全保存版?

○17日(日)BSU24:55/3:59 クラシック・ロイヤルシート
 ドキュメンタリー「バレンボイムと若者たち」、ほか

○22日(金)BSU 10:00/11:39 クラシック倶楽部
 N響定期 6月公演 指揮;ウラジミール・アシュケナージ
 出:デーヴィッド・コーエン(チェロ) 曲;デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」、他

○24日(日)BSU24:55/3:59 クラシック・ロイヤルシート
 パリ・オペラ座公演 レオ・ドリープ:バレエ「シルヴィア」、ほか
 指揮;ポール・コネリー 出;マニュエル・ルグリ(アミンタ)、他

◎25日(月)NHK/FM 19:30/21:10 ベスト・オブ・クラシック
 スウェーデン放送合唱団 指揮;トヌ・カリュステ
 曲;モーツアルト:レクイエム  フォーレ:レクイエム
 (2006年12月6日 於 東京オペラシティホール)

○29日(金)BSU10:00/11:39 クラシック倶楽部
 N響定期 指揮;ウラジミール・アシュケナージ ピアノ;清水 和音
 曲;ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番、ほか

今月この一冊

「天才の育て方」五嶋 節著 〜アホンダラ神童!くそったれ天才!
         五嶋流「体当たり教育論」       講談社新書

世界的に活躍しているヴァイオリニストの五嶋みどりと弟君五嶋龍君を育てたお母さんのお話し。
著者の節さんご自身が音楽学校出身であり、オーケストラでも活躍した実績をもっていますので、娘のみどりさんや息子龍君のバイオリン教育面での関わりは普通のお母さんとは音楽的ベースが違います。一方それだけにみどりさんや、龍君にとっては普通のお母さんとしての節さんを求めていたのかも知れません。あのみどりさんが22,23歳のころに鬱病と拒食症にかかったというのも、その辺の「普通ではない」お母さんの被害者なのかもしれません。
子供の教育、ことに専門的な技術を要する音楽教育を考えるのに、何らかのヒントを与えてくれるのではないでしょうか。節さんはかなり前に「母と神童」とのタイトルで、みどりさんとの米国での二人三脚の奮闘振りについて詳細に語っておりましたが、この本はその延長線上にあるものと思われます。ただし、ひとつ疑問があります。家族の中核メンバーたるべき父親が全く登場しないのです。おかしいと思いません?



No.82 (2007年4月26日)


今月この一冊

オーボエとの「時間(とき)」  宮本文昭   時事通信社

去る3月31日をもって、オーボエ奏者を引退した著者が綴った「僕とオーボエの汗と涙と笑いに充ちた軌跡」。お父さんが有名なテノール歌手である宮本正氏、お母さんはこれまた中学校の音楽教師という家庭環境。しかしながら彼がクラシック音楽に目覚めたのは全くの偶然で、中学生になりたてのころ、日比谷公会堂で「第九」を歌っていたお父さんへ届け物をしに行って、そのとき「第九」の合唱部分が耳に飛び込んで来ていらい、クラシック音楽に取り付かれた。それまで将来なにをしようか、全く方向を見出せずにいただけに、一端これだと決めたらその後の対応は極めて俊敏で、声楽は
悪声なのでダメ、ピアノは3歳でギブアップ、弦楽器は始めるには遅すぎる、しからば管楽器か。公営住宅では金管楽器は練習するに問題あり、しからば木管か。フルートは競争が厳しそう。残るのはオーボエかファゴット。ここでオーボエに決めたのはファゴットの値段が高いこと。という訳でオーボエと取組むこととなったのが中学2年生の終わり頃。芸大付属高校の入試ニ失敗、桐朋学園高校音楽部にもぐりこむ。その後高校三年の時にかの有名なオーボエ奏者で指揮者でもあるヘルムート・ヴィンシャーマンのコンサートを聴く。何としてもこの人に教わりたいとの念にかられ、同氏に直接手紙で弟子入り希望を申しいれる。しばらくして「ドイツにいらっしゃい」との返事を受け取る。まるでドラマのような展開です。その後ヴィンシャーマン氏は著者の音楽人生の節目節目で手助けしてくれることとなる。著者がそこいらの落ちこぼれと違うところは、高校では一般の履修課目が嫌いで、落第生ではあったが、ドイツ語だけはしっかりまじめにフォローしたとのこと。お陰で、ドイツ生活に飛び込んでも何とかこなしていけたらしい。ニッチ科目にエネルギーを集中するのもひとつの賢明なやりかたかも知れません。
そのほかドイツでのオーケストラのオーディションの様子や、管楽器の一番奏者と二番奏者の違いなどについて解説があり、今後オーケストラを聴くに際して大変有益です。
勿論今回現役奏者からの引退するに至った心境や、今後の方向についても述べられています。またご家族のことにも少しですが触れられており、微笑ましく読みました。下のお嬢さんがヴァイオリンニストを目指しておられるようです。ともあれこれからも大いに音楽の世界で羽ばたくこと、間違いない著者だけに現役引退というエポックに是非一読をお勧めいたします。

No.81 (2007年3月29日)   

 

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No.80 (2007年3月1日)

今月この一冊

○「バロック音楽名曲鑑賞事典」磯山雅著 講談社学術文庫(960円)

事典というよりは磯山先生のお好み曲集といった感じで、気軽に読めます。丁度100曲をピックアップして解説と聴きどころを紹介しております。対象となる時代は1600年から1750年頃
までとしています。100曲中、やはりバッハの曲が圧倒的に多く22曲となっています。ついでヘンデルが6曲、モンテヴェルディが5曲と続き、ヴィヴァルディ、シュッツ、ラモーが3曲
となっています。磯山先生のお気に入りのCDやDVDが紹介されておりますので、これからバロック音楽を重点的に勉強してみたいと思っている方には大変便利な手引きになるのではないでしょうか。勿論バッハの声楽曲では「マタイ」、「ヨハネ」、「ロ短調ミサ」、「マニフィカート」もとりあげられております。先生曰く「《マタイ》のメッセージで一番大切なのは、イエス
を十字架につけた本当の犯人はユダでもピラトでもユダヤ教の聖職者たちでもなく、われわれの心の罪だ、とうことである。心の内面を見つめ、その罪を自覚して生きるべきことをわれわれに訴えてくるのである。他人を批判して争いを繰り返す現代人にとてって、これはキリスト教を離れても意味深い考えだと、私は思っている」是非一読をお勧めします。
磯山先生がわれわれの「マタイ」を聴きに来てくれるかもしれませんよ。頑張りましょう!

No.79 (2007年1月25日)

今月この一冊

○「王様と私」 ハーバート・ブレスリン/アン・ミジェット 相原真理子訳

 といっても映画の話ではありません。あの「世界のテナー」のパヴァロッティのマネジャーとして36年間仕えた男の自叙伝です。著者自ら語っております、「友人、時には敵、そしてマネジャーだった私が栄光の王座に就いたパヴァロッティの私生活を修正なしで公開する」。話が具体的で、ご当人のパバロッティのことは勿論のこと、ハーバートがマネジャーとして手がけた様々な歌手が登場いたします。最近この手の内輪物が大いに売れているようです。先月号でもご紹介したメトの支配人の内輪話などもその類ですね。パバロッティの駆け出しの頃に、大物になると目を付けた著者のハーバートの慧眼には恐れ入ります。音楽の世界は見かけよりもはるかにどろどろしています。かのソプラノの大御所であるサザーランドは自分より体格の良いテナーの出現に大喜びで、パヴァロッティのキャリア構築に大いに手を貸しております。ところがだんだんパヴァロッティが主役をとるようになると、嫉妬や妬みが出てきます。人間劇場の様相を呈してきます。またパヴァロッティの女遍歴が赤裸々に語られております。糟糠の妻と数年前に離婚するに至った経緯もたっぷりと語られています。それにしてもパヴァロッティの体重は凄いらしいですね。いつまで舞台で歌ってくれるのでしょう。最後に筑紫哲也氏の推薦文をご紹介します。「『天真爛漫』」にして抜目なし。矛盾に充ちた、愛すべき『王様』の姿が余すところなく描かれていて、読み出すとやめられない。『王様』は裸になっている!」。 それでは2,940円と少々お高いですが、どうぞご一読ください。

No.78 (2006年12月21日)

メトロポリタン歌劇場 探求

〇「史上最強のオペラ」というタイトルで最近メットの総支配人の座から降りたジョセフ・ヴォルピーが書いた内幕物を読みましたが、これが頗る面白い。自伝でもあり、またメットの内部事情を赤裸々にニの下にさらしたドキュメンタリーでもあり、そこには音楽家同士の壮絶なまでの葛藤や嫉妬や権力闘争がありますが、中でも群を抜いて惹きつけられるのは、メット内部での演出家と指揮者の対立と歌手と演出家・指揮者とのぶつかりあいです。勿論すべて実名ですので頗る迫力があります。ピカイチは有名なキャスリン・バットル追放事件です。事細かに経緯が曝されております。どうも彼女はある面では性格障害者だったのではとすら思われる節があります。

 そのほかメット乃至ヴォルピ氏のフェイヴァリットはルネ・フレミングやカリタ・マッテラ等です。また似合いのカップルと見られているロベルト・アラーニヤとアンジェラ・ゲルギュもあまり評判がよくありませんね。
 ともかく2005〜2006シーズンにはメットの歌手名簿に載っている歌い手の数はソプラノ、81名、メゾソプラノ47名、カウンアーテナ4名、テノール76名、バリトン54名、バスバリトン34名、合計313人であり、この数は総支配のヴォルピー氏が就任した1990年と殆ど同じ数とのこと。競争の激烈さが感じ取られます。この中に現在世界でトップクラスの馴染みの歌手達が大勢います。

 意外なのはチェチールア・バルトリとホセ・カレーラスがメットをあまり得意としていないそうです。彼らの声質的がメットのホールの大きさには少し無理があるそうです。
メトロポリタン歌劇場に関しては2003年カワイ出版が出した「帝国メトロポリタン歌劇場〜桟敷をめぐる権力と栄光〜(上下)」が参考になります。
また映像では1983年10月に行われた「メトロポリタン・オペラ・センテニアル・ガラ・コンサート」のDVDが出ているほか、「メトロポリタン歌劇場移転25週記念ガラ・コンサート」(1991年)、「ジェームズ・レヴァイン メト・デビュー25周年記念ガラ・コンサート」(1996年)などがあります。  
 
これらを読み且つ見れば貴方は間違いなくメトキチになるでしょう。
それでは皆さん、どうぞ良いお年をお迎えください。1月6日に会いましょう!

No.77 (2006年11月30日)

No.76 (2006年10月27日)

10月の演奏会レビュー

10月は河野克典さん、田島茂代さんのドイツリートの演奏会がありました。10日東京文化会館小ホールで野平一郎氏のピアノで河野さんのシュベルト「白鳥の歌」、他のリートの夕べがありました。とても張りのある朗朗とした歌声で、ドイツリートの醍醐味を堪能しました。野平さんとは2001年にも同じ「白鳥の歌」をCDリリースしています。ますます息があってきたようです。
そして13日には紀尾井ホールで田島茂代先生のリートのリサイタルがありました。シューベルトやR.シュトラウスの有名なリートに加えてシューマンの歌曲集「女の愛と生涯」がしっとりと歌われました。圧巻は橋本邦彦作曲の「舞」でした。「曽根崎心中」のお初が乗り移ったかのような名調子・大熱演でした。またライナー・ホフマン氏のピアノ伴奏が実に見事に田島茂代さんの世界に寄り添っていました。益々彼女の次回の演奏会が楽しみに待たれます。

No.75 (2006年9月28日)


(財)三菱信託芸術文化財団 音楽賞贈呈式並びに助成先の紹介式典

・去る9月15日東京會舘ゴールドルームで開催されたこの式典にシュナイト先生、大西団長、大井さん、吉川さん、大矢さんとともに出席しました。
・選考委員長の畑中良輔先生は勿論、指揮者の若杉弘さんも会場に顔をみせてシュナイト先生とビッグハッグをしていました。畑中先生はドイツ語でシュナイト先生と話をされておりました(従って話の中身は??)。中野財団理事長にもしっかりとシュナイト先生を紹介し、印象を強くしておきました。
・ 今回オーケストラ部門では、シュナイト・バッハ合唱団を含めて7団体が助成を受けました。
・ 助成を受けた団体の中から公演年度を終えた次の年に、音楽賞と音楽賞奨励賞が与えられます。今回は2005年度公演分で奨励賞2団体、音楽賞1団体が受賞しました。
・ 2006年度分は64団体が助成を受けました。この中から選ばれます。こちらの選考も助成の選考委員会メンバーが行うようです。選考委員長は畑中先生です。
・音楽関係者150名ほどが出席しておりました。挨拶や各団体の紹介で時間をとられシュナイト先生はややお疲れのご様子でした。        以上ご報告まで。

No.74 (2006年8月31日)

