きょうの社説 2009年11月17日

◎GDP連続プラス 急回復でも先行きは厳しい
 予想外によい数字だった今年7〜9月期の国内総生産(GDP)は、政権交代前の麻生 政権の置き土産といってよい。輸出の回復という追い風もあったにせよ、エコカー減税やエコポイント制度などの経済対策が個人消費を刺激し、企業の生産や設備投資を活性化させた。昨年秋の金融危機以降、景気を下支えしてきた公的需要を引き継ぐように、マイナス続きだった民間需要が回復したのは心強い。

 ただ、心配なのはこれからだ。エコカー減税やエコポイント制度などの政策継続が不透 明で、これに代わる新たな個人消費の刺激策も見当たらない。公共投資が大幅に削減される見通しであることや、たばこ増税、環境税の導入、所得税の扶養控除廃止など、増税方向の検討課題がこのところ相次いでいることも景気の先行きに暗い影を落としている。

 GDPが市場予想を超える大幅改善だったにもかかわらず、東京市場の株価が無反応だ ったのは、鳩山政権が実施するとしている追加経済対策をはじめ、マクロの経済政策に多くを期待できないという思いがあるからではないか。普天間基地問題などで、日米関係がきしみを見せ始めたことも海外からの投資にブレーキをかける要因になっている。

 菅直人副総理・国家戦略担当相は、GDPの発表を受けて、日本経済が「デフレ的な状 況に入りつつある」と述べ、物価下落が景気に及ぼす影響に懸念を示した。それほど危機感を持っているなら、補正予算案に盛り込む景気刺激策をもっと真剣に吟味する必要があったのではないか。介護や環境関連分野での雇用創出という案が柱では多くを期待できそうもない。

 鳩山政権は「事業仕分け」による予算削減に熱心で、「廃止」や「地方移管」が乱発さ れている。しかし、地方にツケを回すような評価結果が次々と示されなど、弊害も目に付く。予算を削れば削るほど景気に悪影響を及ぼし、地方が苦しむ現実にも目を向けてほしい。財源不足が解消できぬなら、マニフェストの一部実施をあきらめてでも、即効性のある景気対策に予算を振り向ける必要がある。

◎がん発見に地域差 受診率向上にデータ生かせ
 2007年に全国のがん診療連携拠点病院を初めて受診したがん患者のうち、発見のき っかけが検診や健康診断、人間ドックだった人は計17%で、都道府県別では7〜24%と差が開いたことが国立がんセンターの分析で分かった。データは患者全体を網羅したものでなく、登録方法に改善の余地があるものの、がん発見状況は検診を受ける人の割合や検診技術の違いによって地域差が生じる可能性も指摘されている。

 北陸3県をみても、富山県は19%と全国平均を上回ったのに対し、石川県は12%、 福井県は15%にとどまった。こうした数字は登録精度の向上とともに、がん検診などの地域別の評価項目として活用されるとみられ、県としても軽視はできない。拠点病院ごとのデータ分析などを通して受診率向上に積極的に生かしてもらいたい。

 がん診療連携拠点病院には「院内がん登録」が義務づけられており、約32万7800 人分の情報が今回初めて全国集計された。がんが見つかったのは、がん検診が9%、健診・人間ドックが8%、「ほかの病気の経過観察中」が21%で、残り62%は「その他・不明」だった。

 石川県の内訳は、がん検診が8%、健診・人間ドックが4%、富山県ではそれぞれ12 %、7%となった。全国の傾向と同様、「その他・不明」が多く、何らかの理由で自ら受診した人も少なくないとみられる。データはまだ十分とは言えないものの、全国から集めた膨大ながん登録に基づく情報活用が一歩を踏み出した点で意義がある。都道府県別のがん発生・死亡率や、医療機関ごとの治療成績の違いなども、がんの種類ごとに明らかにされていくだろう。

 北陸では専門医などを育成する「北陸がんプロフェッショナル養成プログラム」や金沢 市医師会方式の肺がん検診システムなど先駆的な取り組みも進んでいるが、今後は比較可能な客観データによって、地域のがん対策の実効性が問われる時代が到来することになる。自治体には多様なデータから改善点を読み取り、それをがん対策に確実に反映させる努力が求められよう。