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目 次 ]      月刊・お好み書き 1996年11月1日号



本音の大討論会
 「女子高生」って聞いて思い浮かべるものは? 茶髪、ルーズソックス、プリクラ、コギャル語、テレクラ、援助交際…。いやいやそんなの東京だけの話だよ…などなど、いろいろあるでしょう。ただ、ここ数年「女子高生」という言葉、あるいは現象が、マスコミをそして社会を賑わせているのは事実です。テレビ朝日の『朝まで生テレビ』でも7月12日放送分で「女子高生とニッポン」というテーマが取り上げられました。しかし、この時『朝ナマ』に聴衆として参加していた現役女子高生たちは「なんでウチらに、もっと発言させないんだ」と不満爆発。ついに自分たちが主催の「女子高生大討論会」を開いたのです。テーマはズバリ、「女子高生売春」。10月20日、渋谷で行われた第2回目の討論会の模様をお送りします。
(大西 純)


参加した女子高生の面々(1人は中学生)。右端が主催者の柳川圭子さん
(討論会パネラーで写っていない3人は顔出しはダメ)




 大討論会を主催したのは柳川圭子さん。私立の共学の学校に通う高校3年生だ。ものすごい“やり手”である。月刊雑誌に連載を持ち、ラジオの高校生番組にも出演、女子中高生をスカウトして、各マスコミの取材対象に送り込むといったプロダクションまがいのことまで手掛けている。今回、討論会に参加した女の子たちも“柳川さん配下の”女子中高生ばかりだ。
 討論会の発端はテレビ朝日で7月12日に放送された『朝まで生テレビ』にある。テーマ「女子高生とニッポン」ということで、柳川さんが集めた13人も含めて女子高生50人が聴衆として参加した。話された内容は女子高生と援助交際、ドラッグなどについてだ。柳川さんらは自分たちも発言ができるということで参加したのだが、実際はパネラーがしゃべり続けるばかり。しかもパネラーたちは、女子高生はみんなウリ(売春)をしていると最初から決めつけて議論していた、と柳川さん。女子高生を十把ひとからげにして進められた話に腹が立ったのだという。
 じゃあ自分たちの『朝ナマ』を作って思い切りしゃべろうということで、女子高生討論会は実現したのだった。

渋谷にて柳川さん(左)  



 1回目の討論会は9月8日、新宿の「ロフトプラスワン」というトーク・ライブハウスで行われた。10社以上の取材陣を含めて150人を超える人が女子高生の肉声を聞きに集まった。座席も設けられないほどのギュウギュウ詰め、全員立ち見だった。
 僕は、この時は実際に行けなかったのだが、ニュース番組になったビデオを見る限り、怒号の飛び交う4時間半だった。女子高生と聴衆の大部分だった大人の男とのケンカという感じ。最初『朝ナマ』のビデオを見て「どの発言がムカツイタか」という女子高生がそれぞれ不満を言うことから始まった。ところが、一向に議論に発展せず、女子高生の雑談が続くばかり。あげくに「おなか減った〜」という発言も…。業を煮やした客が「君たちはチョームカツク以外の意見はないのか」というような挑発的な質問をしたのを皮切りに、ケンカになっていった。
 (客)「そういう行為(女子高生売春)が女として恥ずかしいと思わないんですか」
 「ウチらがやってるって決めてんの?」
 「ウチらにはカンケーねぇんだよ」
 ウチらがやってると決めつけんな、というのはわかるが、関係ないと言われると困ってしまう。女子高生たちの方が「援助交際」について討論しようと集まっているのに…である。とまあ、ビデオを見る限りこんな調子だった。お客はぐったり、だけどほとんど誰も、途中で帰らなかったという。
 ウリや、ドラッグをやっているコもいるだろう。だけど、みんながそうじゃない。そういう幻想を作ったのはマスコミである。私たちを「女子高生」という、ひとつの枠でくくらないでほしい。みんな一人ひとり違うんだから---という主張はわかった。しかし、それ以外の主張は、僕には伝わってこなかった。




