<11月10日>(火)
○本日は岡三証券の法人セミナーで、エド・ハイマンISI会長とともに「米国経済展望」を議論しました。昨年もこの時期に同じ企画がありましたが、経済情勢がかくも微妙な時期に「30年連続全米第一位エコノミスト」の話を聞けるというのは、まことに得がたい機会というものです。でも、ホントにお相手がワシなんぞでいいんでしょうか。
○ハイマンさんがわりと楽観的な見通しなので、こちらからは「日本の経験」に基づいた悲観的な話をしてみました。とはいえ、もちろんそんなに大きく見通しが違っているわけではありませんでした。米国経済の戻りは思ったよりも順調で、それなりに期待は出来るのだけど、それではリーマン・ショック以前の水準に戻れるかというとそれは難しいし、出口政策を実現していくことも困難を伴う。それでも、「われわれは大恐慌を避けられたかもしれない」と考えれば、これは朗報というものでありましょう。
○確かに米国経済はあらゆる水準が低くなっているので、来年に向けてはGDPも輸出も住宅着工も新車販売も「伸びしろ」がある。でも、雇用が改善するか、といえばそれはかなり怪しい。昔のような5%前後の失業率に戻れるのは何年先か、と考えるとそこは結構ツライところがある。
○逆に新興国市場に対しては強気な見通しでしたね。名目ベース、購買力平価で見たGDPは、2010年に新興国の合計が先進国の合計を上回るのだそうです。これは歴史的瞬間ですね。中国の政策対応を高く評価しておられたのも印象的でした。でも、後で聞いたら「いちばん期待しているのはブラジル」なんだそうで、これもまたひとつの発見でありました。
<11月11日>(水)
○東北電力さんのセミナー講師のために仙台へ。先月に続いて2度目だが、この間に東北楽天イーグルスはパ・リーグ2位の座を獲得するし、ベガルタ仙台はめでたくJ1への昇格を決めた。その点、わが地元・柏レイソルは風前の灯というか、陥落寸前というか、独自の戦いというか、奇跡でも起こらない限りつらい立場である。むむむ。
○地元の方に聞くと、楽天もベタルタも集客力があり、応援の熱気も高まっているとのこと。仙台市民が地元チームを応援する楽しさを知ってしまったわけで、これならチームは豊かになり、戦力も補強でき、結果としてますます強くなるという好循環である。やはり時代は「札仙広福」でありますな。
○さて、今日のセミナーでは、もう一人の講師が地元企業サンドビック社の藤井社長で、この方の話を聞けたのが本日の収穫でした。同社はスウェーデンが本社の工具メーカーで、かつては「お荷物工場」と呼ばれ、本社から閉鎖を宣告されたのだけれども、「外様トップ」の下で見事に立ち直って、今では堂々と「中国に勝つ」経営をやっている。日経ビジネスにも載った話なので、ご関心のある向きは2008年11月10日号をお探しください。
○企業を再生する話というのは、どんな場合でも感動的な物語になるもので、このサンドビック社のケースもご多分に漏れません。煎じ詰めてしまうと「努力と友情と勝利」という、もっとも日本人が好むストーリーラインに収斂する。ふとトルストイの名言(『アンナ・カレーニナ』の冒頭)をもじって、こんな言葉が思い浮かぶ。
「すべての儲かっている企業はどこも似たようなものだが、ダメな会社はそれぞれの方法でダメになる」
○そこに至る過程では、トップの決断があり、現場の抵抗があり、そこを情熱と継続で頑張っていると、どこかで壁を乗り越える瞬間がやってくる。目に見える成果が出てくると、それから先は社員が意気に感じてくれて、改革に勢いがつく。企業再生に王道や方程式なんてものはなくて、泥臭い努力を延々と続けるしかない、ということを再認識させられます。
○強いて法則らしいものをひとつだけ挙げるならば、変化をもたらすことが出来るのは、「よそ者と若者と変わり者」であることが多い。そういう人材を取り込むことができる組織は、再生のチャンスが大きくなる。逆に言えば、企業を停滞させようと思ったらこんなに簡単なことはなくて、「よそ者と若者と変わり者」を使わなければいい。特に若者が腐ったら、その組織は確実にダメになりますな。
