今年8月、米連邦最高裁に初めてヒスパニック系、しかも女性の判事が誕生した。
ソニア・ソトマイヨール(55)だ。大統領のオバマが5月末に指名。上院は7月に公聴会を開き、8月の本会議で賛成多数で承認した。その過程では、「経験豊かな賢いラテン系の女性の方が、そうした経験のない白人男性より、よい結論を出せるだろう」という彼女の過去の発言を、共和党保守派が「人種差別的だ」と批判し、承認の行方は国民的注目を集めた。
日本の最高裁裁判官の選び方は対照的だ。だれを選ぶべきかという議論は起きず、一人ひとりの最高裁判事がどんな考えを持つのかが話題に上ることはほとんどない。
東大教授のダニエル・フットは、それを「名もない顔もない司法」と名付けた。
司法制度改革審議会は01年、「任命過程が必ずしも透明でなく、出身分野別の人数比率の固定化などの問題点」を見直すための適切な措置を検討すべきだ、と意見書にまとめた。しかし提言は、たなざらしになった。意見書が同時に打ち出した裁判員制度や法科大学院がその後、実現されたのとは対照的だった。
今年12月から半年の間に、日本の最高裁裁判官15人のうち、3分の1にあたる5人が定年を迎える。つまり、民主党政権が新たに5人を任命することになる。
退官する裁判官の出身は、弁護士、民事裁判官、検察官、学者、刑事裁判官。
これまでは原則として、前任者と同じ出身母体から選んでおり、あたかも官僚の人事のような色彩を帯びていた。特に法曹三者については、最高裁の意見をそのまま採り入れることが多かった。
鳩山内閣の任命のポイントは①任命過程を透明化できるか②出身の順番に縛られず、適材を登用できるか③5人のうち女性を何人登用できるか、の3点だ。
例えば弁護士出身者の場合、日本弁護士連合会が複数の候補者を順位をつけて最高裁に推薦
。それをもとに最高裁が内閣に意見を述べる。弁護士出身4人(最高裁発足時は5人だった)のポストを東京、第一東京、第二東京、大阪の4会がほぼ独占。「株」のようになっていた。
こうしたあり方については、日弁連内部でも「本当の適任者が選ばれにくくなっているのではないか」
と批判があり、推薦手続きの透明化、公正化を07年から本格的に検討し始めた。
日弁連はその中で、弁護士会が推薦して最高裁に送り込んだ判事の仕事ぶりのレビューを始めた。内閣の任命のあり方をチェックするためには、まず自らの推薦のあり方を検証しようというわけだ。
一つの有力な基準になったのが、少数意見の数や内容だ。それを比較すると「非常な個人差がある」ことなどから、資質に富んだ候補者推薦のためにも、「株問題」の解消が急務だ。そう結論づける報告書がこのほどまとまった。
内閣はどうすべきか。
最高裁の発足当初は、内閣は人事を、法曹三者や有識者らでつくる「裁判官任命諮問委員会」に諮問した。委員会は30人の候補者を内閣に答申。その中から初代の裁判官15人を内閣が任命した。
このようにすれば、誰を選ぶべきかの議論が外に見えるようになる。改革審の意見書も、この制度が参考になる、と明言している。5人代わるときだからこそ、全体のバランスを議論できる諮問委員会方式は有力だ。
(文中敬称略)
山口進(やまぐち・すすむ)
66年生まれ。社会グループで最高裁などを担当。
08年からGLOBE副編集長。
宮地ゆう(みやじ・ゆう)
74年生まれ。
社会グループなどを経て今年10月からGLOBE記者。
イラストレーション
川崎洋子(かわさき・ようこ)
63年生まれ。
「サンキュ!」など雑誌のイラストレーションで活躍。