みのむし |
先日、竣工した特別養護老人ホームを見学した後、健康のため歩いて帰ることにした。 途中、通りかかった公園の桜の木になにやらぶら下がっている。久しぶりにみるミノムシである。 子供の頃、木の枝でぶらぶらと揺れているミノムシを沢山捕ってきて、蓑から虫(幼虫)だけ取り出して手のひらで遊んだり、小さく切った色紙で蓑を作らせる実験をして遊んだ。 我々がミノムシとよんでいるこの虫は、ミノガという蛾の幼虫である。秋に越冬の準備に取りかかり、葉をかじり取っては口から糸を吐き蓑にかがりつけ、蓑を丈夫にする。そして、近くにある適当な枝を選んで、更に糸を出して蓑を固定し、その中で冬眠する。 糸を出す虫としては、その他にカイコやクモが知られている。このミノムシ、カイコほど沢山の糸を作れないが、クモ以上の強度をもった糸を作ることができる。 奈良県立医大の大崎茂芳教授らの実験によると、ミノの部分を含め16から60ミリグラムのミノムシの糸は、体重の約3倍まで持ちこたえられるという。 また、糸を一定の長さに伸ばして強度を測定したところ、単位断面積あたりの強さを比較は、クモの約2.5倍の強さだったという。つまり、ミノムシの糸は命綱としては充分過ぎる強度を持っているということである。 この葉っぱを沢山くっつけた丈夫な厚い蓑は、雨をはじき、冷たい雪からもミノムシのカラダを守ってくれる。ただ、シジュウカラのように嘴の細い鳥だと蓑の底の小さい穴から嘴を差し込みミノムシを引っ張り出し食べるのだそうだ。こうなれば、丈夫な蓑も完全ではないと言える。 ミノガが成虫となって飛んでいるのを見た方は随分と少ないはずである。それもそのはず、飛ぶのはオスだけで、メスには羽がなかったり、脚がなかったりする。 メスは、じっとミノの中でオスが来るのを待ち、交尾をしてミノの中に産卵する。あとは、干からびてミノから落ちていく、たった1年だけ、しかも種を保存するだけの哀れな生涯なのである。 こんなミノガの生態を知ると、「個体は自らのコピーを増やそうとする遺伝子の乗り物に過ぎない。」という言葉を思い出す。 その点、我々人間も大差ないのかもしれない。ただ、人間は燃えるような恋をして、結ばれる。そして、子供の成長を楽しみにしたり、趣味の世界に入り込んだりもできる。 だから人間として、生涯を通じて「人を愛する気持ち」や「持ち続ける情熱」が、ミノムシの糸以上に強く、ミノに負けない温もりのあることを願うだけである。 私は今日も「心を癒すミノムシ」を探している。 |