今月お勧めのCDこの1枚

「愛と祈り〜歌いつがれる日本の歌」 メゾ・ソプラノ 栗本尊子 CMCD-28110 2940円

 なんと言っても86歳にはとても思えない見事な歌声です。あの畑中御大も絶賛しております。僕が中学生の頃の「音楽の友」で、その頃既に栗本女史はメゾ歌手の大ベテランとして紹介されておりました。また同じ頃の新人紹介欄ではヴァイオリニストでは潮田益子さんとか、チェリストの堤剛さん、声楽家では成田絵智子さん、作曲家の三善明さんなどがインタビューされていた記憶があります。その新人達は今やそれぞれの分野で大ベテランになっています。
 
ところでこのCDはきっとヒットすると思います。全国の「ママさんコーラス」のご年配の
 ご婦人メンバーにとって大変大きな応援になること間違いなし。僕も早速ワイフに買ってやりました。馴染みの曲が沢山あり、とても聞き易いプログラミングです。是非お聞きください。
畑中良輔先生のこのCDへの添え書  「〜栗本尊子の声は、日本音楽界の奇跡です!!
・ ・栗本尊子さんの歌を聴いたのは、私が東京音楽学校に入学した昭和15年、まだ新学期早々の5月25日、普通「土曜演奏」と呼ばれる学友会館第125回演奏会が最初である。
丁度66年も昔の事となる。演奏の不思議と言おうか、音はその瞬時に消えるものだが、心に刻まれた演奏はその人の心に永遠に残り続け、人に伝えられるものだ。60数年経った今もなお、チャーミングな歌と大輪の花は、健在である。何という奇跡であろうか!」

No.73 (2006年7月27日)

今月の一冊

「MOSTLY CLASSIC」9月号  特集 追悼 岩城宏之
 30ページにわたる岩城さんの特集記事が大変読み応え・見ごたえがあります。これまでの岩城さんの足跡の偉大さを改めて認識しました。続いてのページに「小澤征爾 再始動!」、「独占インタビュー」があります。どちらも必読です!。

宇野功芳の「クラシックの聴き方」 宇野功芳著 音楽の友社 1,600円
 宇野節で有名な著者の生い立ちを初めて知りました。お父さんがなんと漫談で有名な牧野周一とは全く知りませんでした。まるで小説を地で行くが如きの青春時代の荒波。
国立音楽大学にもぐりこんだ後も、声楽志望なのにカリスマ事務長で有名な有馬大五郎から指揮科への進路変更を勧められたり、更には早くからの評論活動が注目され放送局にスカウトされるなど、愉快な話がびっしりです。
 この本はクラシックの案内書というよりは、宇野功芳自身のクラシック音楽に対する姿勢といった感じです。ベートーベンの交響曲を中心とするSP時代からの名指揮者の演奏について、例のごとくバッタバッタと罵倒するのはいつものとおりですが。

音楽の旅人―ある日本人指揮者の軌跡 山田治夫 春秋社
 サブタイトルに小澤征爾徹底分析とあるように、生い立ちから始まりこれまでの指揮者経歴と
 それぞれのオーケストラとの演奏曲目を徹底して洗い出しております。小澤ファンには必読。 

No.72 (2006年6月29日)

今月の一冊

「近衛秀麿―――日本のオーケストラをつくった男」  大野 芳著 講談社 1,900円

 400ページにわたる大変な力作です。しかしながら20世紀の第3四半期までの
日本の音楽世界を知る意味で大変興味深く、一気に読めました。
近衛文麿・秀麿兄弟と山田耕筰を軸にして、話が進められますが、それぞれの利用価値を巡り生臭い人間像が浮き彫りにされています。ことに山田耕筰については本妻の露骨すぎる侮蔑と恨みがぶつけられており、耕筰さんの歌曲に夢を託して勉強している多くの声楽家にとっては大変ショックな記述が見られます。
それにしても「英雄何とやら」、秀麿さんも艶福家ですね。正妻のほかに3人ほどの
女性と一緒になり、子供さんももうけております。
それはさておき、日本のオーケストラの揺籃期において秀麿が果した役割は大変大きく、又
日本人として1924年にはベルリンフィルで指揮者デビューし、1930年頃にはかのフルトベングラーと交流するなど、スケールの大きな活躍をしてます。シャリアンピンやストコフスキー、さらにはクレンペラー、シベリウスなど世界的に著名な音楽家との交流のほか、日本人では数知れないほどの
音楽関係者との密度の深いかかわり方をしています。
思うに名門近衛家の財力と華族としての地位が欧州での活躍に大いに有効に作用したのかも知れません。近現代日本史を整理する意味でも是非一読をお勧めします。

「岩城音楽教室」――美を味わえる子供に育てる 岩城宏之著  智恵の森文庫
 ヤマハで評判になっていました。岩城さんの音楽教育に対する本音が出ています。

No.71 (2006年5月25日)


「熱狂の日」音楽祭2006 モーツアルトと仲間たち
僕が聞いたモツレク2公演とハ短調ミサ2公演ではソプラノのソリストに東洋人が迎えれており、
しかも大変印象に残る好演でした。ミッシェル・コルボが起用している谷村由美子はすっかりコルボのお気に入りの様子です。ノイマン指揮のハ短調ミサでは韓国人のヒョン・ミョンヒがソプラノで大健闘。素晴らしい歌いぶりでした。カリユステ指揮でも韓国人のソプラノが起用されており、東洋系の女声がモテモテの様子です。どういうわけか男声で起用されている
ケースは少ないようです。世界の指揮者たちは東洋系の女性に弱いのかもしれません。

No.70 (2006年4月27日)


今月のこの一冊

〇ルネ・フレミング 魂の声 〜プリマドンナができるまで  春秋社
 いまやメトロポリタン歌劇場のプリマとして大活躍中のルネ・フレミングの「声の自伝」です。彼女いわく「これは、私がいかにして自分の声を発見したか、いかにして声を磨き上げたか、そして、それがいかに私自身をも磨くことになったかという物語である」。
ニューヨーク州ロチェスター近郊で両親が音楽教師の家庭に生まれた彼女は幼少の頃から声楽家になると思い定めていたらしい。また言葉をおぼえるより歌い出すのが早かったとのこと。まさに栴檀は双葉より何とやら、である。
この本の魅力は何と言っても彼女の「声の自伝」、つまり彼女の声の訓練、習った先生の指導方法、先輩歌手たちの助言、ETC、声にいかにして磨きをかけるか、極めて具体的な体験が綴られています。したがい現在ソプラノ・パートを歌っておられる方がたにはきっとヒントになることが一杯あると思います。
ジュリアード時代の恩師、ビヴァリー・ジョンソンとの関係は彼女の現在にとって実に大きな貢献をしたことがわかります。ブレスの大事さを徹底して仕込まれたようです。それは3段階に分けられ、第一に息を吸って肺の容積と身体全体を効果的に使うにはどうするか。次に息を吐くことをコントロールするにはどうするか。そして息を使って声を保つにはどうするか。それぞれ、最善の方法を身につける必要があるというものです。
とはいっても言うは易く行なうは難しい。
 

No.69 (2006年3月30日)

今月の一冊

〇「作曲家・武満徹との日々を語る」 武満浅香 聞き手・武満徹全集編集長

 武満徹没後10年を迎えての出版。誠に時宜を得たまた読み応えのある一冊であります。
 浅香さんのお人柄が醸し出す、徹さんとの交流の叙述がなんとも微笑ましく、また 頼りがいのある奥様だった様子が覗われて微笑を誘われます。そして何といっても戦後間もない頃の日本の音楽界、なかんずく作曲の世界を巡っての話題がびっちり詰まっております。 黛敏郎、芥川也寸志、団伊玖麿の3人の会をはじめとして、映画音楽のベテランの 早坂文雄、更には武満の音楽を積極的に取上げた岩城宏之、などの名前がワンサと 出てきます。中でも黛敏郎が武満の貧乏時代に自宅にピアノを送り届け、武満は終生これを多としていたとの話は感動的です。また映画ファンにはもってこいの実に興味津津の話題がたっぷりあります。
 それにしても武満徹の代表作として有名な「ノベンバー・ステップス」で琵琶奏者として定番の鶴田錦史さんが女性であったとは、本著を読むまで知りませんでした。
 個人的な関心として、武満徹と浅香さんはともに結核を経験しており、その治療方法が僕の結核経験とかさなっており、お互いに化学療法が確立された時代で命拾いをしたことになります。
 この浅香さんは戦後すぐの頃KAY合唱団に所属しており、「メサイヤ」や「天地創造」そして「マタイ」を歌ったそうです。奥田耕天さんの指導で、N響をバックに指揮者は 山田和男さんだったそうです。ソリストは中山悌一、柴田睦陸、三宅春恵、久保田喜代子
 (柴田さんお奥様)など、早々たるメンツでした。 KAY合唱団こそ、われらシュナイト・バッハ合唱団の母体であり、これまた因縁を感じます。
そして1996年2月18日、病室でNHK Fmでバッハの「マタイ受難曲」全曲を聴き、心から「バッハの音楽は凄い」との感想を遺して、その二日後に亡くなりました。
 そのときの「マタイ」の演奏は今度国際フォーラムにも来るミッシェル・コルボの指揮だったそうです。不思議な縁を感じます。
それでは桜のシーズンを大いに楽しんでください!!

No.68 (2006年2月23日) 


最近のシュナイト・バッハ合唱団関連雑誌記事

〇「MOSTLY CLASSIC」4月号

 2月20日に発売されたばかりですが、我等のシュナイト先生のインタビュー記事が掲載されています。
 今月の同誌の特集テーマは「進化する日本のオーケストラ」ですが、神奈フィルとの関連でもあるのでしょう、シュナイト先生が「出番です」のインタビューを受けています(P.38,39)。
 最近撮影された素敵なセーター姿の写真入りです。
この中で先生にとって日本での活動は3本の柱があると話され、東京芸大の教授活動と並んでシュナイト・バッハ合唱団、神奈川フィルをあげておられます。またシュナイト・バッハ合唱団が結成10年を迎えるとの質問に答えて次のように話されています。
「シュナイト・バッハ合唱団は、私が音楽監督の就任要請を引き受ける前にできてしまって、もう断れない状況にあったんです(笑い)。アマチュアの合唱団ですが、実はベルリン・コレギウムも、ミュンヘン・バッハ合唱団も、どちらもアマチュアの合唱団なのです。こういった活動も、やはり教育的側面があって、やりがいを感じますね。」
 それに続けて、
「ただ、バッハの名を冠する合唱団を指揮してきたこともあって、バッハのスペシャリストだと思われがちなのですが、ブルックナー、ブラームス、モーツアルト、ベートーベンといったドイツ古典派、ロマン派にも造詣が深いということをわかってもらいたいすね(笑)。」
まさにシュナイト・バッハ合唱団のこれまでの演奏曲目が先生のお話を裏付けています。
 そのほか日本全国のオーケストラを鳥瞰するのにぴったりの特集です。是非ご一読を!

〇「レコード芸術」2月号 新譜月評 声楽曲 畑中良輔氏

 畑中先生からはこれまでも、われわれの演奏のCDについて、大変好意的な批評を戴いております。
 今回も昨年6月のモーツアルトの「ハ短調ミサ」のCDについて、準推薦とはなりましたが長文のコメントをのせておられます。その中でシュナイト・バハ合唱団の創立精神をよく理解しておられる様子がありありと覗われ、ありがたいことと思います。
 「10年ほど前にハンス・マルティン・シュナイト指揮の<ミサ曲ロ短調>を東フィルで聞いた時、リヒターの後継者といわれる人の棒とは思えぬような、ひたすら威儀を正して聴くバッハではなくて、優しいバッハで満たされるという、バッハ変容の世界が展開された。このときの演奏に参加したすべての人たちが、一生忘れ得ぬ"人間バッハ"とでも言うベきものを感得したことであろうことは、想像に難くない。」
まさにシュナイト・バッハ合唱団創設の原点をしっかりと理解されているのである。畑中先生 
を是非来年の演奏会にお招きして"人間バッハ"の再現を聞かせてやろうではありませんか。

No.67 (2006年1月26日)

カール・リヒターのバッハ演奏の映像一挙発売

Unitelからリヒターのバッハ演奏のDVD5種類が一挙発売されます。「マタイ」と「リヒターの遺産」の2タイトルが2月になります。(「ヨハネ」も「マタイ」もともに以前にTVで放映されていますが、DVDの方がエアチェックしたVHSより画像がきれいそうです)
早速「ロ短調」と「ヨハネ」を聞いて見ました。それぞれ69年、70年の録画ですので、今から35年ほど前になります。指揮者カール・リヒター本人はともかくとして、独唱者達がとても若々しいのでびっくりします。グンドラ・ヤノビッツが何と可憐?そしてヘルマン・プライの水も滴る美青年振り!ぺター・シュライヤーも見違えるほどの若さです。ヘレン・ドナートやユリア・ハマリなどの現在の大ベテランもこのように若くて初々しい時代があったのですね。2月発売の「マタイ」が待ち遠しいです。
「ロ短調」、「ヨハネ」ともに演奏会場はクロステル協会ですが、「マタイ」の方は未詳です。僕がかつてエアチェックしたのは、ミュンヘンのバヴァリア・スタジオでの録画で、第1コーラス・管弦楽団と第2が完全に分離して演奏され、コラールの部分で合唱団が合流しておりました。

最近の掘り出しCD

タイトル名が「The Best Choral Album in the World・・ever」 EMI発売
先日シュナイト先生がベートーベンの「合唱付」で指摘されていたように、正確にはChoralではなくChorusとすべきなのかも知れません。
とにかくよく耳にする馴染みの有名合唱曲40数曲がCD2枚にびっしり。
MDにダビングして通勤の行き帰りに聞いておりますが一向に退屈しません。
ご家庭での作業のバックグラウンド・ミュージックにもピッタリ!