○ま、もちろんこんなことは、「分かっちゃいるけど・・・・」の部類であります。会社生活25年目の当方も、自慢ではありませんが、改革に抵抗したり、下手な言い訳をした経験は山ほどあります。そういう意味では、企業再生の話は身につまされることでもあるのです。
○ふと思ったのですが、現在のJALの再建問題では、「OBの年金をどう減らすか」が最重要課題になってしまっている。もしも本気で日航を再建するつもりがあるのなら、こんなに馬鹿なやり方はないと思います。それじゃ組織に、努力も友情も芽生えないじゃありませんか。再生のストーリーを描こうと思ったら、憎しみを増幅するようなやり方は愚の骨頂だと思いますぞ。
*ちょっと宣伝です。明日のかんべえさんはテレビ東京NEWS
FINE(15:35〜16:00)と、朝日ニュースター「ニュースの深層」(20:00〜20:55)に登場いたします。ネタは米国経済とオバマ訪日であります。
<11月12日>(木)
○ちょっとバテ気味ですが、本日の「ニュースの深層」(オバマ・鳩山会談、その内容は?)で、葉千栄さんと議論して思ったことのメモ。
○今ではアメリカと中国が「現状維持勢力」(Status-Quo
Power)になっており、経済危機後の世界をなんとかマネージしようとしている。お互いだけが頼りなので、それこそ米国債から北朝鮮核問題、果ては温暖化排出ガスまで、いろんな問題で協力しなければならない。史上かつて、これほど米中関係が良かったことはなかったのではないか。だから東アジア共同体なんて構想は、今の中国にはまったく不要である。
○その一方で、日本は現状を打破したいと思っている。その典型が先の総選挙で示された民意。政治も経済も外交も不満がたまっていて、とにかく変えたいと思っている。でも、はっきり言ってそれは「ないものねだり」をしている部分が大きいので、普天間基地だってそれほど良いAlternativeがあるとは思われない。ほんの少し前までは、日米が"Status-Quo"Powerだったんですけどねえ。
○「今やってる“事業仕分け”って、昔の中国の人民裁判みたいですねえ」と言われて、あたしゃ返す言葉がなかったでありますよ。ホントに情けない。あれではただのガス抜きです。
●「ニュースの深層」再放送の予定
11月13日(金) 00:00〜00:55 3:00〜3:55 13:00〜13:55
11月14日(土) 5:00〜5:55
11月16日(月) 5:00〜5:55
<11月13日>(金)
○ふと気がついたら、ブルームバーグニュースにワシのコメントが使われていた。
●鳩山首相:オバマ大統領と会談へ、対日懸念払しょく目指す
http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90900001&sid=alAJELTwioh0
◇
◇ ◇
双日総合研究所の吉崎達彦副所長は、普天間問題をめぐる米国の姿勢について「今までの約束通りやってもらえると思っているから、当面は様子を見ようということではないか」と分析。その上で、「米国がここで普天間のことを持ち出していいことはない。鳩山政権が対米強硬路線を取って日本国民に受けることの方が怖いだろう」との見方を示した。
◇
◇ ◇
吉崎氏は今回の訪日について「首脳会談よりも翌日の演説の方が重い」と指摘。「北京や上海ではなく、東京でやるということはアジアにおける最大の同盟国は日本であることを示している」とし、鳩山首相が「それをほったらかしてシンガポールに行ってしまうのはセンスがない」と語った。
○・・・いやね、オバマさんを放置して鳩山さんが先にシンガポールに行くことに関しては、「遅れてきたのはアメリカ側の勝手」だと官邸は判断しているのでしょうけれども、ごく単純な話、「自宅に来客が来ているのに、主人が外出してしまう」という状況は、端的に言って日本人の美徳に反した振る舞いであると思います。
