アムネスティ・インターナショナル日本支部発表(1998年10月27日)
AI INDEX: ASA 22/13/98
5年ぶりの日本政府報告書審査に注目
日本における囚人・被拘禁者、難民申請者の処遇改善、そして死刑制度の廃止に向けた確実な一歩を!
拷問等禁止条約と自由権規約の選択議定書の批准に向けて前進を!
5年ぶりに、日本の人権状況が国際人権基準によって審査されることとなる。日本政府による「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」の実施状況を審査する5年に一度の審査が、国連の市民的及び政治的権利に関する委員会(規約人権委員会)によって10月28日・29日、ジュネーブにて行われる。審査の後、規約人権委員会は、日本政府に対して「勧告」を含む「最終見解」を提示することになる。
国際的な人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナル(国際事務局:ロンドン、以下「アムネスティ」と略)及び同日本支部はこの機会を重視し、最近の調査結果に基づいて、囚人・被拘禁者、難民申請者の人権の保護や、死刑制度について規約人権委員会に問題を提起しており、委員会による勧告が、日本政府による人権状況改善のための具体的な措置に繋がることを期待している。アムネスティは、前回の日本政府報告書審査のあった1993年から今回の審査までに、独自の調査に基づき、日本の人権状況に関する報告書を合計6回発表し、それらに基づき、日本政府に人権状況の改善を要請してきた。今回の審査にあたっては、アムネスティ国際事務局の代表者がジュネーブに赴き、上記の課題に関してロビー活動を行っている。
1993年に行われた前回の審査において規約人権委員会は、死刑が適用される犯罪の数と質についての懸念を表明している。また、外部交通権(面会と通信)の過度の制限と、死刑の執行について家族に事前告知を行なっていないことについて、それらが自由権規約と相容れないとの見解を示している。しかしながら日本政府はその後、この問題について取り組む態度を示していない。死刑は依然として17の犯罪に対して適用されることになっており、死刑確定囚は死刑を執行されるまで何年にも渡って厳正独居拘禁を強いられ、外部との通信を最小限に制限されている。死刑判決が確定してから、彼らはいつ刑の執行を受けるかを知らされることはなく、彼らの家族や弁護士に対しても執行についての事前告知はない。これらは残虐な、非人間的なもしくは品位を傷つける扱いであり、改善されるべきである。また日本政府は、死刑制度を廃止するまでの期間において、すべての死刑確定囚に対する死刑の執行の停止を宣言すべきである。
参照:- 最近の死刑執行に関して
- 日本弁護士連合会の「死刑執行に関する事件委員会報告書」)
日本の刑務所、拘置所、警察留置場、そして入国管理局の外国人収容施設における、被拘禁者および囚人の処遇は劣悪なままである。1993年に規約人権委員会によって表明された、「代用監獄」に関する数々の懸念にも拘わらず、その制度は依然として維持されており、警察の留置場は被疑者に対する人権侵害の温床となっている。上記の拘禁施設内の被拘禁者は、公にされない様々な規則に従うことを求められており、それらの規則は時に残虐な懲罰を伴うものである。例えば、囚人はしばしば、お互いに話しをしたり、目を合わせることを禁止されている。また、彼らは許可なしに額の汗を拭うことすらできない。網の目のような内部規則に従うことを強制することは、残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いに値し、これらは自由権規約第10条と相容れないものである。
囚人たちは、規則に対する微細な違反を理由に残虐な懲罰を課されている。多くの囚人が、最長2ヵ月に渡って、一日に何時間もの間、決められた姿勢を崩すことなく独房に座らされることを強いられている(厳正独居拘禁または「軽屏禁」)。彼らは運動や入浴などを許されない。これは、残虐な、非人道的な又は品位を傷つける刑罰であり、ただちに廃止されなければならない。また囚人たちは、ベルトに固定された革あるいは金属手錠によって拘束されたまま、「保護房」と呼ばれる独房に拘禁されることがある。その場合には、動物のような姿勢で食事をとらねばならず、手を使わずに用便を足せるように、股の割れたズボンをはかされる。これらは、残虐な、非人道的な、もしくは品位を傷つける刑罰であり、自由権規約第7条および10条に違反するものである。日本政府は、これらの懲罰の実態を改める措置をとるべきである。
多くの囚人および被拘禁者は、刑務官、警察官、あるいは入国管理局の収容施設の職員によって身体的な暴力を受けたり、不満を申し立てたことによって懲罰を受けたと申し立てている。日本政府は、そのような人権侵害が起こることを防ぐために、適切な措置をとっていない。日本政府が何故、未だに不服申立てを受けそれらを調査する独立した機密の機関を設置しないのか、また何故日本政府は、拷問等禁止条約や、人権侵害の被害を受けた個人がその不服を規約人権委員会に直接申し立てることを可能にする、自由権規約の第一選択議定書を未だに批准していないのかについて、それらを明らかにすべく質問がなされることが期待される。