No.66 (2005年12月22日)

モーツアルト ハ短調ミサ曲

〇今月の「ぶらあぼ」の新譜ピックアップでわれわれのCDが取上げられております。
 ハ短調ミサについての簡単な解説のあと、「本CDはシュナイト統率による表現力豊かな合唱、ソロの真摯なアプローチともども作品の魅力を十二分に伝える名演」。
〇今月には新たな「ハ短調ミサ」のCDが2枚発売になりました。比較的地味な曲目だったのが俄然世のなかにその存在を示すようになってきました。
 ・ヘルムート・リリング指揮 ゲチゲン・カントーライ・シュトットガルト バッハ・コレギウム・シュトットガルト
 ・エマニュエル・クラヴァン指揮 アクセンツス・ローアンセ・エクイルビ ラ・シャンブレ・フィル
〇DVD ガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団 バーバラ・ボニー、フォン・オッターの豪華ソリスト
 モーツアルトの「レクイエム」と「ハ短調ミサ」カップリング *値段も手ごろでお買い得です。
〇来年2月のN響定期で「ハ短調ミサ」が予定されています。最近人気の幸田浩子がソプラノ・ソロ。
 彼女は今月発売の「MOSTLY CLASSICS」のカバーを飾っています。
*今年はモーツアルト生誕250年ということで商業主義をたくましくしているせいかも知れませんが、モーツアルト・ファンにとってはありがたい。


No.65 (2005年11月24日)

No.64 (2005年10月27日) 

今月の一冊
 
〇「バッハからの贈りもの」 鈴木雅明話 加藤浩子聞き手   春秋社
 約3年程前に買っていたのをようやく紐解いて読了しました。鈴木雅明氏は言わずと知れたバッハ・コレギウム・ジャパンのリーダーであり、今や日本でのバッハ学の大家として磯山雅氏、小林義武氏と並んで名をなしております。聞き手の加藤浩子さんは「バッハへの旅」など、バッハ縁の地方を取上げた旅行案内書の著作や、実際に旅行コンダクターも務めたりして、若手の音楽学者として方々で引っ張りだこです。
その加藤さんは鈴木雅明氏について次のように語っています。
「鈴木雅明が"西野流呼吸法"を通じて養われた"体の感覚"を大事にしていることは、彼の演奏を"気持ちいい"と感じる聴衆がいることとつながっている。なぜなら彼自身"気持ちいい"から演奏しているのだから。」
さて本書中、現在われわれが取組んでいる「ヨハネ受難曲」に関する鈴木雅明氏の熱弁が大変印象的なので、主要部分を抽出してご披露致します。バッハの宗教曲中、音楽的視点からは最高の評価を与えているようです。
『・バッハの〈ヨハネ受難曲〉が1724年4月1日、ライプツィッヒで鳴り響いた。いきなり"Herr" と始まると、初めてこれを聞いた瞬間、聴衆は心臓が止まりそうなくらいの衝撃を受けたと思う。その劇的な音楽がどんどん進んでいって、聴衆は口をあんぐり・・なんて想像するだけで面白くなる。
 ・〈マタイ〉と較べると〈ヨハネ〉のほうが合唱の比率が多いゆえに、全体として非常に劇的な効果が醸し出されており、また歌われる内容それ自体に、そういう要素が含まれている。
・〈マタイ〉のほうがなんだか日本では有名で、名曲のように思われているけれど――実際
〈マタイ〉は二つとない名曲だが―それにしても〈ヨハネ〉の魅力もまた僕には非常に大きく感じられるし、また凄く"まとまり"がいい。見事な構成になっている点は他の追随を許さないくらい充実しきっている。いうなれば劇的な音楽と
  知的な構成が融合しているのである。
 ・各曲の関連性という観点からみると〈ヨハネ〉は徹頭徹尾、緊密にできている。演奏時間二時間のコンパクトな中に、各曲がありとあらゆる方法で絡み合っている。密度がものすごく高い。〈マタイ〉よりもはるかに緊密性が高く、引き締まっている。乱暴な言い方かも知れないが、もし抜粋版をつくるなら〈マタイ〉はできるが〈ヨハネ〉はできない』
*どうです、凄い惚れこみようですね。僕達もまけずに気合を入れて取組みましょう。
PS:最近CDショップにおかれているチケット情報誌「TICKET CLASSIC」のコラム、
  「十人十色」に神奈フィルの常任指揮者としてのシュナイトさんの談話が載っています。P.184 

No.63 (2005年9月29日)

今月の一冊

〇「名指揮者列伝」 20世紀の40人    山崎浩太郎著
20世紀に活躍した40人の指揮者をピックアップして、簡単な経歴と人となりや主なレコードを中心に著者とのかかわり合いを交えての紹介です。ワインガルトナーから最近逝去したジュリーニまでを取上げておりますが、どういうわけかメンゲルベルグが登場しておりません。
僕のレコード収集時期と同じ年代なので、著者のコメントが非常に身近に感じられ、うなづいたり、イヤ少し違うかな?などと自問しつつ読み進めました。
中でもオットー・クレンペラーのベートーベンの交響曲第5番が著者に刷り込まれ、それがずーっと現在に至っているとのこと。他の指揮者の第5はどうも波長が合わない感じがするとの一段があり、まさしく僕と一緒の体験をしたものと驚いたしだいです。中学3年ころにクレンペラーの第5にふれ、反復の多さに辟易しながらも、ベートーベンの「運命」はクレンペラーとの信念ができ、大学時代にアメリカに旅行した際には、クレンペラー指揮、フィルハーモニア管弦楽団のベートーベン交響曲全集を買い求めたほどのはまりようでした。一方でトスカニーニやワルターのレコードも集めており、どちらも結構楽しんでおりました。どうもなまくら四つみたいです。因みに僕のベートーベンの交響曲、それぞれのナンバーをはじめて求めたレコードの指揮者は次の通りです。
当時は一枚のレコードを買うにも熟慮を重ねて慎重に選んだので記憶が鮮明です。
第1番、第7番、第8番 第9番 トスカニーニ、 第2番 ヴァン・ベイヌム
第3番、第4番、第9番 ワルター、 第5番 クレンペラー、 第6番 マルケビッチ
その後現在では交響曲全集がCDで40セットあまり、DVDでアバド、カラヤン BHSでバーンスタイン、カラヤン、朝比奈隆などが集まってしまいました。いつ聞き終える事になるのやら。
話しがわき道に行きましたが、この本は近過去の指揮者たちを鳥瞰するには格好の手引きとなるでしょう。生存期間がグラフで示されているので、一人一人の指揮者と同時代の同業者?の配置がわかるので、この面でも大いに勉強になりました。

No.62 (2005年8月25日)

今月の一冊

週間情報誌「ぴあ」が特別編集号「2006来日クラシックのすべて」を昨年に続いて出しました!クラシック・ファンには大変便利な一冊です。現在の世界の第一線で活躍している顔ぶれの殆どが網羅されています。我がシュナイト先生(神奈川フィル 1月)も登場しています。
「あのミュンヘン・バッハ管・合唱団を率いたホンモノの才能。1960年からベルリン・フィルなどに客演し、1984年にはミュンヘン・バッハ管弦楽団・合唱団、そしてバイエルン国立歌劇場の芸術監督に就任。ベルリン国立歌劇場やベルリン放送響などとも来日。近年はその芸術が改めて注目され、シュナイト・バッハ合唱団との名演CDが話題に。02年より神奈川フィル首席客員指揮者となる。06年も同フィルに客演」

No.61 (2005年7月28日)

今月のこの一冊  「バイオリニストは肩が凝る」 〜鶴我裕子のN響日記〜  アルク出版

著者はN響の現役第一ヴァイオリン奏者。これまでソリストや声楽家や指揮者達の著作は大変多いのに反してオーケストラの一員、しかも弦パートのひとりのメンバーが書いた本はあまり見かけません。この著作はオーケストラの団員の日常を知るには格好の本です。また鶴我さんの飾らないお人柄とウィットとユーモアに富んだ筆はこびが実に爽やかです。
活字も大きめで、目が疲れないので一気に読み終えてしまいました。以下さわりのいくつかをご紹介します。

〇芸大での修業時代の話。副科でとったピアノの先生がとても美人好みで、鶴我さんが偶にレッスン室をのぞくと決まって「なんだ、きみか」とがっかりしたような声。誰がレッスンに行くか!!
ちなみに彼女と同期には美人の誉れの高い中島真理さんや森ミドリさんがいました。

〇彼女の好きな指揮者。第一にサヴァリッシュさん。次いで、我家では「火星ちゃん」のニックネームを献呈しているホルスト・シュタインさん。そして僕も大好きなロシアの指揮者、スヴェトラーノフ(彼のチャイコフスキー交響曲全集が最近DVDで出されました)。さらにあの怪物然としたマタチッチさんの大ファン。ルーマニア政変を生き延びた彼と奥様の劇的な経歴の一こまが披露されています。このほか沢山の指揮者を巡るエピソードが満載。そのほか、「大物ソリストたちの思い出」も実に楽しく、それぞれ個性溢れるソリスト達とオーケストラとのやり取りが興味深く語られています。

〇78歳で生涯を終えたお父様の看病記録、「寝たきりの父のそばで弾いたヴァイオリン」は本当に感動的です。長い間重度の糖尿病で苦しんだお父さんを見取った彼女の悟り、「人生ってほんとに楽じゃない。だから楽しいことがあったら逃がさないこと、そして他人の楽しみを邪魔しないこと。
アーメン!」。

〇ヴァイオリニストに特有の首筋から鎖骨にかけての痣のようなタコのような赤い色にまつわる話し。電車でケースを抱えて立っていると、前に座っている男性が自分の顔と襟元をしげしげと眺めて不思議そうな顔をしている。変な奴、と思っていたがハタと気がついた。きっとキスマークやらと勘違い?
愚か者め!! さて彼女のキスマーク誤解対策は?。

〇かつてN響アワーの司会者で、女優・文筆家でもある壇ふみさんが鶴我さんの文章の大ファンとのこと。ことほど左様に読ませる本です。お気軽に是非一読を。
〜この本はアルト武田さんからお借りしました。出版されたばかりです。なお武田さんは著者のお姉さまを良く知っているのだそうです〜
                                                         以 上

No.60 (2005年6月30日)


最近目に止まった音楽関連報道  6月20日 日経新聞朝刊 オピニオン版

〇〜インタビュー領空侵犯〜 芸術家よ大衆におもねろう  冨山 和彦氏(60年生まれ)
 同氏は現在産業再生機構の専務。85年東大卒、92年スタンフォード大経営学修士。
 絵画や音楽が好きで仲間とバンドを結成して練習を楽しんでいる。 彼の論点:以下
・難解で高尚なものをありがたがる芸術のあり方に不満。資質に恵まれた人たちが美術や音楽の大学に入ると、専門的で狭い世界に引きこもってしまう。
・例えば12音階の現代音楽など99%の人は眠くなる。
・今は古典と言われる芸術も、最初はエンターテイメントだった。大衆やパトロンに支持され、時空を超えて広がったものが古典になる。
・芸術家は権威主義から脱して思い切り大衆におもねればいい。音楽、演劇、落語、スポーツ
 もそうだが、受け手は面白さや驚き、感動を求めているのだ。
・専門の大学でも大衆に何が受けるかを分析するなど、マーケティングを教えるベき。東京芸大ならOBの坂本竜一が何故成功したか、事例判例に取上げるベき。
・芸術をエンターテイメントとしてとらえれば潜在的には成長産業だ。今後はますます消費の対象は物質から文化に移る。団塊の世代が大きな市場として待っている。
・産業として確立しないと才能ある人が埋もれたままで終わってしまう。商業化のリスクは供給者が冒険をおそれて、進歩が止まることである。
*日経編集者のコメント・・・難解さを売り物にする芸術家と評論家が既得権益を守るためにサークルを作り、多くの才能を締めだす構図が浮かぶが、同氏はこういった談合めいた閉鎖性を打破せよと説いているようだ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・現代音楽が苦手な僕にとって考えさせられる一文でした。

No.59 (2005年5月26日)


またバッハのマニフィカートがアルノンクールの指揮でDVDが出されていますが、ソプラノがクリスティーネ・シェーファーで、相方のアルトがベルナルダ・フィンクです。フィンクをはじめて知ったのは、DVDでガーディナー指揮のバッハのクリスマス・オラトリオが最初です。すっかり気にいってそれから彼女が参加している合唱曲や、歌曲のCDを見つけるたびに買いこんでおります。同じバッハのクリスマス・オラトリオで、合唱の神様といわれているエリックエリクソンが指揮をしているCD(おそらくDVDも)が出ていますが、ここで起用されているアルトも素晴らしい。モニカ・グロープですが、やはり方々で引っ張りだこです。彼女のCDも相当な枚数が出ています。僕の手元だけでも10枚はあります。

