2009/01/08
灰色のベンチから 135
NO. 135 疑惑の鳥インフルエンザ 繁殖シミュレーターって知っているかな。 有名なのだとねずみ算。 モルモット、治験体、実験マウス、 おれたち人間の勝手なネーミングで、 ことあるごとに進歩と発展の人柱(ねずみ柱か)に なってきた哀れな小さな哺乳類が、 どれだけの速度で数を増やしていくかってやつだ。 びっくりすることにねずみは、 生後半月程度で出産可能で、 かつ一回の出産で10匹以上を埋める。 更に妊娠期間はわずか一ヶ月ちょっと。 「仲むつまじいつがいのマウスが、 半年後に何匹になっているでしょう」 そんな生命力の生々しい姿を、データにとって 予測したりするのが繁殖シミュレーター。 固体は等しくひとつの点で表される。 二つだった点がみるみる短期間で増殖し、 生物としてのテリトリーを広げていくのだ。 図書館に行けば過程を詳しくレポートした書物が いくらでもあるから、興味があったら見てみるといいよ。 生命はいつだって魅力と興奮に満ちているんだから。 だけどちっとも愉快じゃない繁殖シミュレートもある。 それは今年、この国の一番おっかない問題に なり得るものだ。 点の増殖は美しき食物連鎖のピラミッドへの 新たな参入者の勢力を表すが、 同時におれたち人間の脆さもを露呈するだろう。 やつらは無色透明だが、とんでもないスピードで 自在に空気中を移動する。 おれたちに防御のすべはないし、 ハエ叩きで撃墜出来る代物でもない。 エネミーの登場さ。 キリストを基準に勝手に数千年の歴表を作って 我が物面で青き惑星に君臨しているおれたちも、 実は途方もない長い真空の刹那を縫って ジャンプしているに過ぎない。 食物連鎖は完全フリールールの競争を約束していて、 おれたちはいつだって下克上のクライシスに 見舞われているのさ。 エイズ、各種悪性腫瘍、深海生物に地面の奥深く。 未知の部分はつきないだろう。 王座はちっとも安定なんてしていないのさ。 ビニール袋で目の前の空気を切り取ってみろよ。 ほら、革命のはじまりの化学反応はそこで起きているのさ。 ■ おれがフィールドワークをはじめて5年目を迎えるけど、 たぶん数百、数千の情報がおれの前を駆け抜けていった。 受信サーバーがポンコツだから、 有益な情報を多く逃しているんだろうが、 それでも経験から、センサーが強い働く条件がある。 センサーなんてものじゃないな。 互いに強く惹かれあうSとM…じゃなくてSとNみたいに、 強い磁力がおれの食指を引っ張るのさ。 その条件は、強い情報筋からのリークでも、 政治家や官僚の助言でもない。 複数のルートから同じタイミングで同じ内容の指摘が あることだ。 これが発生したら、まず何かあると思って間違いない。 そしてそれが久々に起きたんだ。 ■ はじまりは2008年のエンカウントが一桁になった日。 骨折が治ってきた頃だったな。 包帯を外したばかりで、寒気がYシャツから入り込んで 仕事上懇談をした某製薬メーカーの男が、 うっかり口を滑らした。 菊池さんは話しやすいですね、なんて言いながら。 同年代だったのが大きいかもね。 「タミフルを今のうちゲットしといた方がいいですよ。 春の終わり…よりちょっと後かな。湿度が一気に高く なる梅雨くらいに、新型のインフルエンザが出回ります から」 この発言のおかしい部分、わかるかな。 その通りさ。‘出回る’ってところだ。 流行るではなく、出回るとやつは言ったんだ。 「今年の11月から12月にかけて、最新の鳥インフルが 流行して、その被害がすごいってニュースありましたでしょ。 でも言うほどではないと思いませんか。 学級閉鎖がちょこちょこあったくらいで、予測されていた よりはずっと小規模でしたよね」 確かにそう。 おれはちょうどインフルエンザでの学級閉鎖に絡んだ事件 に関っていたから、実態は自分の目で確かめていただけど、 報道されるニュースのパンチの無さには驚いていた。 ブログでも先行して警告していただけに、 ひょっとして人類の情報網が、 ウイルスの繁殖能力を上回ったのかなんて楽観も少し。 「でも実際は違うんですよ。 流行時期を遅らせたんです。 詳しく話していいのかな…簡単に言うとですね、 今流行っているインフルは本命じゃないってことです。 それをカモフラージュにして似たような症状の本物も 混ぜ込んでいるんですよ」 これには思い辺りがあるだろう。 年末に配信した記事の通りさ。 結果、数日後にそのウイルスを知ることになるんだけど、 あまりにもアバウトな話だったから、 インフルエンザの派生版とは書かなかったんだ。 (読んでない人のために簡単に症状を書くと、 胃がおかしくなって高熱が出るのは一緒。 その後鼻風邪や咳のオプションがついてきたりするが、 新型はそこからが地獄になる。 食べ物を一切体が受け付けなくなり、 何を食べてもすぐに戻しちまうようになる。 これの何が厄介かって薬が飲めないのさ。 血液に直接注射するか、点滴で済めばいいんだけど、 発祥している時には立ち上がれないくらいの ダメージを与える上に、食えないから解熱や痛み止め も飲めない。 結局即効性のある座薬タイプを作って、内臓のアラート を消してから、ようやく通常の薬を摂取するしかないのだ。 