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オバマ米大統領が初めて中国を訪れ、胡錦濤国家主席と会談した。両首脳は二国間の問題にとどまらず、経済や安全保障、核、気候変動など世界的な幅広い問題での協調を誓いあった。
オバマ氏は今回のアジア歴訪で最長の日程を中国訪問にあて、中国側は胡氏ら指導者総出でそれに応えた。「米中G2」とも呼ばれるようになった時代を象徴するできごとだ。
米中の経済が切っても切れない関係に深まり、両国の協調なしに21世紀の世界的な問題は解決できないことを、両首脳が確認し合ったともいえる。
たとえば気候変動問題。オバマ氏の言う「世界最大のエネルギー消費者、生産者として」米中は、来月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)で、具体的な効果のある合意を目指すことで一致した。
オバマ氏が強調する「核なき世界」をめぐっては、来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議の成功や、共に批准していない包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准を約束した。
世界的な経済不況から立ち直る動きが確かでないなか、あらゆる形の保護主義に反対することで一致したが、タイヤや鋼管など米中間でくすぶる貿易摩擦では進展はなかったようだ。
両国の協調はまだ、できることから始めている手探りの段階だ。
北朝鮮やイランの核問題については協力を強めることで一致したものの、中国からの具体的な提案はなかったようだ。エネルギー確保のためイランに圧力をかけにくいなど、中国側の事情がみてとれる。
オバマ政権は発足以来、中国に対して、チベットやウイグルの民族問題や人権、自由といった面で強く働きかけることをせず、内外からの批判も浴びていた。それを意識したのだろう。オバマ氏は胡氏との共同記者発表でチベット問題に言及し、ダライ・ラマ14世側との対話再開を求めた。だが、共同声明には記されなかった。
会談で米国は、強大で繁栄し世界的にさらに大きな役割を果たす中国を歓迎すると表明した。中国は米国を地域の平和と安定、繁栄のために努力するアジア太平洋国家として歓迎すると応じた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の重要性も再確認した。
しかし、オバマ氏が今回の歴訪で強調する「米国のアジア回帰」には、この地域で影響力と存在感を増す中国への牽制(けんせい)の意図も当然含まれる。
米中の協力の深化は一本調子に進むものではなく、「G2」が唱えられることに日本の埋没感を覚える必要はない。北朝鮮問題の解決は米中がかぎを握る。一方で経済や地球環境など、日本なしに米中が突破できない課題は非常に多い。そうした重層的な役割分担を構想する時代になった。
鳩山政権が「地域主権戦略会議」の設置を決めた。民主党は政権をとったら本格的な地方分権を実現させると言ってきた。その司令塔になるという。
鳩山由紀夫首相が議長となり、国家戦略相、行政刷新相、財務相、総務相、官房長官の5閣僚が入る。首長や民間人も加え、総勢12人程度で今後の方針づくりや制度の設計にあたる。
自公政権時代は、有識者による地方分権改革推進委員会が案を練り、政府が引き取って取捨選択する方式だった。その過程で族議員や官僚の横やりが入り、勧告の多くが骨抜きにされたり、採用されなかったりしてきた。
この轍(てつ)は踏まないということだろう。政治家と有識者が同じ場で議論し、そこで決める。諮問、勧告、取捨選択して決定という従来の審議会型の政策決定を排し、首相以下の政治判断で即実行に移すという構想だ。
この新機軸はいい。中央集権という長年の日本政治の仕組みを突き崩す挑戦なのだから、態勢をしっかり固めてからというのも理解できる。
だが、それにしてもこれまでの取り組みはスピード感に乏しいと言わざるを得ない。公約だった地方と政府の協議の場づくりも、法制化に先立つ初会合がようやく開かれたばかりだ。
さて、では来年に向けてどんな分権策が日の目を見るかといえば、残念ながらほとんど見るべきものがない。
保育所の施設の基準や道路の規格など政府が自治体をしばってきた「義務づけ」が見直されそうだが、権限や税財源の移譲、国の出先機関の廃止は当面見送られる方向だ。公約だった、補助金を束ねて自由に使える一括交付金の創設も11年度予算からになる。
これでは有権者や自治体の期待はしぼむ。いつまでに何を実施するのか、必要な財源や権限移譲の手当てはされるのか。そうした人々の疑問に答える工程表と地域主権改革の全体像を早く示すことだ。
たとえば、総務相は1兆円余りの地方交付税増額を唱えているが、ではガソリン税などの暫定税率廃止で地方の税収が減れば、差し引きどうなるのか、財政の見通しが立たない。そんな状況で、権限や政府の出先機関の職員を引き受けていいのか。自治体側はとまどい、ためらう。
こうした視界不良を、急いで晴らさなければならない。
国民も不安を抱いている。分権はいいけれど、自治体に任せて本当に大丈夫かという疑問だ。地方議会も含めて自治のあり方をどう変えるのかを語らないと、この不安はぬぐえまい。
戦略会議をつくり時間をかけて取り組むというなら、鳩山政権はそこまで踏み込んだ青写真をきちんと示すべきだ。住民が自らの主権を実感できる仕組みを考えてこその地域主権改革だ。