No.58 (2005年4月28日)

今月の一冊

○「MOSTLY CLASSIC」        産経新聞社発行 月刊音楽雑誌     1,000円
毎月20日に発売されるクラシック音楽情報誌です。僕の音楽番組情報の土台にしているのがこの雑誌の別冊付録の「プチ・モス」です。これにはWAVE情報と並んで日本全国の毎月の演奏会の詳細が掲載されています。
今月の特集は「スロヴァキア音楽」です。同国出身の音楽家が多数紹介されていますが、現在メゾでは引っ張りだこのマダレーナ・コジェナーもその一人。最近彼女はかの名指揮者サイモン・ラトルのパートナー(奥さん?)になった由。またその月の注目されるコンサートの情報や、CDやDVDの新譜の紹介などがびっしり仕込まれておりますので、大変お得です。今月6月号から表紙がカラーになり、これまで以上に目に付くようになりました。又創刊以来、音楽家のステージ写真家として当代の第一人者である木之下晃氏のコレクションが「マエストロ列伝」と銘打って紹介されています。今月号は最近逝去した名指揮者、ガリー・ベルティーニです。
さて、この雑誌の魅力点を紹介してみましょう。まず毎月20日の時点で翌月のTV/FM番組が判明するのはこれが一番早い。同時期にステージ情報を中心とする無料配布の「ぶらあぼ」がありますが、WAVE情報面ではイマイチ。25日に発売のTV番組案内「TV Taro」も大いにTV番組の紹介には役に立ちますが、情報内容と実際の放映内容が違うことが時々あるので、信頼性に欠けます。
次いでこの雑誌の物理的な面での魅力として、サイズがA4番で大きくて読み易いこと。またその分薄型となるので鞄等に収納し易いこと。またカラー紙面がとても豊富であり、直近での演奏会の模様がカラーのグラビアで特集されることが多く、あたかもコンサートに行ったのと同じ気分を味わえます。
勿論クラシック音楽情報を中心にしていますが、話題の幅が広いので退屈しません。例えば6月号を例にみると、映画の話、ファッションの話し、タカラジェンヌの話し、師弟対談、ETC。またフランスの有名ブランド会社の役員を経験し、フランス文化に詳しい熟年美女、谷口久美さんが、各界の名士を相手に対談してグローバルな話題を展開しておりこれまた大いに楽しめます。
今月号の付録のDVDでは日本を代表するギタリストである荘村清志士と福田進一の対談が非常に充実しております。ギターファンには必見です。福田さんは日本を代表する若手ギタリストである、鈴木大助、木村大、大萩康一、そして僕の大好きな村治佳織の師匠でもあります。
それと田島先生が出演したパイジェッロの「美しき水車屋の娘」が注目されるオペラ公演として紹介されています。ただし田島先生が画面に登場していないのが残念。

No.57 (2005年3月31日)


推薦この一冊

○「田中 希代子〜夜明けのピアニスト〜」萩谷由喜子 株式会社ショパン '05.1.5
 この本のポイントは著者による前文が全てを語っているので紹介します。
 「日本がまだ敗戦の痛手から立ち直りきれなかった1950年代、ヨーロッパのメジャー国際コンクールで日本人として初めて最高位を獲得、現地のジャーナリズムから「東洋の奇跡」とまで称えられ、母国日本の人々の心にも薫風を吹き込んだ若い女性ピアニストがいた。
類まれな資質を超人的な努力で磨いた彼女の名は田中希代子。悲運にも難病に倒れ、36歳の絶頂期にステージから去ったが、希代子のピアニズムは欧米の第一級ピアニストに比してなんら遜色ないものであったことを、遺された録音は如実に伝えている。クラシック音楽の歴史の浅い、しかも敗戦国の焦土のなかから、これほどのピアニストが生まれた秘密とはいったいなんだったのだろうか?」
・P224〜僕がとても贔屓にしているピアニスト・田部京子が小学校時代に田中希代子に師事していたことが語られているが、片田舎の室蘭(僕の故郷)から年に数回、地元室蘭の先生と一緒に上京した思い出など、大変興味深い話がたっぷり。因みに彼女のお母さんと僕は高校での同期仲間。
・この著者は2003年7月に「幸田姉妹―洋楽黎明期を支えた幸田延と安藤幸」を上梓しており、まさに黎明期の日本の洋楽界をつぶさに紹介している。二人は幸田露伴の妹という面での興味もあり、一気に読了した記憶があるが、今回の「田中希代子」も非常に緻密な調査にもとづいており、大変説得力がある。
・この本を読んで田中希代子が師事した重要な先生のひとりに安川加寿子があげられているので、昔に買って積読になっていた「評伝安川加寿子―翼の生えた指(青柳いずみこ著)」を引っ張りだして読んでいるが、これまた大変な力作である。著者の青柳さんは安川加寿子に実際に師事しただけに、筆にも熱い思いがこめられているようだ。
・この本に引きずられて同じ青柳いずみこさんが最近出版したエッセイ、「双子座ピアニストは二重人格?」なる本を買ってしまった。まだ手をつけていないが彼女はなかなか文才があるみたいで、読むのが楽しみです。
というわけでこのところピアニスト関連の本ばかり読んでいますが、残念ながら僕はピアノが弾けません。これらの著作ではピアノ奏法を巡る論争がかなり詳しく紹介されているので、もしピアノが弾けたらどんなにか内容についての理解も深まり、さらに興味が増すことか、悔しい限りです。ピアノを弾く方には必読と思います。

No.56 (2005年2月24日)

No.55 (2005年1月27日)

No.54 (2004年12月23日) 


 今月のこの一冊

○「音の影」 岩城宏之著 文芸春秋 

 著者は91年エッセイスト・クラブ賞を受賞している実力者。これまでにも氏の著作には感服すること度々であり、今度のエッセイ集もなかなか面白いです。
 アルファベット順に作曲家を中心に取上げて、それぞれにまつわる氏の感想や作曲家の癖など、専門家の視点から見た特徴を判りやすく提示してくれます。
 ベートーベンにまつわる話しから「絶対音感」に言及、氏はどうやら「相対音感」所有者らしく、「絶対音感」万能論にいろいろなん癖をつけております。
 またブルックナーを取上げて、「世の中のエライ指揮者はみんなブルックナー振りの大家だ、みたいな風潮があるが、実は指揮は数回しているが聴衆の一人として聞いたことは一度しかない。あんな長たらしい音楽は、御免だ」とずいぶん思い切った発言です。続けて「最近のわが国のひとたちのブルックナー愛好振りが、不思議でならない」とまで言っております。かくいう僕も何度かブルックナーにトライしたのですが、やはりダメでした。みんな同じように聞こえます。 一応コレクションは相当数あるのですが、どうも食指は動きません。
何年か前にNHK/FMで名作曲家の時間でブルックナーを約30回にわたり放送したことがあります。僕もせっせとエアチェックしたものですが、北京駐在時にエアチェックしたテープを持ち込んで見ましたが、あの時間がたっぷりあるはずの北京でもブルックナーは最後まで手付かずでした。ブルックナーに弱い僕だけに氏の率直な言い振りに大いに同調した次第。

モーツアルト・ハ短調ミサの推薦版について

前回バーンスタイン指揮 バイエルン放送合唱団・交響楽団のCDを推薦しましたが、一部のかたから「最後のAgnus Deiが入っていない」との指摘を受けました。手持ちのCD,
DVDにあたりましたら、次の2枚のみAgnus Deiが入っていました。いずれも録音とても古いものです。@オイゲン・ヨッフム指揮バイエルン放送合唱団・交響楽団1956年録音。
最終曲所要時間6'08. Aルドルフ・モラルト指揮 ウイーンS・O・、ウイーン室内合唱団。同じく9'00。その他は3枚のDVD,11枚のCD共に最終曲はBenedictusでトータル時間は60分前後です。やはり60分を超えると長すぎる嫌いがするのではないでしょうか。

それでは皆さん、どうぞ良いお年をお迎えください。来年もよろしく!!

No.53 (2004年11月26日) 

今月のこの一冊

○「音楽青年誕生物語 繰り返せない旅だからA」 畑中良輔著 音楽の友社 04.9.10

 音楽の友に連載中の畑中さんの自伝小説の第2巻目。東京音楽学校へ入学した昭和15年から昭和18年9月卒業までの話しですが、これがすこぶる面白い。音楽に少々詳しい方には馴染深い面々がたくさん登場し、その彼らが著者と時代をともにしている様子が生き生きと描写されています。また旧奏楽堂が現役としてしばしば登場し在りし日の晴れ舞台の様子が良くわかります。
 登場人物では中田喜直との関係が、あたかも岩城宏之と山本直純の関係のようで、微笑ましい。一方当時の先生方の厳しい教え方が偲ばれます。特にピアノ科の新進気鋭の教授陣の凄まじさにはびっくりします。永井進先生や、井口元基成先生が登場します。また作曲家では橋本国彦先生が大変著者の尊敬の対象となったようです。
 そのほか、歌手では石井好子さんが1年先輩だったり、長門美穂さん、三宅春恵さん、中山梯一さん、他たくさんの 馴染みの歌手が出てきます。ピアノではフランスから帰国して第1回の演奏会をもった草間大使の令嬢で後の安川加寿子さんが印象深く語られています。また時代が時代だけに軍事教練にまつわる悲喜劇や、軍国主義国家主義にはまり切れない著者の苦悩、さらには同級生の一人である朝鮮出身者の悲劇などにも触れており、単に愉しいだけではない深刻さもあります。が、何といってもやはり面白い! おまけにアルバイトで芸者歌手の大御所である赤坂小梅のバックで掛け声の音入れをして大枚を稼ぎ、結構金銭面でも余裕のある学生生活を送ったようです。
 白眉は当時有名な作家であった堀辰雄氏との交流や、銭型平次の作家で音楽評論家の大御所でもあった野村あらえびすの自宅に押しかけてのやり取りなど、僕にとっては誠に羨ましい話しがたっぷりです。その中で青春の一こまらしい男女の息吹が語られており、ことに出征中の先輩の奥方との襖一
枚を隔てた感情交流の様子にはドキドキさせられます。そのほかにも、小説「天の夕顔」で名を成した中河与一と連絡船で知り合い、その後自宅にも押しかけるなど、幅広い関心分野の持ち主であることが良くわかります。現在音楽評論で有名な中河原理氏が中河与一の子息であることを始めて知りました。 ともかく僕の同年代から上の方々にとって、興味の尽きない話題が満載です。 前作の「音楽少年誕生物語」と合わせてのご一読をお勧めします。

モーツアルト・ハ短調ミサ 並びにバッハ・マニフィカートの推薦版

皆さんから最近よく質問を受けますので独断と偏見をまじえてお答えいたします。

 モーツアルト 僕のコレクション:DVD3種類、CD8種類

推薦:

@レオナルド・バーンスタイン指揮 バイエルン放送管弦楽団・合唱団 (POCG-7129)
   * アヴェヴェルムコルプス、ユビラーテがカップリングされています。また同じ内容でDVDがUnitelから
   発売されています(UCBG-1059)。ソプラノのアーリン・オージェが得意の宗教曲で見事に存在を示して います。
   メゾのフォン・シュターデも乗っています。是非ごらんください。

Aカラヤン指揮ベルリン・フィル ウィーン楽友協会合唱団 ヘンドリックス、ジャネット・ベリー、シュライヤー                                              (POCG-9369)       
Bガーディナー指揮モンテヴェルディ合唱団 僕のご贔屓シルヴィア・マウネアがソプラノソリストです
                                              (PHCP-1684)

 バッハ 僕のコレクション:DVD2種類、CD9種類

推薦:

@カール・リヒター指揮ミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団 (Archiv POCA-3007)
  やはりシュナイト先生の源流でしょうから、一番参考になるのではないでしょうか。 独唱陣もソプラノマリア・シュタ  ーダー、バス;フィッシャー・ディースカウと豪華。録音が61年と少々古いですがさすが神様。

ADVDですがアルノンクール指揮シェーンベルグ合唱団、独唱者クリスティーネ・シェーファー、
   ベルナルダ・フィンク、イアン・ボストリッジなど。カンタータ61番147番がカップリング。CDがでると良いのですが。
   DVDの番号(TDK TDBA-0034)。

それでは27日は各自にとって最高の「ロ短調」を演奏しましょう!!