勿論、風邪だと思って放置しておいたら死亡の可能性も じゅうぶん出てくる。熱は40度近いわけだし、 免疫力はハイスピードで落ちていくんだからね) 薬品メーカーとウイルスの関係をごたごた言うのは ナンセンスだ。この際深く言うのは止めよう。 全部が悪なわけではないからな。 いずれ流行してしまうものを、コントロール化で 一気に増殖させて死滅させてしまうって点では 現在の化学では消極的だが最良手段だっていう意見も あるくらいだからな。 (PCのウイルスソフトと新型ウイルスの関係だって同じ だし、他の業界だってこの手法は常套手段として 用いられてるものな) だけど新型ウイルスの繁殖を数ヶ月先を読んで どうこう出来るほどのコントローラーを厚生省だか 薬剤メーカーが手にしているのは信じがたかった。 一体どうやって…。そもそも話は本当なのか。 妙な気持ちを、黒ずんだ空とリンクさせて、 2008年を終えた。 ■ メディアが一斉にアップテンションを国民に強制し、 今年の日本のスタンスをこれ以上ないくらい わかりやすく説明してくれた元旦。 去年の暮れの疑問は、一気に疑念に変わった。 「厚生相の知人から聞いたのですが」 「私の兄が某官僚なのですが」 「薬剤メーカー勤務のものです」 前置きはそれぞれだし、おれはそんな部分より 内容しか見ないからどうだって良いんだけど、 三通のメールの要点が見事に一致したんだ。 その内容は前段落の奴の話そのままさ。 「今年新型インフルエンザが流行するだろう」 違ったのは流行ると予測される時間軸だけ。 5月、6月、7月、8月と120日間の余白はあるものの、 同タイミングで、しかもネット上の誰かのブロードキャスト じゃなく、現実の生きた情報として出回っているものだ。 さすがに4人の証言が重なったことで、 限りなく黒に近い案件として優先順位を上げた。 とは言っても正月スタートには仕事が山積みだったし、 有料版の為の調査も予定してたから、微妙なラインとして 浮上してね。 あと一人同じ情報が来たら、記事を書こうと決めたんだ。 東証がスタートダッシュを決めると躍起になっている空気に、 根拠のないガンバルが蔓延する中、 おれはまだ見ぬ謎の生命体にリーチをかけて、 静かに配牌を見る時間を送った。 ■ この記事が公開されている通り、 最後の一押しは読者からあった。 1月4日。世間の正月休暇最後の日だ。 それも一層具体的なオプションが追加されてね。 その人物の時期予測は7月だったが、内容はやっぱり インフルエンザの流行だ。 肝心のオプション事項は、「タミフルの枯渇」。 今のうちにタミフルを入手した方がいい。 医者に行けば手に入る。 そう言っていた。 五つの偶然はそう起きないだろう。 おれは決心して、この記事をここまで10分くらいで 書きなぐっているってわけ。 配信されるのは来週だろうが、 その頃までには何か手がかりも掴めているだろうか。 まだ情報が不十分で、書けることはこのくらいまでだけど、 あんたも余裕があったら入手しておくに越したことはない んじゃないか。 役に立たなかったらそれで良いし、万一の保険さ。 タミフルは医師の処方があればすぐに買える。 勿論、そんなことはあり得ないってんなら、 その必要はないけどね。 別におれは厚生相の回し者じゃないからさ。 ----1月10日 補足---- 間違いないのは、遅かれ早かれ新型の鳥インフルが 襲ってくることだ。既に第一波は過ぎ去ったが、 やつらは消えてなくなることはない。 時間的ラグはあっても、必ず発見された型は世界の どこかを襲っているからね。 そして今回は場所と時間がある程度予測されている。 注意するに越したことはないだろう。 背後の陰謀とか、誰かがこの一件で得をするとか、 その辺は無根拠だから書けないけど、警戒はした方が いいに決まっているからね。 取材からじゃなくて、ちょっと冷静に考えて検索して わかったことがある。 おれいリークされた情報は、ほとんど同じタイミング、 特に2,3,4件目は同じ日に送られていることから、 恐らく前段階(一件目の段階)でどこかで認識されて、 それが数日のラグを置いて会合やら挨拶周りの際に、 注意喚起されたのだろう。 (1月1日の午前中に会合があった関係組織を洗えば、 多分発信元がわかりそうだ) そして最後の5件目の読者は、零れ落ちた情報の欠片 に、精度を加えておれに提供してくれた…って線で 一応考えている。 ------------------------------------- スイッチがどこにあるのかはわからない。 もっと正直に言うと、ウイルスの勢力拡大によって、 一体誰が得をして、どんなことが起きるのかも、 もっと深いエッジで探る必要があるだろう。 タミフルが売れるからとか、そんな単純な問題じゃ ないのは言うまでもないよ。 うまくいけば首都機能が大幅ダウンするって話だろ。 おれたちが毎日無料で吸い込んでいる この濁った都心のエアーには、 一体どれだけの思念と疑惑の粒子が 溶け込んでいるんだろうな。 500円払う余裕があるなら、 有料版も御ひいきに。 http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/67/P0006758.html KEN haiirobneti@gmail.com