そうだ沖縄行こう - 沖縄は反基地運動のシンボルのプロデュースを
来年の夏は広島に行こうと決めているけれど、その前に、沖縄を訪れてみようと考え始めている。その理由と言うか、動機の一つは、驚くほど格安の航空券が販売されているのを知ったからで、京都と変わらない料金で東京と沖縄を往復できる。那覇へのフライトがこれほど廉価になっているとは気づかなかった。沖縄へは２５年前に一度遊びに行ったきりで、当時と今とでは景観も何もすっかり変わってしまっているに違いない。その頃は、観光コースだったひめゆりの塔を車で回る道路の両側に、一面にサトウキビ畑が広がっていた。サトウキビという植物が、田圃の稲と違って、思っていた以上に背が高かったのが印象深かった。異国の風景を感じた。サトウキビ畑は今でもあるだろうか。地図を見ると、小さくて狭い沖縄本島はべったり米軍基地に塗り潰されている感じで、島の面積の２０％が米軍基地だと言う。沖縄本島は東京２３区を２倍した面積と等しい狭さだが、これほど米軍基地が地面を占領していたら、サトウキビ畑などに利用する農地がどこにあるのだろうという気になる。地図を拡大すれば分かるが、高速道路も、一般国道も、何か所も米軍基地の中を通っている。嘉手納基地の中も国道が走っている。演習場の中を国道が横断している。細長い島で米軍基地の占領部分が広すぎて、基地の中を通らないと国道が引けないのだ。棲み分けられていない。
８月の広島行きを思い立ったのは、そう言えば自分はまだ原爆の日に広島を訪ねたことがなかったなと反省したのは、筑紫哲也が必ず行っていたことが念頭に上ったからである。８月５日とか６日の夜は、ライトアップされた原爆ドームの前に起立して中継していた。考えてみれば、それが日本のテレビ報道として当然の姿だったが、筑紫哲也が死に、当然のことを当然に行う報道者と放送局が消えてなくなった。NEWS２３の筑紫哲也と佐古忠彦は一貫して沖縄に拘り、米軍基地の問題に拘った報道姿勢を続けていた。何度も何度も基地の前から生中継をした。日本中が右傾化し、沖縄ですら買収されて右傾化に靡く中で、毅然とした沖縄報道の節を守って崩さなかった。今、思い出して偉大さに粛然とさせられる。失って初めて価値を実感する。筑紫哲也が一瞬のうちに帰らぬ人になったように、自分もいつどうなるか分からない。年をとると出不精になり、そして時間は速く流れる。後悔しないように、行けるときに整地巡礼しておこう。筑紫哲也が立って日本人に訴えた現場は、やはり倣って追いかけて踏みしめるべきで、そこで自分も何事かを考えるべきだ。普天間と嘉手納と辺野古の現場に行ってみよう。テレビで視察ポイントとして必ず出てくる高台に立ち、普天間基地を眼下に一望し、戦闘ヘリや輸送機の轟音の下に身を置いてみよう。情報提供や助言があれば、メールで頂戴したい。
９５年に米兵による少女暴行事件が起き、８万５千人が集まって抗議する県民集会が開かれた後、自民党政権は沖縄に対するテコ入れを始める。それは、一口で言えば壮絶な買収であり、買収による沖縄世論の分断であり、沖縄を左から右に寄せる政治工作だった。テコ入れは効を奏したようで、沖縄の政治地図も従来とは様相を一変した感がある。９０年代後半、沖縄に猛烈なテコ入れを策したのは、橋本政権と小渕政権であり、この二つの政権で官房長官を務めた梶山静六と野中広務だった。今日、沖縄が右に寄った政治的現状は、この二人の保守政治家の沖縄政策の手腕と情熱による。政府を上げた徹底的な資源投入（＝経世会的手法による買収と分断）の成功。その後の清和会政権に比べて、この二人による沖縄政策は実に精力的で見事だった。