No.52 (2004年10月26日)

第51号 (2004年9月30日)

今月の一冊

○ 「バッハ随想」  秋元元夫著 文芸社
著者は大学で物理学を専攻し、その後原子力開発に従事するなど、音楽の専門家ではありませんが、バッハ音楽に対する理解の深さには感服します。「東京バッハ研究会」の会員だそうですが、いろいろな音楽愛好団体があるものですね。アマチュアでバッハ音楽に対して一家言をもっていた人に東大教授の丸山眞男先生がおります。中野剛さんが「丸山眞男〜音楽との対話」(文春文庫)で詳しく語っていますが、結構音楽理論にも造詣が深く相当なマニアだったようです。
この著者はバッハの「ロ短調ミサ曲」をバッハの「白鳥の歌」と位置づけて、次のように語っています。
『この曲の作曲過程についてのさまざまな背景の真相はどうであれ、相殺して余りあるのはこの曲の素晴らしさである。バッハは美しい旋律をきわ立たせる工夫や、効果的なリズムの変化を全曲にちりばめた。この清冽な美しさはかれの精神の発露だった。生み出した音を組み合わせていく過程は、深い信仰に根ざしたと言って間違いない。彼はその音素材を使い、対位法の粋を集め、ちからをふりしぼった。ここには壮年期から晩年にいたる彼の全風景がある。彼は若き日、「調和のある音楽をつくり、演奏していくことが一生の願い」という熱いこころざしを立てた。変わることなく持ち続けたその思いを、死をまえにしてこの曲の完成に託したと、いえるかも知れない。』 
著者はさらに続けて次のように述べております。
『この曲はその高い精神性をおおくの人が認めたとき、普遍的ないのちを得たようにみえる。ラテンとゲルマンの信仰の世界をひとつにするはたらきをした、と言う事も出来るだろう。』
シュナイト先生が常に教えてくれるようにテクストの意味をしっかりと理解し、バッハの精神に如何にせまることが出来るかが、「ロ短調ミサ曲」を立派に演奏するための鍵になりそうですね。
11月27日の演奏会に向けて頑張りましょう。

No.50 (2004年8月26日) 

J-Classicsのおすすめ その2)

僕の手元にあるCD、ビデオを紹介しながらJ・クラシックスの概況をご案内しましょう。
[ヴァイオリン]・・・・・・僕のコレクションでは天満敦子、諏訪内晶子、五島みどりの順です。天満さんの迫力には脱帽です。学生のころから井上光春などの長老作家に可愛がられ、酒の手ほどきも受けたらしく彼女の酒豪ぶりは半端ではないらしいです。先日もトークを交えた演奏会があり、たっぷりと天満節を聞いて元気を貰ってきました。渡辺玲子の鋭い切れ味も好きですが、一方で加藤知子のクールな中に情熱を秘めている音作りも魅力的です。天満さんとは趣をことにしますが、竹澤恭子も骨太い演奏で、日本人離れの感じがします。男性では矢部達哉など若手でぴかぴかしている人が一杯います。ことに古楽器系統では寺神戸亮を始めとする厚い層が築かれています。BCJの若松夏代さんもひっぱりだこです。そのほか弦関係ではヴィオラの今井信子が大好きで彼女の古典派系のCDは大体入手しています。近代・現代曲で、どうも同感できないCDも出されていますが無理に買いません。ギターでは若手女性ギタリストの最右翼である村治佳織のデビュウ曲から全部のCDを買いこんでおります。最近では弟の奏一君がCDデヴューしていますが、ギタリストのお父さんとあわせて文字通りギター一家そのものですね。

今月のこの一冊

Weekly「ぴあ」 特別編 一冊まるごとクラシック―2005 来日演奏家 全スケジュール発表!! (1050円)

今が旬の若手演奏家、円熟期に達した演奏家を含めて、現在の世界の人気演奏家全員集合!といったところ。2005年の来日スケジュールに沿って、それぞれの演奏家について極めて簡潔にしてポイントをついたコメントが写真入で紹介されております。オペラ/声楽、オーケストラ/指揮者、器楽・室内楽、ダンス・バレエの四つの分野に整理して紹介しているので便利です。我らがシュナイト先生も紹介されています(P41)。
 ハンス=マルティン・シュナイト・・・・カール・リヒターの後継者が贈る"古典派の偉人たち"
 '30年ドイツ生まれ。急逝したカール・リヒターの後継芸術監督としてミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団を長年にわたり率いたほか、ベルリンやミュンヘンなどドイツ国内の歌劇場を中心に活躍してきたマエストロとして名高い。'02年から神奈川フィルの首席客演指揮者を努めている彼が、すっかり定着した「古典派の偉人たち」シリーズなどを指揮する。
もちろんシュナイト・スマイルの写真がついていますが、かなり若い頃のもの?
そのほか声楽関係では若手ソプラノのネトレプコやボンファデッリなど沢山紹介されており、日本市場というクラシック界にとり、たまらなく美味しい市場めがけて有望な演奏家が殺到している状況が良くわかります。
ともかく最近の世界の人気演奏家を知るには格好の一冊と思います。
それではアテ・ネオリンピックの日本選手の大活躍に乾杯!

No.49(2004年7月29日)  

J-Classics紹介 その1)

最近の猛暑で、休みの日は家でじっとしておりました。退屈なので日本人演奏家のCDの棚卸をして見ました。最近の日本人の演奏家はなかなか実力者が粒ぞろいで、大いに楽しませてもらっていますので、一部をご紹介いたします。

「合唱団」

何といっても「バッハ・コレギウム・ジャパン」 通称BCJ。鈴木雅明、秀美兄弟が指揮者と首席チェロを担当、さらに雅明さんの奥様(環さん)がコーラスの固定メンバー。秀美さんの奥様
(鈴木美登里さん)は一時ソプラノのソリストの常連だったのですが、最近は野々下由香里さんにバトンタッチされたようです。というわけで正に鈴木一家の音楽集団です。かねてからバッハの教会カンタータの全曲演奏に取り組んでおり、CDの発売も24巻を数えています。
コンサート・ミストレスの若松夏美さんは古楽方面では世界のいろいろな古楽アンサンブルからひっぱりだこです。秀美さんは昨年からオーケストラ・リベラ・クラシカを結成して、意欲的な演奏活動とCD作りに情熱を傾けているようです。あたかもお兄さんのBCJの向こうを張っているかのようです。とは言ってもメンバーのかなりの部分はBCJと同じ顔ぶれとなっています。ハイドンの交響曲に腰を据えて取り組んでいくようです。
さて独唱者は多彩な顔ぶれですが日本人に限定して紹介すると、最近ではなんと言ってもメゾの波多野睦美さんの活躍が目立ちます。カンタータのソリストのほか、BCJが間歇的に行う「マタイ受難曲」や「メサイヤ」なども彼女がメゾ又はアルトのソロを担当しています。
僕はかなり昔に彼女と現在ソプラノで大活躍中の高橋薫子と一緒に埼玉会館小ホールで
「バロック・オペラの楽しみ」なるステージでお目にかかって以来のファンで、これまで発売された彼女が参画している全てのCDを入手しています。また昨年浜離宮で行われたエブリン・タブ(Consort of Musicの中核メンバーでかのエマー・カークビーの同僚)との共演では、ある面ではタブの上をいっているような迫力でした。
ソプラノは野々下由香里さんで、とてもしっとりとした女性らしい声と容姿です。最近フランス歌曲を中心とするCDを出しました。これまた僕の大のお気に入りの一人。
さて忘れてはいけません、我が合唱団の強力な助っ人、谷口洋介さんはBCJコーラスの常連メンバーです。お忙しいわけですね。 
さて次回からほかのジャンルも順をおって紹介します。

No.48(2004年6月24日) 


今月お勧めのCD

6月5日のシュナイトバッハ合唱団・管弦楽団の「モツレク」の公演が好評裡に終了、ご同慶の至りです。今回はナミレコ−ドのディレクターからもOKが出されたようで、大変楽しみにしております。北海道の一番上の姉がシュナイト・バッハ合唱団の大ファンで、公演のCDを大変楽しみにしているのであります。
さて最近発売された「モツレク」のCDで注目される1枚を紹介いたします。
アーノルド・アルノンクールが昨年末に20年ぶりに「モツレク」を録音しました。そして彼いわく「このレクイエムは、これまでの自分の全ての録音の中で、おそらく最高の出来の一つであろう」。
合唱団は彼お気に入りのアーノルド・シェーンベルグ合唱団です。そしてソリスト陣が素晴らしい。
ソプラノが今やひっぱりだこのクリスティーネ・シェーファー、アルトがこれまた僕のお好みのベルナルダ・フィンクです。ガーディナーの「クリスマス・オラトリオ」がTVで放映されて以来の大ファンです。また前回ウィーン楽友協会合唱団との演奏並びに今回の演奏でもアルノンクールは一環してバイヤー版を使用しております。
ところで「モツレク」の演奏時間を手持ちのCDの一部でチェックしてみました。一番遅いのが何とバーンスタイン/バイエルン放送合唱団で66分30秒。ついで遅いのがカ-ル・ベーム/ウィーン
楽友協会合唱団で64分。これに比べるとアルノンクール、ガーディナー、ブリュッヘン、クイケン等、古楽出身者は早めのテンポを取っており、49〜55分くらいです。因みにアルノンクールの前回の演奏は48分30秒、今回が50分強、ガーディナーが49分、クイケンが52分、ブリュッヘンが55分です。もちろんオーケストラの規模や合唱団の人数の違いにも原因があるのかも知れませんが、面白い発見でした。
「モツレク」の公演も無事終了、手持ちのCD、DVD,VHSを整理したところ、合計35の異なる「モツレク」の演奏に触れておりました。それにしてもCDなど、聞くのと実際に歌うのでは全く別物であることを、反省を込めてあらためて認識した次第です。

それでは「ロ短調」、「Max Reger」に向こう半年間、じっくり取り組むことにいたしましょう。

No.47(2004年5月27日)

今月の一冊

先月号に続いて最近の出版物から指揮者を取り上げているものをご紹介いたします。

「指揮者の名盤」 50人のマエストロを聴く    本間ひろむ著  平凡社新書(03年12月)
 ・全部で12章に分類して50人を語っています。それぞれが平均3ページで略歴とエピソードを交えて紹介し、最後に推薦版をあげています。推薦版にはカリスマ性と定番度とコンディション(録音の)それぞれの項目を6段階で評価しております。 50人のマエストロを非常に要領よく紹介しており入門書としてお勧めです。第10章の「古楽器・室内管弦楽派の系譜」ではカール・ミュンヒンガー、カール・リヒター、フランス・ブリュッヘン、トン・コープマン、ジョン・エリオット・ガーディナーが紹介されております。リヒターの定番
 はもちろんミュンヘン・バッハとの「マタイ受難曲」、そしてブリュッヘンの定番にオランダ室内合唱団との
 「モツレク」がノミネートされています。確かにオランダ室内合唱団は現在スウェーデン放送合唱団、エリックエリクソン室内合唱団、シェーンベルグ合唱団と並ぶ世界でトップクラスの実力だと思います。

「名指揮者との対話」  青澤唯夫著  春秋社(04年4月)
 著者が実際にインタビューしたものを中心に、20名の指揮者が取り上げられています。
 中でもチェリビダッケの話し振りは、全く例の記録映画の「チェリビダッケの庭」のにおける口調そのままです。唯我独尊? 一方ショルティとの対話が大変面白い。逆にショルティから質問を受けてのやり取りが愉快です。東京文化会館での演奏を終えての印象、「第一級の音だが、まるでサウナだ」(77年)。N響のメンバーの給料を聴いて、月額を答えたのに対して「週給か?」。
 東京に10もの交響楽団があると聞いてのビックリぶりなど。彼の朴訥とした雰囲気が出ております。

No.46(2004年4月29日) 

今月のこの一冊

「生きていくためのクラシック」 許光俊著 光文社新書
 同じ著者による「世界最高のクラシック」(音楽情報2002年10月号で紹介)の続編。
著名な指揮者を7つの章に分類して、彼の思い入れをたっぷりと注ぎ込んだ好きな指揮者の紹介文です。第一章はバロック音楽の世界を3人の指揮者で語っています。カール・リヒターは精神のバロック、パイヤールは官能のバロック、そしてクリスティは退廃のバロックと命名されています。「歌の恍惚」編ではジュリーニが"悠久の歌"とされ、コルボは"合唱が歌う夢幻の美"と表現されています。面白いところでは「日本で燃え上がった二人の巨人」編でクーベリックとムラビンスキーが対比されています。そのほかショルティとスヴェトラーノフが東西武闘派対決とされ、マタチッチとレーグナーがブルックナー指揮者の代表者としてそれぞれが「岩のブルックナー」、「絹のブルックナー」と命名されています。そのほかにもマルティノン、ベルティーニ、アーノンクール、ケーゲル、ザンデルリンク、セル、バティス、そして最後にバーンスタインとベームが「これを聞き漏らすのはもったいない!」というコーナーで紹介されています。
ともかくそれぞれの指揮者による主要演奏曲目が、彼の一方的な視点からではありますが大変魅力的に語られていますので、格好のCD案内にもなります。僕などはそれに引っかかってレーグナー指揮の管弦楽集を求めて東京中を探しまわったほどです。合唱の視点からは「歌の恍惚」編が興味深い。著者はジュリーニのバッハ「ロ短調ミサ」を評して「何の計算もなく、ただ淡々と音楽が進んでいく。余計なものはなく、足りないものもない」と評しています。確か「クラシックCDの名盤 演奏家編」でも誰かが似たようなことを言っていましたね。
それでは皆さん、どうぞ楽しいGWをお過ごしください。

No.45(2004年3月25日) 

最近1月のバッハ受難曲演奏会あさり
この一月の間にバッハの「ヨハネ受難曲」2回、「マタイ受難曲」に2回足を運びました。僕にとっては珍記録になりました。2月23日に「奏楽堂」で東京芸大バッハ・カンタータクラブ(56名)による「ヨハネ」、指揮は小林道夫さん。独唱者の一人に大貫さんが出演。ついで2月29日東京芸術劇場で東京J.S.バッハ合唱団(114名)の「マタイ」。BCJで御馴染みの浦野智行さんがバスのアリアのソロ。3月7日ガーデンプレイスクワイヤ(44名)による「ヨハネ」。畑さんが福音史家で熱唱しておりました。3月21日新宿文化センターで東京オラトリエンコール、合唱団さきたまの合同演奏会。前号で紹介したように豪華な独唱者の顔ぶれ。福音史家が畑さん、バスアリアが河野さん。十分楽しみました。

No.44 (2004年2月24日)

お得な「バッハロ短調ミサ」CDの案内   銀座山野楽器で
ミシェル・コルボ指揮でローザンヌ室内合唱団・管弦楽団。アルトソロはガーディナーの
『クリスマス・オラトリオ』で御馴染みのベルナルダ・フィンクさんです。2枚組みで1480円!!