○さらに、明日昼からの宮中午餐会も総理不在となります。オバマさんにとっては、面白からぬ応対でしょう。というか、アフリカかどこかの国の元首ならともかく、総理の欠席は異常な事態だと思います。そもそも日本国憲法の建前から行くと、天皇陛下が内閣の助言なしに、好き勝手に海外の賓客をもてなすのはマズイでしょう。
○ところで明日のオバマ演説会は、サントリーホールで行なわれます。今週の中盤に米国大使館に電話を入れて、「どんな感じ?」と聞いてみたところ、「チケット、1枚なら手配できます」というではないか。「どういう条件?」と聞いたら、「午前10時からですが、セキュリティチェックのために朝8時までに会場に入ってもらいます」とのこと。即座に断っちゃいました。
○その後、「経済同友会が10人分の座席を押さえた」とか、「東大の○○先生が学生に声をかけているらしい」なんて情報が飛び交っておりましたが、そんなもんウチでテレビを見るか、あるいはホワイトハウスのHPでドラフトを確認すればよい。何が楽しくて、土曜日に都内に出かけなきゃならんのか。あたしゃ「ひと目でいいから生オバマを見たい」的な心情が乏しい人なのである。
<11月15日>(日)
○ということで、昨日はオバマ演説は家でテレビを見て、午後から「サンプロ」の収録をやって、終わったら疲れて寝てしまいました。ああ、今週はちょっと仕事し過ぎ。
○で、今朝になってみたら、ちゃんとホワイトハウスのHPで東京演説の全文が掲載されてました。といっても、そんなに驚くような新しいメッセージが入っているわけではなくて、むしろ演説情景の美しさが印象に残ります。この「絵」は使えますよ。サントリーホールを使ったのは大正解でしたね。
○この演説には、すでに中国語とインドネシア語と日本語と韓国語の翻訳が出来ていて、ホワイトハウスのHPで公開されています。4ヶ国語への翻訳は突貫作業になったはずですから、これはかなりめずらしいケースです。ということは、オバマ大統領がAPEC首脳会談への出席を控えて、「アジアの皆さんに読んでもらいたい」ということなのでしょう。
○そうであるからには、場所は東京であることが望ましかった。日本はニュートラルな場所であって、アジアのようでもあり、西側先進国のようでもある。首相が「日米同盟が基軸である」と言いつつ、東アジア共同体を主張しても不思議ではない。それに北朝鮮に対して演説に強いメッセージを織り込むとしたら、それは北京発であってはマズイわけですし。なるほど、これはやはり「東京演説」でなければならぬわけであります。
○演説の中身については、いろんなことが書かれております。とりあえず、しばらくは鎌倉市の抹茶アイスはよく売れるでしょうな。ま、その辺のことはさておいて、溜池通信的な関心事としては、「バランスの取れた経済成長が必要」という以下の部分です。(ホワイトハウスの公式翻訳を使わせていただきます)。
ですから、私達は今、歴史において、異なる道を選ぶ機会を持つ稀な変曲点に
到達しています。そして、それは均衡の取れた経済成長のための新戦略を追求す
るというピッツバーグでのG20の誓約から始まらなければなりません。
私はシンガポールでこれについてもっと述べますが、米国ではこの新戦略は、
貯蓄を増やし、支出を減らし、金融システムを改革し、長期的債務と借入れを削
減することを意味します。それはまた、私達が構築し、生産し、世界中で販売で
きる輸出により重点を置くことを意味します。アメリカにとっては、これは雇用
戦略です。現時点では、米国の輸出は、アメリカの何百万もの高賃金の雇用を支
えています。この輸出を少しの量増やすことは、何百万もの新規雇用を創出する
可能性を秘めています。こうした雇用は、風力タービンや太陽電池パネルから日
常的に使用する技術まで全てを製造する雇用です。
