2009年11月18日

竹中平蔵氏の理論は破綻していた

「頑張っている人も頑張っていない人も一緒になるというのは、ものすごく不平等だと私は思う」 

竹中氏は競争至上主義を掲げ、このような考え方で小泉元首相と共に今日の日本社会をつくってきました。その結果は、皆さんご存じの通りです。 


「オニギリが食べたい」と言い残して餓死した人もいました。昨年末の年越し派遣村の様相はまさに「悲惨」としか言いようがありませんでした。日本の貧困率は先進国では最悪のクラスです。 


すべての責任は竹中氏にあると私は考えます。その論拠をこの記事に記します。 


結論から書きます。竹中氏の理論に欠落しているのは、頑張っている人と頑張っていない人を分ける「評価基準の明確化論」です。つまり、優劣を何によって分けるのかが全く不明確であるということです。 


科学の科は分けるという意味です。竹中氏の理論は「頑張ったか」「頑張らなかったか」を評価するという非科学的な理論に、誰もがだまされてきたのです。 


人間の脳は「反射脳」「情動脳」「理性脳」に分かれますが、科学的に訓練された理性脳の活用なしに、「感情」を司る脳だけで人を評価することは、非常に危険です。なぜならば、理性的ではない感情的な脳で人を判断してしまうからです。極論を言えば、竹中氏の「頑張ったか」「頑張らなかったか」を分けるものは、個人の好き嫌いであると言えるのです。 


私は、ディズニーランド時代には毎年のように人事考課トレーニングを受けてきました。その理由は最後に書きますが、ディズニーランドは、日本の企業に比べ何十倍も「評価」については気を使って来ました。当然ですが、アルバイト一人ひとりに至るまで、一定期間ごとの「通信簿」をつけ、結果をフィードバックしていました。(今は知りませんが、スーパーバイザー制度が廃止されたということは、人事考課の分野でも仕事の品質は劣化しているものと考えられます。) 


トレーニングされた理性脳で判断した評価は客観的です。一方、本能や感情を司る脳で判断した評価は主観的にならざるをえません。この点が竹中氏の理論の破綻に結びつくのです。 


その理由です。儒教の影響が強い日本社会は、常に個人的「上から目線」でものを見る傾向にあります。評価とは、他人を公人的「横から目線」で見るということです。しかしながら、日本人はこの「横から目線」で見ることに抵抗を示します。なぜならば、横から見て、他人の成績を高く評価してしまえば、自分が追い抜かれると考えるからです。 


盆暮れの「付け届け」も、もらっていた方が、差し上げる方へと逆転する現象が生じることを恐れる人は多いものです。誰もが部下に対し「あなたは、私の上司にふさわしい人です。素晴らしい評価をしましたので、どうぞ私を追い抜いて行ってください。」などとは思わないでしょう。 


つまり、本当に「頑張った人」でも、上長の手の平の上での評価でしかないということです。 


さらに、竹中氏に決定的に不足している点は、「現場を知らない」という点です。教育現場や勤労の現場で働く人の価値観を全く理解していません。残念ながら日本の現場では、前述したように「好き嫌い」という個人的な価値観が様々な「基準」になっています。根底にあるのは「これよりあれ」「この人よりあの人」という「相対評価」思想です。 


一方、理性脳で個人を評価する欧米人の根底にある思想は「絶対評価」です。つまり、絶対であるものに則していたか則していなかったかを判断するのが「絶対評価」であり、キリスト教国家であれば、聖書の教えが「絶対」になります。ディズニーランドでしたら、「ディズニー哲学に基づいたSCSE」が「絶対」であり、常にこの判断基準に基づいた言行や評価を行います。 


これまでの日本は、「絶対」がありませんでした。何でも「カラスの勝手でしょ」で済まされてきました。つまり、絶対評価ができる人が日本に育っていなかったのです。このことに「無知」な上から目線の為政者が「頑張った者が・・・」と語っても、日本社会という現場において、個人の評価システムが正しく機能するはずがなかったのです。竹中氏の理論の破綻をご理解いただけたと思います。 


ディズニークリスマス・キャロルが警鐘を鳴らす「無知」とは実に恐ろしいものです。


 
私は、これからの日本の「絶対」は、誰もが受け入れることができる「友愛」であると確信しています。友愛はまさに横のつながりを「横から目線」で見ようとする思想です。福沢諭吉先生の「天は人の上に人を作らず人の下に人を作らず」とは、人は横の関係でつながっているという意味であり、日本社会に友愛の浸透を目指した福沢諭吉先生は、上から目線ではなく横から目線で見なさい、そう教えたかったに違いありません。 


最後に、ディズニー7つの法則(日経BP社)という名著から、いくつかの警句を紹介します。

 
  • 叱る回数が褒める回数の三倍もあれば、従業員の士気は上がりません
  • まるで何の反応もなかったとき、どんな気持ちがするか、よくわかっていないのです。何をやっても無視されていれば、何もやる気がしなくなってきます
  • “評価なし”のおそろしさを肝に命じておいてください


秋葉原連続殺傷事件も「評価なし」が犯人を犯行に及ばせたものと私は判断しています。裁判員制度もそうですが、「評価」「判断」を間違えると実に恐ろしいことになることを竹中平蔵氏に伝えたい気持ちでいっぱいです。