 そして2回目が行われたのは総選挙当日の10月20日、場所も渋谷に移して行われた。議題は ウリ(援助交際)は悪いことか 女子高生が誤解されるような環境を作ったのはマスコミであるか---である。
 お客は60人くらい。テレビや雑誌の取材も来ていた。ルポライターの藤井良樹さん、東京都立大助教授の宮台真司さんがパネリストとして招かれた。“ブルセラ・ルポの第一人者”と言われる藤井さん、テレクラなどの今の風俗を研究対象にしている社会学者の宮台さんの2人は問題の『朝まで生テレビ』にも“女子高生派”という形で出席した。しかし「ブルセラをはやらせたのは自分のせいだ、と偽悪的なこと言うし、ワケわかんないことベラベラしゃべったり」と、逆に女子高生たちにムカツカれてしまった。で、今回は直接対決という触れ込みだったのだが、前回の反省? からか、女子高生たちの方がおとなしめで結局対決にはならなかった。
 討論会に参加した女の子は7人。高3が2人、高2が3人(うち1人学校へは行っていない)、高1が1人、中3が1人だった。まず各自が用意してきた自己紹介を朗読した。これが、なかなかおもしろかった。
 高山千春さん。ピンクのハデめのツーピースに白のブーツ、化粧もバッチリ…。ん〜かわいい…。


 「高山千春です。……目指しているものはコギャルです。やっぱり若いうちだけです。コギャルできるのは。今さらながら、がんばってコギャリたいと思います。でも、きょうのピンクのスーツは終わってるかもしんないと思ってます。私は埼玉に住んでます。田舎で〜す。ウリの相場も1万5千円だそうです。学校でお前ら売春してるだろとか言われるけど、してたら今ごろ、バックとかポーチとか財布がベルサーチだと思います。昔の彼氏に、俺は高山とヤッたとか言い触らされて迷惑しています。当時は中1で、そんなことしてないのに、今もしてないけど、信じてる人がいて困ってます」
 柳川さんが作った討論会用の資料にも同じような作文が載っていた。これも、おもしろいので抜粋して紹介する(当日不参加)。
 「せっかく援助やってんのにどーしてお金ないの?ってカンジ。……援助の人はK大出身の某大手電気会社に勤める29才なんだけど、あんまり連絡とってくんない。月30って約束してて、今度会うときは15万と、こないだ行った海外旅行のお土産くれるって言ってたけど本当なのかな…。ま、ウソだったら別の人見つけよっかな。1日1回はオヤジに声かけられてるから次の人見つけるのはかなりヨユー。友ダチの知り合いなんて月100稼いでるから私もガンバらなくちゃね。まだ欲しいモノいっぱいあるし…。でも、あんまりやりすぎちゃうと彼氏に悪いなぁ…。ごめんね、M君。欲しいモノ全部買えたらやめるから、絶対!好きなのはM君onlyだよ」
 「最近親、ちょ→っきびしくなった。中学んトキは、夜おそくても何も言わなかったのに、今じゃ、何から何まで文句言ってくる。私は別に悪いコトしてないのに。Shibuyaに行くコトが多くなったから帰りもおそくなっちゃう。うちの親ってば、コンドームもってるだけで、売春してるとか、渋谷=危ないトコみたいに思ってて、超あったまくるヨ! 渋谷たまってる人たちみんな、そういう悪いコトしてるってワケじゃないじゃん。ガスとかやってたってみ→んないい人ばっかだし…。」


柳川さんが作った資料のコピー。ある女子高生の日記風作文



 「Newsとかで、昨年くらいから渋谷24じかんみたいなのやってて、女子中、高生が、中心なってたじゃん。みんながみんな、売春とかしてるワケじゃないんだし…。売春してるコもいるケド、そのコ達は、お金目当てなワケでしょ? 親がくれないとか、おこづかいが少なくて欲しいものかえないとか、親がある程度moneyをくれれば、売らないんじゃないかなぁって思う。私もお金ないよ。何回、売ろうって思ったコトか…。でも私は売らないよ。この先もズット…たぶん…ね。だって、彼氏がいたらかわいそうだよ。自分の彼氏が他の女の子とやったら超Blue入るよ。だったら逆の立場も考えてみると、(男からみれば)、男の子だって、自分の好きな子が他の奴とやってるって知ったら悲しいと思う。お金は欲しいけど、ね。なんか、今日は、いろんなコトを考えさせられた1日だった」
 これって、彼女たちの本音なのかな? 文章もうまい。あったことをそのまま書いて読ませている。ともあれ、議題の援助交際である。


