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「ミス慶応」群がる企業 多額協賛金に高額賞品

2009年11月16日

写真渋谷109前で開かれたミス慶応コンテスト2009のプレイベント。道ゆく人にも投票券が配られた=10月31日、東京都渋谷区

 「ミス○○大学」。選ばれれば、女子大生のブランド価値にもなる称号で、なかでも有名なのが「ミス慶応コンテスト」だ。そのミスコン、主催学生団体の不祥事で開催が危ぶまれたが、「すでに数百万円の協賛金が集まっている」ことを理由に、今年の開催が決まった。大学祭のミスコンに、なぜこれほど多額のお金が動くのか。そして他大学ではどうなっているのか。

■話題性高く、PRに

 「それでは、ご登場くださーい。ミス慶応候補の○○さんでーす」

 東京都渋谷区のファッションビル「渋谷109」。10月31、11月1の両日、ミス慶応コンテストのプレイベントが開かれた。観客の整理と司会役の男子学生はみな黒のスーツ。女子学生数十人もそろいの紺のパーカ姿で、用意した数万部のパンフレットを通行人に配った。

 11月20日からの学園祭「三田祭」で開かれるミス慶応コンは、大学公認団体「広告学研究会」が主催。26回目だが、部員10人が駅構内を裸で走るなどして書類送検された事件を受け、研究会は先月末、無期限活動自粛と幹部の辞任を決めた。ミスコン中止の声も出たが、「ご協力団体様との社会的道義」を理由に今回は開催を決めた。

 ミス慶応は大学祭ミスコンの走りとして注目を集め、規模は年々拡大。卒業後にテレビ局のアナウンサーとなる受賞者も多く、「女子アナの登竜門」とも言われるようになった。協賛・協力企業も少なくない。優勝者への賞品も豪華で、06年のミスには、外車のBMWが贈られた。昨年はティアラだった。

 今回の協賛団体の数や協賛金の総額について、研究会は「教えられない」としているが、慶大広報室によると数百万円規模という。ただ、関係者は「協賛金という形ではない現物協力も多い。会場の提供などのすべてを金額換算すれば、百万円の単位では済まない」と話す。

 経営再建中の日本航空は3年前から協賛する。今回は2泊3日沖縄ペア旅行(16〜17万円相当)を提供し、これ以外に協賛金も出すが「金額は非開示」。広報部は「話題性が高い注目イベント。PRになる」と話す。今後も協賛は続けるという。

 元部員の30代の男性は「学生だけで企業と交渉してお金を動かし、勉強になったし自信にもなった」と振り返る。今は広告会社に勤める。

 ただ、学内からは「学生の本分を超えている」との声もあがる。大学本部は「学園祭は学生の自主活動」との立場を崩さないが、法学部の小林節教授は「慶応の名を冠している以上、放っておくのはおかしい。学生が安易にお金を集められるのは、彼らの将来にとって良い経験ではない。そもそも活動自粛といいながら、協力団体を理由にして開催するのも筋が通らない」と厳しい。

 慶大に限らず、露出が増える一方のミスコンだが、実際、アナウンサー採用に、どう影響しているのか。テレビ朝日広報部は「有利にも不利にもならない」。TBS広報部は「採用については答えられない」。あるキー局の職員は「登竜門と言うが、アナウンサー採用試験は3年生の秋で、学園祭が佳境のころには終わっている。過去のミスコンで、候補の中にすでに採用が決まっている人がいたこともある。それがミスコンで有利に働いたかは、分からないが……」と話す。

 今年のミス慶応候補は6人で、うち4人が3年生。広告学研究会によると、面接で選んだ。ミスは公式サイトやプレイベントなどの一般投票の総数で決められ、「公正に選ばれている」という。

■早稲田・明治は開催禁止

 ミスコンテストをめぐる、大学の事情はそれぞれだ。

 早稲田大は、キャンパス内で「早稲田」の名を使ったミスコン開催を禁じている。学生部によると、「きちんとした審査員がいるわけでもなく、容姿で女性を選ぶのは、どんな口実をつけてもダメです」。

 実は、早大にもかつてミスコンがあった。学園祭とは別の時期に学生サークルが主催していたが、03年6月に早大のサークル「スーパーフリー」の集団強姦(ごうかん)事件が発覚。直後に開かれたミスコンで、「事件を想起させる不適切な企画があった」(学生部)として、この年を最後に、学内でのミスコンは禁止になった。その後の「ミス早稲田」と称するイベントについて、「サークルが学外で開くのは仕方ないが、大学と無関係です」ときっぱり。

 明治大も「容姿のみで優劣をつけるのは疑問だ」と認めていない。

 国立の東北大では05年、ミスコンに一部女子学生が「女性差別だ」と反発。大学理事からも「男女共同参画時代にふさわしくない」と意見が出て、大学祭直前に中止になった。

 一方、秋田大では昨年、20年ぶりに復活。盛り上がりに欠ける大学祭を心配した学生7人が「秋田と言えば美人」と企画した。批判に配慮して水着審査はやめたが、例年になく盛況で今年もメーンイベントとして開催した。

 「祭りを盛り上げるためにミスコンは必須」というのは、駒場祭で今月23日、「ミス&ミスター東大コンテスト」を主催する東大広告研究会だ。ただ、ミスやミスターに選ばれても、「名誉だけ」と賞品はない。

 「美人コンテスト百年史」の著書がある井上章一・国際日本文化研究センター教授は「ミスコンは90年代に下火になったが、フェミニズムの批判に加え、不況で時代にあわなくなったから。慶応で続いたのは、みんながブランドに投資したからでしょう。もっとも、福沢諭吉が生きていたら何と言うか知りませんが」。

 先月下旬の学園祭で「ミス秋田大」に選ばれた菅原麻有さん(21)が受け取ったのは5万円の旅行券。「あと、地元のテレビから出演依頼が1件ありました」。賞品が外車という大学の話に、絶句した。来春、札幌市に本社がある医薬品販売会社に就職予定という。(石川智也、大井田ひろみ)

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