No.43 (2003年1月24日)
                                 
面白かった演奏会の報告

昨年大晦日から元旦にかけて行われた東京文化会館での「ベートーベン全交響曲演奏会」に行ってきました!!全然退屈することなく非常にエキサイティングな一夕でした。ワイフやコンサート友達にも声をかけたのですがさすがに「ご勘弁」の由にて一人で行ってきました。生演奏で全曲を通して聴いたのは初めてです。その前29日30日に「おさらい」を兼ねて懐かしのフルトベングラーのCD全集と、ヴィデオでバーンスタイン指揮で全曲を聴いたのですが、やはり生演奏は迫力が違います。またふだん余り演奏会で取り上げられないナンバー曲の魅力を再発見した気がしました。第1番がなかなか素敵に響いていました。もちろん第2番には、ベートーベン全作品の中でもっとも美しい旋律と言われる第U楽章があります。第4番は最近結構売れっ子で、クライバーやムラビンスキーのCDが出ています。第8番は自分の全作品の中でベートーベンがもっとも好んだといわれております。磯辺淑さんの「はるかな友」ではありませんが、全く思い悩むことなくスンナリ心の中から自然に涌き出てきたものを書きとったらしい。大変美しく軽やかな弦の響きの上で管楽器群がそれぞれ楽しげに踊っていました。
企画者である三枝成彰さんのほかに、昨年ベートーベンのピアノ曲全曲演奏を終えた横山幸雄さん、さらには小説家でクラシック・ファンの島田雅彦さんのトークが間に入ります。また各曲の合間に約15分ほどの休憩があり、さらに第6番「田園」の後には1時間の食事休みがありましたので、適当に軽食・コーヒーをとり、軽く運動をすることが出来ました。それになんとロビーには臨時に指圧のテントコーナーが設けられておりました。僕も早速予約をしておき第6番「田園」の後で30分コースをお願いしました。会場の近くの席では家族で3交替しているケースも見かけました。お爺さんお婆さんが早い時間、娘二人が中間の「田園」まで。最後はご夫婦で「第9」を楽しんでいました。各曲の合間にバトンタッチができるシステムなのです。
どうやら今年もやりそうな三枝さんの口ぶりでした。もちろん僕もまた参加するに違いありません。皆さんも次回にはご一緒しませんか。終わったあとの新年のカンパイが楽しみです。

No.42 (2003年12月25日)


楽しみな演奏会の紹介  フィルハーモニック・アンサンブル Tel:03-3943-2707
何と、あの「パリアッチョ」で有名なレオンカヴァレッロが「ラ・ボエーム」を作曲していたのです。その本邦初演が2004年3月13日(土)五反田のゆーぽーと簡易保険ホール
で16時から上演されます。ミミ役はわれらが田島茂代さんです。
皆で応援に行きませんか。

No.41 (2003年11月27日)

おもしろい演奏会の案内 
12月31日 東京文化会館 ベートーベン全交響曲連続演奏会
開始時間:31日15時半、終了時間 翌日2004年1月1日午前1時頃。その間曲の合間での出入りは自由。体力と気力のある方にはお勧めかもしれません。きっと思い出に残る年越しとなるでしょう。お値段 S席2万円。ペア券3万5千円(40組に限定)。企画者に三枝成彰さんが加わっています。
指揮者: 岩城宏之、大友直人、金聖響、    管弦楽:東京交響楽団、他。
ソリスト: 釜洞裕子、坂本朱、小林一男、直野資 
合唱: 晋友会合唱団、東響コーラス 合唱指揮:関屋 晋

No.40 (2003年10月30日)

今月のこの一冊

帝国・メトロポリタン歌劇場  〜桟敷をめぐる権力と栄光〜上・下
 ジョアンナ・フィードラー著 河合楽器出版部

 ともかくメトの支配権力をめぐるあらゆる情報が網羅されております。権力関係・人脈関係・歌手とレヴァインの好悪図式などが一望されます。著者はかのアーサー・フィードラーの娘さんです。15年間もメトの広担当をした経験に裏打ちされているので、文字通りメトのすべてが日の下に曝されていると言っても過言ではありません。上下2巻にわたり、しかも登場人物名が多いので読了するにはかなり労力を費やしましたが、これからジェームズ・レヴァインやメトを語るに際して今までとは異なり、もっと深みを持って語れるような気がします。
 オペラファンにとっては必読の一冊かもしれません。訳が直訳に近く日本語としてはすこしぎこちない気がしますが、逆に原文の雰囲気は良く出ていると思います。
 メト設立100年記念ガラ(83年)のDVD,リンカーンセンター引越し25周年記念ガラ、レヴァイン・メト・デヴュー25週年記念ガラともにVHSで手元にあるので興味が倍層します。改めて音楽業界の人間関係の複雑さを認識させられました。ことに歌手たちをめぐるエピソードがふんだんに提供されており、まことに興味深いものがあります。

クラシック人生の100枚 宇野功芳責任推薦   
  例の宇野節がここでも健在です。
 トップにモンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」が登場します。もちろん宇野さんの推薦はシュナイト版です。対抗馬はガーディナー版。
「なんといっても曲が美しい。純粋無垢の極み。シュナイト版は演奏者の存在を全く感じさせない。聴く者は全てを忘れてモンテヴェルディの至高の音楽に浸ることが出来る。この種の曲では、それがいちばん大切だと思う。ほとんどのパートを少年がうたっていることで、まさに天使の声、純粋なハーモニーが悲しいほどの寂光をおびて流れてゆく。その中に身を浸す浄福感は比類がない。この世にこれ以外の音楽は必要ない、とさえ思えるほどだ。」

No.39 (2003年9月30日)

「リヒテルと私」 河嶋みどり著 草思社 9月26日発売 1900円
 20世紀後半における最も偉大なピアニストと位置付けてまちがいないであろうリヒテルの生の人間性に触れうる数少ない著作と思います。著者はロシア語通訳として大阪万国博覧会におけるリヒテルのアテンドから始まり、1997年にリヒテルが没するまで日本での8回にわたる公演はもとより、欧州でのリヒテルの付き人として、きわめて身近にしかも長時間にわたり接してきただけに、話が大変具体的でビビットにリヒテルの日常生活ならびに人となりが紹介されています。
 それにしてもリヒテルの日本びいきには日本人として嬉しくなってしまいます。
 またヤマハの技術陣に対する信頼は深く、またヤマハ側も誠心誠意ピアノ世界の宝であるリヒテルを大事にしていることが窺われます。
 ヤマハのピアノ調律師である村上輝久さんが書いた「いい音って何だろう・・あるピアノ調律師、出会いと体験の人生」(ショパン出版)と合わせ読むと、リヒテルについてトータルなイメージが得られルのではないでしょうか。
 河島さんの膨大な日記が背景にあるだけに、とても細部にわたって書き込まれており、欧州各国の比較文化論・風俗論にもなっています。
 同時にソビエト時代の政治的な問題も背景にありますので、われわれには想像のつかないような困難な場面もあったのだろうと思いますが、リヒテルの価値はソ連の政治家にも十分認識されていたようです。
 この本を読んで久しぶりにリヒテルの「平均率」を聞きたくなりました。
 買って損のしない名著と思います。

No.38 (2003年8月27日)

ショパンに愛されたピアニスト ダン・タイ・ソン物語  伊熊よし子著
 アジア(ベトナム)人で初のショパン・コンクール優勝者(1980年)で、少年時代はベトナム戦争のまっただ中。その後想像を絶する悪環境で、波乱万丈の人生を経て、今や静かに大成の境地に至っています。優勝した当時は政治的配慮の優勝ではないかとも言われましたが、今や押しも押されぬマエストロであり、特にショパンほか、ロシアものを得意としているようです。僕が1992年にハノイに駐在していて、カシオのエレクトーンの展示会をしたのですが、その時の開会挨拶として「この楽器を子供さんに与えてください、そして第2のダン・タイ・ソンを育ててください」と申しあげたことが昨日のように思いだされて、懐かしい思いで読み終えました。

 

No.37 (2003年7月24日)


「森の歌」 ~山本直純との芸大青春期〜   講談社文庫 岩城宏之
単行本が出されて久しいのですが、今回新たに文庫版がでたので読んでみて、改めて岩城さんの文才に感服しました。また直純さんの何と才能豊かな奇人・変人ぶり?
それにしても岩城さん・直純さんの二人の間の「男の友情」の何と素晴らしいこと!そして芸大の奏楽堂を臨時に使わせてもらっての指揮科創世記物語。カラヤン来日時のモグリ入場がかなわなかった模様。直純さんの「無賃乗車癖」、渡辺暁雄さんとの師弟愛。芸大内での学科による上下関係など、芸大内部の学生の息吹が直接感じられます。そして一番うらやましいことは半世紀前には皆が貧乏であってもすべての面で何かほのぼのとした温かみが感じられることです。山本直純さんが往って1年経過、特別CDやら特別演奏会やらが目白押しです。あらためて小澤征爾さんとは一味ちがう、切れ味の鋭い才能が存在していたことを知り、そしてその早すぎた終焉を残念に思うしだいです。

No.36 (2003年6月26日)


「團さんの夢」 著者 中野政則 (「團伊玖麿さんの音楽を楽しむ会」代表) 出窓社
2001年5月17日に旅先の中国で急逝した團さんの合唱組曲「筑後川」を原点とする九州とのかかわり合いを中心にすえて、自叙伝に近い構成で話が進みます。ご存知の祖父にあたる團琢磨が暴漢に撃たれた時に着ていた背広の写真が掲載されています。九州は團さんの両親の故郷であり、その意味でも團さんは九州には特別の思いを抱いていたようです。また團さんの妹さん朗子さんがブリジストンの創始者である石橋家に嫁いでいることから、ブリジストンの本社がある久留米市との関係が深まります。三池炭鉱の作業員用に地下タビを作ったのがブリジストンの創業とは初めて知りました。ともかくこの石橋さんが大変なメセナ信奉者で、メセナ担当の副社長をおいたくらい。このメセナ担当の副社長に仕えたのが著者の中野さんです。
本書の扉ページに團さんの「筑後川」初演後のサイン入り色紙(1968年12月20日)がありますが、
團さんは九州にまつわる40曲にものぼる合唱曲・歌曲を書いていることからも、九州に対する思い入れの深さが判ります。僕も福岡に3年弱住んでおりましたので非常に身近に感じながら読了しまし
た。九州ご出身のメンバーは是非一読を。

No.35 (2003年5月22日)


「目覚めのバロック」 日野直子 星の環会出版 

著者は言わずと知れたNHK-FM「朝のバロック」のナビゲーターを10年間にわたって努め、2000年に番組を引退した方です。この番組はズーっと遥か昔から途絶えることなく続いていたものとばかり思っていたら、途中で中断が2度あることがわかりました。
1963年に最初の「バロック音楽の楽しみ」が服部幸三さんの解説で始まりました。ところが65年に一度中断され一年後の66年には復活しております。このあとで日本におけるバロック音楽の大家としてすっかり有名になった皆川達夫さんが登場します。皆川先生と古楽とのそもそもの仲介役となったのが隠れキリシタンが継承してきた「オラショ」であったとのこと。この辺大変興味深く読みました。そしてこの番組は再び85年に廃止の憂き目にあい、何とこれが復活したのは90年の春からです。それからが日野直子さんの登場です。あの落ち着いたアルトの声がなんともいえない癒し系の響きでしたね。リスナーからの便りを中心に、またリスナーとの直接面談などを踏まえて日本でのルネサンス・バロック期の音楽の広まりが具体的な声で紹介されています。皆川先生は勿論、礒山先生も「日本で古楽普及に大きな貢献をした」として著者と番組そのものを高く評価しております。小生の「古楽事始め」はまさにこの番組によるところが多く、その裏話などに触れることが出来大いに参考になりました。なおテーマ曲選定を巡ってのディレクター氏の苦労話が印象的です。また皆川先生が古楽ビギナーに勧める曲としてモンテベルディのマドリガル集、しかもその第6巻を一番に上げていたので正に「わが意を得たり!」です。小生の合唱音楽との最初の出会いがこのマドリガル集第6巻の「アリアンナの嘆き」だったのです。
『朝のバロック』を今朝聞いて見ましたら案内は内藤和江アナウンサーになっていました。