難民申請者および強制送還を待つ人々もまた、入国管理局の外国人収容施設において厳しい規則と虐待に苦しめられている。日本に入国する際に(空港や港で)難民申請を行なう意思表示をした者は、上記施設に収容されてしまうのが通常措置になっている。彼らは数ヵ月、時には数年に渡って収容され続け、日本政府が彼らによる難民申請を審査するのを待つことになる。
日本における難民認定は、非常に厳しいものとなっている。入国から60日を超えて難民申請を行なったものについては、実質的にその申請を却下されている。1994年から1997年の間に516件の新規の難民申請があったが、この間に難民と認定された者は毎年1人ずつでしかなかった。難民申請者は、難民認定審査の結果に関して、不認定の理由について詳細を知ることができないでおり、このことは彼らがその意思決定に対して異議申立てを行なうことを難しいものにしている。異議申立ては法務大臣に対して行われることになっており、独立した機関による審査過程はない。
参照:
アムネスティ・インターナショナルは、前回の日本政府報告書審査のあった1993年から今回の審査までに、日本の人権状況に関して主に以下の報告書を発表してきた。
今回の審査にあたってアムネスティとしては、これらの報告書で述べられている個別の人権侵害のケースや、日本政府に対して行なってきた勧告に基づいて、活動を行なうことになる。(アムネスティの年次人権報告「日本」の項も参照。1997年版、1998年版)
1993年に行われた前回の報告書審査後、規約人権委員会は、日本政府が自由権規約に規定されている締約国の義務を果たしていないとして、死刑の適用状況や、被拘禁者の取り扱いを含むいくつかの分野に焦点を当てている。しかしながら、日本政府はこれまで、それらの問題に取り組み、規約人権委員会による勧告を実施する努力をしてきたとは言えない。
委員会による勧告は法的拘束力を持つものではないので、それらを意味あるものにするためには、日本の人権状況が国際社会で検証された際にどう判断されるかという事実を国内の人びと(特に立法、司法機関)にきちんと伝えることが大切である。前回の勧告で指摘されている問題は、国内ではなかなか救済策のない問題である。にも拘わらず、同じ人権状況を議論して、なぜ国内とは違った反応や結論が出ているのか、その意味を多くの人が考えることが重要であろう。世界人権宣言が国連で採択されて50周年となる記念の年に、国際人権基準に基づいて日本の人権が検証されることには大きな意義がある。多くの人が国際人権基準に対する理解を深め、委員会における議論や勧告が国会に持ち込まれ、それが日本政府による実質的な措置につながることを期待する。その実現に向けて努力することは日本政府だけでなく、NGO、国会議員、報道機関などが共通に持つべき課題であろう。
アムネスティ日本支部は、現在取り組んでいるキャンペーンを通じ、今回の審査に関する情報を広く一般に伝えていくとともに、日本政府や国会に、適切なフォローアップを行なうよう、働きかけていく予定である。
○背景情報
自由権規約委員会(規約人権委員会)は自由権規約の締約国に選出された18名の専門家によって構成されており、規約に基づく義務の締約国による実施状況について監視している。専門家は個人の資格によって活動し、いずれの政府をも代表していない。規約人権委員会は年に3回開催され、締約国によって提出された報告書の審査を行う。現在日本の他にオーストリア、アルメニア、ベルギー、アイスランド、リビアの政府報告書の審査が行われている。
自由権規約は、生命に対する権利、拷問の禁止、身体の自由、法の下の平等、公正な裁判を受ける権利をはじめ、多岐にわたる権利を規定しており、各締約国は、条約の実施状況を規約人権委員会に5年ごとに報告し、審査を受けることが義務づけられている。今回の日本政府の報告書審査は93年に続く第4回目。審査にあたっては数多くのNGOが、政府報告書の誤りや、政府が規約違反と思われる問題を隠していたり、国内で述べていることとの食い違いを報告していることを指摘すべく、独自の報告書を提出したり、オブザーバーとして委員会の委員に対するロビー活動を行なう。今回の審査においても、日本の多くのNGOがそれぞれの関心事項に基づいて活動を展開している。
前回の審査で委員会は、日本政府に対し、拷問等禁止条約や、自由権規約の選択議定書の批准、すべての差別的法律の撤廃、死刑廃止に向けた措置、被拘禁者への処遇の改善や代用監獄制度の改善を行うよう、勧告を行っている。今回の審査においても、これらの問題を含む様々なことが議論され、委員会による勧告を含む「最終見解」が出されることになる。