挿し絵満載「現場に読ませたい」バラエティー番組作りの意見書
2009年11月17日19時49分 / 提供:産経新聞
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が17日、テレビのバラエティー番組のあり方をめぐり、制作現場に一定の「実効的な指針」を作るよう、日本民間放送連盟(民放連)に求めた。意見書をまとめたBPOの放送倫理検証委員会の委員たちは、アイキャッチのために意見書に挿絵を入れたり、「ですます調」ではなく、呼びかける話し言葉の口調で書いたりと、番組作りにかかわる人たちにメッセージが届くよう工夫を凝らしている。意見書提出後に開かれた会見では、同委員会のメンバーがそれぞれの思いを語った。
会見には、弁護士の川端和治委員長ら5人が顔をそろえた。冒頭、川端委員長は「『〜べからず』規定ではなく、世の中でもっと自由な感性を育てるための手助けになる“基準”をと思った。そのために、現場で『実効的な指針』を作ることが適切とした」と意見書を出した意義を強調した。
その上で、「各局の制作担当者から広く意見を交換したり、一緒にシンポジウムを開くことも検討したい」と続け、意見書をきっかけに、バラエティー番組のありようについて議論が深まることへの期待感を示した。
ここでいう「実効的な指針」という言葉には、強制力はないという。「番組作りの現場で誰もが理解でき、指針を念頭に制作することで視聴者の反発を避けつつ、より自由な表現ができる番組を自発的に作ってほしい」(川端委員長)との願いが込められている。
同委員会では意見書の作成にあたり、これまで9カ月間にわたり、議論を重ねた。それが一つの結論として実を結んだ。
作家の吉岡忍委員は「視聴者の意見を土台に、丁寧に視聴者像を探ろうと考えた。バラエティーには本来、旧習を揶揄(やゆ)したり、無意味なことを解き明かすといった役割があったはずだが、視聴者の反発を買う事態になっているのはなぜかを探った」と打ち明ける。
吉岡委員は今どきのバラエティー番組について「作り込まずにその場の雰囲気で作っている番組が多い」と批判しながらも、「(苦情が多いといった)現実を制作者に見ていただきたい。新しいバラエティー番組を作っていただきたい」と作り手側にエールを送った。
日本大学芸術学部教授の上滝徹也委員は「意見書にきちんと向かい合い、視聴者と向かい合うことで、今のテレビ離れの原因がどこにあるかが分かると思う。放送界全体で番組作りのあり方を考えてほしい」と意見を述べた。
東海大学文学部教授の水島久光委員は、バラエティー番組を議題にしてきた理由を「今の視聴者に放送を身近に感じてもらえているのかという疑問や、ある種の規制を番組作りに加えようという公的機関の動きも見られたことから、倫理面で番組作りはどうあるべきかを今、考えるべきではと思った。危機感があった」と明かす。
視聴者の批判のやり玉にあげられるといった一面はあるとはいえ、「バラエティー番組には人の和があり、楽しく集う、豊かなコミュニケーション空間を作ってきた。放送の歴史の中で、可能な限りのさまざまな表現方法を生み出してきた。その“るつぼ”がバラエティーだ」と評価した。
意見書には、制作の現場で汗を流す人すべてに手にとってもらいたいとの同委員会の思いがにじんでみえる。随所にみられる挿絵はその一つ。漫画家の里中満智子委員が担当した。
里中委員は「バラエティー番組に、そこはかとなく抱いてきた危惧(きぐ)が現実になってきたと思い、委員としての立場からの責任を感じた」と、議論を始めたきっかけを語った。
「BPOは高みから見下ろすということをしているわけではない。むしろ、表現や放送の自由が損なわれてはいけないと思っているし、総務省から番組作りで何かと言われるのはよろしくないと思い、お上とは違うスタンスで頑張っているんです」
テレビファンの一人としては今のバラエティー番組には納得がいかない様子で、「ここ何年か見ていたが、ハラハラしちゃう。その瞬間、笑っていればそれでいいという作り方が目立ちすぎている」と厳しく批判した。
その上で、「お上からおしかりを受けても、視聴者のひんしゅくを買っても、かつての制作者は覚悟と情熱を傾けて作っていた。視聴者は皆、生きる実感を味わったりするなど、テレビを通じていろんな経験ができた。視聴者と一緒に番組が作られていた」と指摘した。
そして、会見場に集まった多くの報道関係者やテレビマンを見渡しながら、「現場は大変だということは分かっています。でも、それを言い訳にしてほしくはない。楽をしては、ちゃんとしたものはできない。意見書は皆さんが頑張るための応援として作りました。現場では誇りと自信を持ってもらいたいのです」と強調した。
「余計なものだといわれるのを承知で、意見書を作りました。でも、読み物として心に響くように書きました」
心の底からバラエティー番組の行く末を案じているように見えた。
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