No.34 (2003年4月29日)

No.33 (2003年3月31日)

モーツアルトの「レクイエム」バイヤー版のCD案内 

私の手持ちCDの中で「バイヤ-版」に絞ってご紹介します。

@ ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー合唱団  (同メンバーでジュスマイヤー版もあるので注意)
マリナー手勢のアカデミー合唱団なのでのびのびと歌っている。1,000円とお得値段。
A アーノンクール指揮 ウィーン国立歌劇場合唱団  Warner ClassicsBEST100
B バーンスタイン指揮 バンブルグ歌劇場合唱団 ENTREE
独唱陣が豪勢。若きころのマリア・ユーイングやジェリー・ハドレーが登場。テンポは60分を超えるスローテンポ。88年のライブ録音。バーンスタイン最晩年の「レクイエム」。
C ◎ベリニウス指揮 シュトットガルト室内合唱団
軽快なテンポで46分。合唱団がメロディーラインを非常に鮮明に歌っており、フーガとてもきれい。玄人好み。 お勧めの一つです。CARUS83.207 2,250円
D◎アバド指揮 スウェーデン放送合唱団  (バイヤー版。ロバート・レヴァイン併用)
合唱団がやはり素晴らしい。独唱陣も充実。カラヤン没後10周年記念演奏会タイブ。
独唱陣はカリタ・マッティラ(s)、サラ・ミンガルト(a)などで、実力者ぞろい。DGG1890円。

*ジュスマイヤ-はモーツアルトの弟子でモーツアルトと同世代ですが、バイヤーはミュンヘンのヴィオラ奏者で
現在の人間で、かれの手による新改訂版は1971年に刊行されております。

No.32 (2003年2月27日)
  
最近の演奏会から

2月19日に王子ホールでの「波多野睦美&つのだたかし」演奏会に出席しての感想。波多野さんはこれまでもバッハ・コレギウム・ジャパンのソリストなど多彩な活動をしておりますが、ベースはイギリスで伝統ある「トリニティ・カレッジ」で築いた模様です。
  したがってイギリスのバロック時代の声楽曲は大のお得意といったところ。それに加えてフランス語の近代ものや、さらには今回の「アルフォンシーナと海」のタイトルにも見られるようにスペイン語もこれまた聴衆をうならせるに十分。つのだたかしのリュート伴奏でこれまでにも5枚ほどCDをだしていて、いずれも感心して聴いておりましたが、王子ホールでの生演奏はまた格別でした。何と三国連太郎さんや版画家の山本容子さんなどが来ておりました。そして山本容子さんは23日のNHK FMのリクエストアワーのゲスト出演の際に波多野さんのこの演奏会を大変推奨していました。
 なお今回の演奏会に先立ち「アルフォンシーナと海」のCDが出されています。先行して発売されたダウランドの歌曲集「涙よとどまれ」や「Ancient Songs」と並んで彼女とつのだたかしのコンビの決定版になるのではないでしょうか。

No.31 (2003年1月30日)

今月楽しんだ演奏会 

山下牧子メゾ・ソプラノ リサイタル (1月18日 旧奏楽堂) 昨年末の東京芸大の「メサイヤ」のソリストとして登場しておりましたが、彼女の単独リサイタル を聞きに行きました。期待にたがわない充実したリサイタルでした。プログラミングもアルバ ン・ベルグから始まって林光、フォーレ、そしてベンジャミンブリテンがアレンジしたイギリス民謡につ づいて同じくブリテンの「子守歌のおまじない」の5曲といった、非常に意欲的なもので した。イギリス民謡はよく歌われている「O Waly, Waly」でしたが波多野睦美さん声のほうが ノン・ビブラートでマッチしているのかもしれません。もっとも波多野さんはイギリス本場の名門で あるトリニティカレッジで研鑚を積んでおり、ことイギリス物については他の追従を許さないだけの実 力の持ち主です。 山下牧子さんは広島大教育学部を経て現在東京芸大博士課程に在学中。ドイツ語がとても きれいです。おまけにフランス語、さらに現在は英語ものに取り組んでいるそうで、彼女 の多彩ぶりに圧倒されそうです。 このリサイタルには何とあの大先輩の林康子さんも見えており、小生のすぐ後ろで聞いて いました。 今後とも大いに注目していきたいと思います。背が余り高くないのが玉に瑕かな? ズボンものを演ずるには少し無理があるかもしれません。

No.30 (2002年12月26日)
    
最近面白かった演奏会

12月11日上野文化会館での「芸大メサイア」。指揮がBCJの鈴木雅明です。
合唱指揮が今や芸大合唱団のお抱え?との感がある栗山文昭でした。
さすが芸大で管弦楽、合唱団ともにとても澄んだ響きで鈴木雅明さんの指揮にぴったりつ
いていっておりました。独唱陣ではアルトの山下牧子がとても印象的で将来の有望株と思いま
した。彼女は既にBCJの合唱団のメンバーでいろいろな公演に出演しています。24日のサントリー
ホールでのBCJクリスマス・コンサートでおなじメサイヤで合唱団の一員に加わっておりました。また来年4
月18日のBCJ「マタイ受難曲」でも合唱団のメンバーです。現在芸大大学院生だそうですが
1月18日には旧奏樂堂で独唱会が予定されるなど、比較的有望新人が少ないアルトだけに
今後の彼女の動きをフォローしてみたいと思います。
なお芸大メサイヤの歴代ソリストを眺めていると大変興味が湧きます。1951年が第1回です。四家
文子、畑中良輔、大橋国一、栗林義信、成田絵智子、関種子、柴田睦陸、中山悌一、林康
子、井原直子、29回には平松英子さんが登場。31回には河野克典さん、36回には栗林明子
さん、37回では天羽明恵さん、38回では小川明子さんなど現在一線で大活躍中でまた我々
とも馴染みの深い方々が登場しています。
それでは皆さん、どうぞ良いお年をお迎えください。来年もまたよろしく!!
 

No.29 (2002年11月28日)   

                                           
小生の「クリスマス・オラトリオ」コレクション一覧

@ カール・リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ合唱団   1965 ミュンヘン              Arhiv
A ジョン・エリオット・ガーディナー指揮 モンテヴェルディ合唱団  1987ロンドン          Arhiv
B カール・ミュンヒンガー指揮 シュトットガルト管弦楽団・合唱団 エリー・アメリンク他         LONDON 
C ニコラス・アルノンクール指揮 コンツェルト・ムジクス・ウィーン                  ARTEWERK 
D ハリー・クリストファー指揮 ザ・シックスティーン                      Collins 
E エリック・エリクソン指揮 エリックエリクソン室内合唱団 モニカ・グループ他            VANGARD
F フィリップ・レッジャー指揮 キングス・カレッジ合唱団 エリー・アメリンク、ジャネットベイカー他      EMI
G 鈴木雅明指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン モニカ・フリンマー、米良美一他           BIS
H ヘレベッヘ指揮 RIAS室内合唱団  アンド゙レア・ショル他                 EMI 
I ミッシェル・コルボ指揮 ローザンヌ声楽アンサンブル                     ERATO
J ラルフ・オットー指揮 コンツエルト・ケルン、フランクフルト声楽アンサンブル モニカ・グループ他       Capriccio
K ジェラード・ウィルヘルム指揮 シュトットガルト聖歌隊合唱団               haensller
L ギュンター・ジェナ指揮 ハンブルグ聖ミカエル合唱団 ペーター・シュライアー、アンドレア・シュミット他  TELDEC
M トン・コープマン指揮 アムステルダム・バロック管弦楽団・合唱団    ERATO
N VIDEO エリック・エリクソン指揮 エリックエリクソン室内合唱団 モニカ・グループ他 BS2から3夜エアチェック
O DVD ガーディナー指揮 モンテヴェルディ合唱団  99.12 ワイマール・ヘルダー教会ライヴ    TDKコア
小生のお気に入りはA、E、それにやはり@でしょうか。
勿論VIDEO,DVDの二つは絶品です。

No.28 (2002年10月31日)
                                 
今月おすすめの本

「音楽家になるには」   中野 雄 著 ぺりかん社 
 現在中高生にとって憧れの職種は音楽関係がダントツの1位だそうです。そこで幅広い視点から音楽家になるにはどのようなハードルがあるのか、または必要要件は何か、果たして音楽家という職業は採算?が取れる代物なのか等等について、著者がこれまでにクラシック音楽プロデューサーとして培ってきた幅広い人脈から生の声を聞き出して紹介している。
 登場する音楽家は諏訪内晶子、小山実稚恵、小澤征爾、池田直樹、佐藤真、天満敦子など多彩な分野の一流メンバーがとりあげられております。それぞれの人となりなども浮き彫りにされていて、非常に興味深いものがあります。
 また天満さんの紹介で一部で大変人気のあるルーマニアの作曲家ポルムベスクの作曲した「望郷のバラード」のCD誕生のエピソードなど、現場にいた人の言葉だけに説得力があります。


「世界最高のクラシック」 許 光俊著 光文社新書
 フルトベングラーからサイモン・ラトルにいたる時代の名指揮者26人を取り上げ、26人を5つのカテゴリーに分類している。各指揮者の得意とするレパートリーをとりあげながら、 人となりや音楽に対する姿勢についてさらりと触れています。私の世代のレコードファンには御馴染みの指揮者列伝として、気軽に読めるうえに夫々の指揮者の生存年代を確認することができます。読み進むにしたがって著者が推薦する各指揮者の名盤を聞いてみたくなります。

No.26 (2002年8月29日)

今月の一冊 

○「コルトーティボーカザルス〜夢のトリオの軌跡」ジャン・リュック・タンゴー著 ヤマハ  
かの有名なトリオの、そもそもの始まりから終わりまで、文字通り彼ら3人の軌跡を概 観した格好の音楽近代史。  
ちょっと粋で軽めのティボー、重厚で常に3人の箍を締める役割のカザルス、その間でコルトーが 自由に流している感じ。小生が一番最初に耳にしたコルトーの演奏はハンガリー舞曲第5番で、 恐ろしくルバートを利かせた演奏だったのがいまだ記憶に残っています。 このトリオでの現在入手可能なCDは、「大公」、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、ハイドンそれぞ れ一曲くらい(ただし銀座山野店では現在在庫なし)。  
カザルスがテニスが好きだったとは意外です。それにしても皆さんお盛んですね、こと  女性に対して。ルビンスタイン等も人後に落ちない粋人だったらしいです。カザルスおじさんに至っては失礼ながら女性の話となるとイメージが結びつかず困りますが、結構若いお嫁さ んに恵まれているのです。

No.25 (2002年7月25日)

今月の一冊 

「ピアノの巨匠たちとともに」 フランツ・モア著 音楽之友社 
ピアノ調律師の自伝。シュタインウェイ社の巨匠技術師として、自らが接したピアノの巨 匠たちとの風景。ホロヴィッツの章が何と言っても面白い。いかにも巨匠らしさが紛々と しており、巨匠なるが故の少々常識から外れた言動や、拘りの極限と思われる一幕があっ たり、ホロヴィッツが目の前にいるような 生き生きした描写であきさせません。なおモアさんはホロヴィッツ最後の東京公演にも同 行しております。 ついでもう一人の巨匠であるルービンスタインとホロヴィッツの比較論が興味深い。ルービンスタインはとても 気さくでフアンを大事にするのに比して、ホロヴィッは極端な恥ずかしがり屋で知らない人との出 会いには恐れを抱いたらしい。 その他ギレリスとの聖書プレゼントを巡るやりとりが、現在では信じられないほど厳しい当時 のソ連の政治環境のなかでの宗教生活の実態を知る意味で大変印象的です。 なおモアさんは第2次世界対戦で故郷の家が爆撃を受けたことがトラウマとなって、宗教 不信となった経緯やその彼が「神の存在」に目覚めていく過程などが彫り深いタッチで語ら れております。

No.24 (2002年6月27日)

今月のCD一枚

オランダ室内合唱団「Andrea Gabrieli」ダビデ詩篇集 指揮ポール・ヴァン・ネベル

ガブリエリはイタリアのルネサンス時代の作曲家としてモンテベルディなどの先駆けとなっています。ガブリエ
リの曲の美しさと相俟って久しぶりに合唱の素晴らしさを堪能いたしました。世界でトップ
クラスの合唱団として今やその名声は鳴り響いていますが、この合唱団はスウェーデン放送合唱
団やアーノルド・シェーンベルグ合唱団に比べると人数は少ないと思います。ソプラノが3名、メゾが4名
(カウンターテナー1名)、テナー6名、ベースが5名合計18名です。小生のこの合唱団のコレクションは既に
10枚近くになりますが、みなそれぞれ退屈しないで聞けます。GLO 5210