○アメリカは輸出主導型の景気回復を目指すぞ、と宣言しているわけです。最新号の溜池通信で書いたとおり、今の米国経済は雇用を増やすことが相当に難しく、かといって個人消費が伸びるような地合いでもない。消去法で行くと、輸出主導で行くしかない。
○「日本の経験」もまさにその手でありました。2002年からの「いざなぎ超え景気」は、アメリカ経済が好調だったから、輸出主導型が可能だったわけ。今のアメリカとしては、アジアの高度成長に期待するしかない。ということは、この先の米中間の通商交渉はかなり重要になってきます。
○今回のアジア歴訪にローレンス・サマーズNEC担当補佐官が同行しているのは、この辺に理由があるんでしょうね。オバマの耳に「輸出主導型成長」を吹き込んでいるのは彼でしょう。と、ここまで書いたところでふっと思いついた。「1993年と2009年の類似」がまたひとつ増えましたね。
○クリントン政権の前半には、サマーズは財務次官で、日本に「黒字減らし」を迫る役どころだった。現在の財務長官であるティモシー・ガイトナーは、日本の米国大使館で働いていた。往時を思い起こしつつ、二人の間でどんな思いが交錯しているのか、ちょっと聞いてみたい気がします。
<11月16日>(月)
○問題です。私は誰でしょう。
*大富豪一家に生まれた苦労知らずのボンボンです。
*総理大臣を務めた偉大なおじいさんがいます。
*そのために自分も総理大臣になりたいと思っていますが、なって何かをしたいという思いは特にありません。
*留学経験があるお陰で、同世代人の中では英語はかなりできる方です。
*自分より賢い人の意見を聞くと、わりと簡単に影響を受けてしまいます。
*そのために発言がぶれるという批判を受けますが、自分ではそれが悪いことだという意識はありません。
*サービス精神が旺盛なので、インタビューを受けるとついつい正直にホンネで答えてしまいます。
*おいしいものの食べ歩きが大好きです。
○このクイズの答えは後ほど。
○さて、今宵はさる造船関係者の会合に出席しておりました。ここ数年の好況はどこへやらですが、僕たち不況には慣れているから平気だよ。困ったことに、中国政府が自国の造船業者たちに補助金をバラマキするので、いつまでたっても淘汰が起きません。こんなアンフェアな競争はないよなあ。でも一方では、中国の資源輸入需要があるお陰で、バルクカーゴが活況を呈しているから、あまり文句も言えないよなあ・・・・一言で言うと、とってもオトナの人たちの世界でした。
○他方、普通に市場メカニズムが働いている欧州では、これとまったく違う状況が展開しています。なんとあのポーランドのグダニスク造船所が売りに出ているとのこと。しかも現在の労働者の面倒は見なくていいし、どんな国の資本であっても分け隔てなく扱いますという、涙が出るような好条件。要するに売り手は、好きなだけ買い叩いてくださいまし、と言っている。
○ポーランドはEUに加盟してしまったので、自国の産業を保護するなどという無粋な真似はできないのです。だから自国の造船業を簡単に売り飛ばします。グダニスクの歴史も知ったこっちゃありません。ワレサ大統領って、それって誰のこと?という物分りのよさであります。
○でも、船作りという製造業は、それでは守りきれませんよねえ。モノづくりの体制は、作り上げるまでには長い時間がかかりますが、それが失われるときはほんの一瞬。わが国造船業界は、これまでに培ったマイスターたちの技を、これからどうやって継承していくかが課題となっているそうです。頑張ってほしいな、と思います。
○さて、冒頭のクイズの答え。「鳩山首相は、漢字が読める麻生前首相である」
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編集者敬白
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by Kanbei (Tatsuhiko
Yoshizaki)