 渡部(わたべ)裕美子(高2)「援助交際は、別にいいと思う。だって…、お金がないんだもん。迷惑かけるっていったって、親とかにバレなきゃ、それはそれでいいじゃん」
 援助交際とウリは混同されがちだが違う。売春はやらないけど、デートしてお金をもらうという援助交際もある。この日参加したMILKさん(高2の年齢だが学校には行っていない)もウリなしの援助交際を中2から始め、最盛期は月に200万円も稼いでいたという。
 渡部「ウリですか? たぶんはじめは抵抗あるかもしれないけど慣れちゃえば平気と思う」
 柳川「でも、今現在やってないわけじゃん? それは、なんで? いい人がみつかんないから?」
 渡部「私に声掛けてくる人が少ないの、金額が。3万とか言うの。7〜8万欲しい」
 客席男「7万や8万で、体や精神を売れるもんじゃないと思います」
 藤井「体を売っても精神まで売ってるとは思わないよ。気持ちの上で割り切っちゃえばいいんじゃない。オレが取材した女の子でも、そこの所は吹っ切れてるよ。売春してることを彼氏に言ってる子もいるもん」
 MILK「7万や8万って私には安いけど、私の友達なんか(ウリを)手段にしか考えてないよ。精神とか考えるの1回目、2回目くらいじゃないですか」
 宮台「売春に対する脆弱な議論ていうのがあって、売春をすると心が傷ついているハズだとか、搾取があるハズだ、必ず誰かに迷惑をかけているハズだとかいう“ハズだ”という議論は、ほぼ現実によって裏切られてるんですね。迷惑をかけない売春や搾取のない売春なんて、いくらでもありますよ」
 MIKI(高2)「(藤井さんや宮台さんのように)売春が悪いと言わない大人が増えちゃうと、その通りだと思って、ある女の子が初めて売春したとしますよね。さっきから聞いてると初めのうちは少なからず傷つくんですよね。大人が(売春をするのも)いいよ、と言うのは良くないことだと思います」


左が宮台真司さん、右が藤井良樹さん



 宮台「売春で傷つく可能性があるというのは、良くわかるんですね。じゃあどうすればいいか。売春というもののイメージ、例えば、迷惑をかけるとか、自分が傷つくとか、搾取されているとか、そういうイメージに基づいて否定するんじゃなくて、現実の売春が、どこでどうやって行われているのか、例えば売春はすごい抽象的に危ないというけど、どういう危ないことがあるのかが具体的に資料を出して、女の子たちに徹底的に知ってもらう。もちろん、リスクがないわけじゃない。いろいろリスクがある中で、それでも売春やりますか、友達がやってたら止めますか、止めませんかていうことを、議論して自分で納得するわけ。確信犯になるんですよ。わかったうえで、やるやらないを決めるということが大事なんです。そうすると友達が売春してるから私もやるとか、パーティーで流れでとか、そういう流されて売春するパターンが減ります。結局、売春にしてもクスリにしても、タテマエのイメージを外して、現実をたくさんたくさん教えて考えていってもらうようにすると、実際にやる人間は減るんだよね」
 藤井「それって、すげぇ怖い話だと思う。確信犯ていうか覚悟決めて売春をバンバンやる子がどんどん増えるっていうのが今一番怖いですよ。若気の至りでやってる分には全然いいわけじゃん。取材してても若気の至りであってほしいと思うもん。でも確信犯でやられると、たまんねえなあと思うもん。覚悟決めてやってるんだったらいいと思う? そういう子が増えて来てると思う?」
 MILK「増えて来てると思うけど…どうでもいい」


 脇田恵里(高3)「前は、人が(ウリを)やってても全然関係なくて、勝手にすればっていう感じだったんですけど、今回イベントを通して、いろいろ考えるようになって、止め始めました。2人結構仲のいい子でいるんだけど、1人は聞いてんだか聞いてないんだかわからないけど、もう1人は、最初は怒ってたけど、最近やめようかなって言ってくれるようになった」
 宮台「すごくいいことだと思う。段階があると思うんだ。まず、流されてやるっていう段階、次に、何をやろうが勝手というお互い無関心あるいは無関心を装う段階、多分今はそういう段階だと思うんですけど、そこから次は多分、何をやるのもその人の勝手なんだけども、何を言うのも勝手、友達として自由にやめろとか、逆にいいじゃないかとか反論するとかいうコミュニケーションができる段階が早く来ればいいなあと思ってる。だからキミのような子(脇田さん)がいるのは心強く思います」




 このあと、テーマは女子高生とマスコミに変わり、議論は続いた。第1回目の時とは打って変わって、きちんとした討論会になった。それは、前回の反省とかいろいろあるけど、多分一番大きかったのは、みんな「女子高生」である前に一人の人間として発言したからのような気がする。
 「私は、自分は“女子高生”だと思ってないんです。としごろが高校生で、性別が女だっていうだけで…」
 遅れて討論会に参加した高1の女の子が言った言葉だが、僕はこの一言が一番印象に残っている。MILKさんは「自分は自分、他人は他人」と言い切った。高校に行っていない彼女が言ったのが象徴的なような気がするが、実は「女子高生」なんて存在しているようで実体のないものなのかなと思う。
 最後には「女子高生大討論会」という“衣”が脱ぎ捨てられていた今回のイベントは、大成功だったと思う。





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