今月の一冊 「昭和激動の音楽物語」 高橋巌夫著 2200円 葦書房

・戦中から戦後25年あたりにかけての日本の音楽界の複雑な状況がよく分かります。この作者
の経歴が変わっていて楽器店勤務の後1940年頃から音楽プロデューサーの草分けとして多くの演
奏会を手がけた人物。
・ この本でメンデルスゾーンの「エリア」の日本初演が紹介されています。昭和22年10月に「楽聖
メンデルスゾーン百年際記念音楽会」を企画、そのプログラムに「エリア」をとりあげたが、当時楽譜が日
本になくて進駐軍の協力で公演にこぎつけたらしい。したがって日本初演は横浜の第8軍の
専用劇場だったよし。
・又12月には日本人観客向けに公演。東京フィル、宗教音楽研究会(遠山信二合唱指揮)等が出演。

No.23 (2002年5月30日)


今月の演奏会余禄 (畑 儀文、礒山 雅氏との出会い)

○5月18日に川越にある小さな教会で、ヘンデルのメサイヤを畑儀文さん等がソリストとして参加してる演 奏会がありました。小生の自宅から近いので聞きに行って来ました。  休憩時間に教会の中庭で畑さんと立ち話をしました。

(以下畑さんの話)  ・メンデルスゾーンの「エリア」は初めて歌うのでとても楽しみにしています。バッハの曲は馴染んでいるので それほどの緊張はないが、「エリア」は少し緊張しています。ところで本当に呼んで貰えるのでしょうか (?)。 シュナイト先生と一緒できるのは大変楽しみです。今度は東京におられるのが多くなってい ると聞いていますが合唱団の練習も先生の登場回数が増えているのではないですか(イヤー全くそ の通りで、フォロウするのが大変・・・宮森) ・昨年の「ヨハネ」はCD化するのですか(勿論その計画で進んでいる旨説明しました)。
                                       
○5月22日浜離宮 バッハ「ヨハネ受難曲」・・日本初のシングル編成による 演奏会からの帰りの地下鉄で、バッハ研究の第一人者である礒山雅さんと一緒になりました。ずうずうし いとは思いましたが、今回の特殊な演奏スタイルについての感想をきいて見たくて声をかけたら、それ から下車するまで30分ほどの時間を小生との話に付き合ってくれました。最後に先生から「初めてお目 にかかったとは思えませんね」との言葉を頂きました。光栄の至りでした。 

ところで話の中身は2000年のバッハ・イヤーの効果として最近の日本におけるバッハの宗教曲の一般化 の話題から始まり、日本の合唱団または合唱活動の欧米ことにヨーロッパとの違いなど(社会生活一般 とのつながりの深さなど)、また最近合唱コンクールの審査員をしている関係から合唱水準についての話題 にまで及びました。 
またバッハの演奏スタイルについて、今回の各パートがシングルで歌うのは作曲当時の考証に基づくこと ではなく、あくまで実験的なものであろうとのこと。日本でも最近各パートをダブルメンバーで歌う演奏スタ イルがみられるようになっているとのこと。
一方現在の日本でのバッハ受難曲におけるエバンゲリストとして 先生は波田野均さんを第1位にあげておられました(小生から大島博さん、畑さん、櫻田さんなどの名 をあげてみたのですが)。
礒山さんがミュンヘンに留学していたときにカール・リヒターがなくなりその後継者が誰になるのか結構大きな話 題になっていたのこと。その後、シュナイトさんが音楽監督に就任されたことは知っていたとのこと。 
先日NHKでサバリッシュ指揮で「エリア」の放映に際して、その解説を礒山先生がしておられましたので、 「エリア」についての感想を求めたところ、「実はエリアの物語そのものは自分としては余り得心していな い」とのこと。一方音楽そのものについてはメンデルゾーン独特の華麗さが随所に見られ、音楽としては大 変華やかな感じを与えるのではないかとのことでした。 
またバッハとヘンデルとモーツアルトは先生は3大ライフワークとしているよし。又最近の演奏家ではジョン・エリオッ ト・ガーディナーを買っており、最近DVDで出されたガーディナー指揮によるバッハのカンタータ集を学校の講 義に使っているとのことでわざわざ鞄から取り出して紹介してくれました。ガーディナーのカンタータ全集は現 在CDでは10巻ぐらい発売されております。 
その他同じくバッハ研究者として各種著述がある小林義武氏が先生の隣の席で聞いていたとのこと。 やはり専門家仲間でも相当注目された演奏会だったのですね。

No.22 (2002年4月25日) 

今月のCD掘り出し物

「ダニエル・テイラー(カンターテナー)Portrait」    ATMA ACD2-2228
 イギリス・バロックのスペシャリストと見られておりますがモントリオールで教育を受け97年のグラインドボーン
音楽祭でヘンデル「テオドーラ」で鮮烈なデビュー。
ロンドン・タイムズ紙で「seraphically pure」との評価をえておりますように正に天上の声で
す。69年生まれでこれからの注目株。マイケル・チャンスなどにも師事しているそうです。この
他"Tears of the Muse"(ダウランド特集)、"Sweet Love"等イギリスものが比較的多くCD
が出されていますが、この"Portrait"が一番広く彼の魅力をエンジョイできると思います。

「イスパニアの歌」 波多野 睦美(メゾ・ソプラノ) つのだたかし(リュートほか)
 ひさしぶりに波多野嬢の独唱集がだされました。彼女の「古歌」から始まって、現在8
枚ほど出ている古楽曲集は大いに楽しめます。バッハコレギウム・ジャパンのソリストとしても御馴染
みです。彼女が学んだ英国トリニティ・カレッジはその合唱団でも有名で、「Voce」を始めとして
のヒーリング系合唱曲は誠に天国からの響きに近い美しさです。是非一度この合唱団のCDを
お試しください。決して失望することはありません。小生は現在各種10枚程度手元にあ
りますのでお貸しいたします。

No.21 (2002年3月28日)  

今月のCD掘り出し物

メンデルスゾーンがもう少し永く生きていたら完成してたであろうオラトリオ「キリスト」のCDを入手し
ました。1部、2部のスケッチからの復元だそうですが、合計で約20分ほどの長さです。
キリストの生誕・受難・復活の3部で構想された模様ですが、復活の部分は完全に未着手のよう
です。2種類のCDを入手しました。一番新しい録音は昨年5月に北アルプスのマウルブロン修道院
定期演奏会のライブ録音です。テナーのソロに引き続いての男声トリオがとてもきれいです。また合
唱部分もマウルブロン室内合唱団(83年結成)がなかなか聞かせます。指揮者のユルゲン・ブッダイ
と一緒のCD録音が相当出回っております。このCDはプッチーニのグロリア・ミサとのカップリング。ど
ちらも面白いので一聴をお勧めいたします(新世界レコード)。あと一枚はシュトットガルト室内合唱
団、バンベルグ交響額樂団、指揮ベルニウス。第1曲がテナーではなくてソプラノの独唱になっており
ます。銀座山野で。

No.20 (2002年2月28日)  

今月のCDと今月の一冊

「カサド・アンコール・アルバム」 DENON 1575円
 生誕百年を迎えた今世紀を代表するチェリスト、ガスパール・カサドが妻の原智恵子の伴奏で1962
年に日本で録音したもの。時を同じくして、奇しくも昨年12月9日に逝去した原智恵子
を徹底した取材で克明に足跡を描き出した「原智恵子―伝説のピアニスト」がベスト新書から
出版されています。日本洋楽界の揺籃期における人間模様が赤裸々に描かれており、ま
た美貌でもあった智恵子を巡っての複数の男性の鞘当の様子が小説よりも面白く、結構
楽しみながら一気に読了しました。CDをBGMにして読まれたらいかがでしょうか。

「指揮者の仕事」−朝比奈隆の交響楽談義   実業の友社
 冒頭から小生の日頃のモットーにぴったりのお話です。
 彼曰く、音楽の楽しみ方は?との質問には「目をつぶって聴くんですな、そうして眠く
なったら、そのまま寝るんですな」と答えることにしているとのこと。正にわが意を得
たり!であります。小生は日頃コンサートで実践しています。
 昨年12月29日に93歳でなくなった朝比奈御大の追悼文集ですが、かれ独特の音楽談義
がふんだんにもられており、小生などは盛んに「フムフム」とうなずいてしまいます。勿
論ベートーベンの交響曲談義や、ブルックナーの交響曲について彼氏独特の視点から語られて
いますが、とても素直に聞けます。思えば一昨年年末に放映されたベートーベン交響曲チクルス
はやはり置き土産であったのでしょうか。
小生の大好きな指揮者の一人が去っていきます。

No.19 (2002年1月31日)    

メンデルスゾーン「エリア」の小生手持ちのCDを纏めてご紹介いたします。


1.サバリッシュ指揮 ライプチッヒ放送合唱団及び管弦楽団(PHILIPS438 368-2)
Ameling,Krahmer,Burmeeister,Schroeter,Schreier,Rotzsch,Adamほか
 *サバリッシュが68年に録音したもので、一番スタンダードな演奏と思います。独唱陣も素晴らしく、合唱団も非常に伸びやかで且つゆったりとしていて、聞いていて気持ちが良い。「エリア」を得意とするサバリシュだけに安心して聞けます。 

2.サバリッシュ指揮 NHK交響楽団 国立音大合唱団 (SRCR 2738-9)
これはN響定期1000回記念特別演奏会 1986年LIVEレコーデイング
 *解説書が大変詳細にわたっており、これ一冊があれば「エリア」が大体わかります。ルチア・ポップほかソリストたちも外人・日本人が競演。お買い得なCDかも知れません。現在銀座山野楽器で入手可能。

3.ヘルムート・リリング指揮 バッハ・コレギウム・シュトットガルト (haenssler CLASSIC)
合唱ゲチンゲル・カントライ ソリストのソプラノで現在欧州で大売出しのクリチーネ・シェーファーが起用されています。30名前後の合唱団ですが大変澄んだ音色と思いました。古楽界の大御所たるリリング指揮ですので、端正な演奏振りとの印象です。

4.ヘレベッヘ指揮 シャンゼリゼ管弦楽団 シャペルロワイヤル、コレギウム・ヴォカレ(harumonia
mundi 901463.64)現在古楽ばかりかロマン派にまで及んでCDを売りまくっているヘレベッヘですが、バッハの「ロ短調ミサ」の日本公演が目に焼き付いております。玄人好みかもしれません。独唱陣ではアルトに小生の御ひいきであるモニカ・グルプが登場しているのも嬉しい。

5.カンブレリング指揮 フランクフルト・オペラ管弦楽団 フィグラルコール (ALTENOVA)
  ここでもモニカ・グルプがアルトで起用されています。

6.クルト・マズア指揮イスラエル・フィル ライプチッヒ放送合唱団   (TELDEC)

7.コルボス指揮グルベンキアン合唱団・管弦楽団  83年録音  (ULTIMA)

8.ブルゴス指揮ニューフィルハモシア管弦楽団・合唱団  1968年録音(HMVD5727672)
  なにせ独唱陣が凄い。ソプラノ:ギネス・ジョーンズ、アルト:ジャネット・ベイカー、テナー: ニコライゲッダ
  バリトン:フィッシャーデースカウ  ただしこれは英語版。

9.英語版 ポール・ダニエル指揮 エイジオブエンライトメント  96年録音(DECCA) 

10.英語版 リチャード・ヒコック指揮 ロンドン交響楽団・合唱団   (Chandos)

No.18 (2001年12月27日)    2002年1月情報

今月のCD

○Morimur(我ら死す)ヒリヤード・アンサンブル  クリストフ・ポッペン バロック・ヴァイオリン

 これは正に9月11日から間もない9月19日にドイツで発売されたもので、 死」をテーマにしながら、なおかつそこからの再生を歌ったメッセージが素直に伝わり、ドイツと米国で大きな反響を巻き起こしたと報道されております。

 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番をばらして、バッハのコラールをその間に組み入れておりますが、カンタータ第4番の「Christ lag in Todesbanden」や「ヨハネ」、「マタイ」  からのコラールも取り込まれております。そもそもバッハ自身が自作・多作を含めたパロディを得意にしていたことは、ロ短調ミサでもよく指摘されている通りです。今やCDプロデューサーがバッハの曲を解体して再構築する時代になりました。今後この手法が案外とはやるかもしれませんね。なおこのCDの演奏者達は2月15日にオペラシティ・ホールで来日公演そするそうです。どうぞCDと生演奏、両方を聞いて見ては如何でしょうか。(ユニヴァーサル ECM New Series)

○J・S・バッハ 「ヨハネ受難曲 (第2稿)」ヘレベッヘ指揮 コレギウム・ヴォカーレ

 バッハ存命中に「ヨハネ」は4回演奏されていますが、4回とも異なる楽譜が使われており、現在通常演奏される楽譜は1729年の総譜が基になっております。それに対して2稿は1725年に演奏されたものですが、その後あまり使われることもなかったせいか、現在耳にする「ヨハネ」とは相当異なっています。まず冒頭から全く違うのでびっくりします。「マタイ」第一部の終曲を持ってきております。いろいろびっくりする点が多く、「おやマー」的な「ヨハネ」ですが、結構聴きやすく楽しめます。バッハ・コギウム・ジャパンが来年3月15日にオペラシティホールで演奏いたします。これは大変楽しみなコンサートのひとつです。