梶山静六と野中広務がそのまま権力中枢にいてくれて、加藤紘一や田中真紀子を首相に据えながら、マイルドな保守路線で日本の政権が運営される2000年代が続いてくれていたら、梶山静六と野中広務が日本の新自由主義化を緩和してくれていたら、私はブログなどで政治に熱を上げる無粋に奔ることはなかった。一市井として穏やかに暮らしていただろう。９０年代後半から２０００年代の初め、日本中で沖縄ブームが起こった一時期があった。例えば、ＮＨＫの朝の連続テレビ小説の「ちゅらさん」。それから、安室奈美恵やＳＰＥＥＤなど沖縄アクターズスクールの活躍。
国の政策方針をカルチャーやビヘイビアにして茶の間にダウンロードするＮＨＫは、紅白歌合戦や他の機会を捉えて、沖縄を持ち上げ、沖縄を前面に出し、日本国民が沖縄を大切にしているのだという態度を示し、沖縄重視と沖縄配慮を積極的に国民に宣伝した。それは悪くなかった。われわれが、ゴーヤのチャンプルーを食卓の主菜に採り入れ、夏の晩酌のレギュラーを琉球古酒にする食生活を定着させ、そして夏の宴会のカテゴリーとチョイスに沖縄ダイニングを含めるようになったのは、今から１０年前の９０年代末からである。読谷村のキロロも、石垣島の夏川りみも、浦添市の仲間由紀恵も、そうした波に乗って世の中に踊り出た。バブル期からのリゾートホテルがさらに豪奢に林立し、ＩＴと金融の経済特区が新設され、本土よりもはるかに高い失業率に呻きながら、同時に資本は過剰なほど投入されていた実態がある。その間断のない政府開発投資のカネが、沖縄の政治意識を変えた原因だろうと私は推測している。1998年の知事選の結果も落胆させられたが、2006年の知事選の結果にも失望させられた。全野党共闘が実現して、強力な本命候補を擁立した2006年の知事選は必勝のパターンで、基地撤去の県民の意思を確定させる絶好のチャンスだったが、思った以上の大差で全野党候補は敗北を喫した。「基地問題だけが争点ではない」と沖縄の一部から声が上がるが、私はその世論が全く理解できない。「基地経済が雇用を守っている」という主張も納得できない。
昨日(11/15)のNHKの日曜討論では、不愉快きわまるプロパガンダ芝居が演じられていた。出演者は、岡本行夫、森本敏、福山哲郎、長島昭久。この４人で「日米同盟の今後は」と題した討論をやり、普天間移設問題を論じていた。結論は見えている。４人には最初から意見対立などなく、全員が「辺野古沖早期決着」論者なのだ。特に岡本行夫と森本敏と長島昭久は、完全にゲーツと同じで、麻生政権時の米軍再編と沖縄政策の当事者であり信奉者である。結局、長島昭久が鳩山首相に不満をぶちまける場となり、鳩山首相の慎重論を全員で非難する合唱会となった。危惧したとおり、総選挙で失脚したはずの岡本行夫と森本敏が息を吹き返して、日本の安保外交政策のヘゲモニーを握り返す最悪の事態が現出している。官邸の（公式の）意図すら超えて、右翼反動側の巻き戻しの場をＮＨＫ（島田敏男）が進んで提供しているではないか。この４人も、ＮＨＫも、沖縄県民の８０％が普天間代替施設の県内移転に反対している事実を無視している。討論の中で、沖縄の立場に考慮し言及する議論は全く出なかった。そうした意見をする人間を番組に参加させていない。１０年前、あれだけ「沖縄、沖縄」と言って沖縄を持ち上げていたＮＨＫが、今は放送から沖縄の存在を閉め出している。結局、２万人集まっただけではＮＨＫに無視されるのだ。８万５千人が集まれば、すぐに普天間基地特集のＮＨＫスペシャルが組まれ、そこに大田昌秀が呼ばれ、沖縄の世論（７０％が県外国外移設要求）が紹介されるのである。
ここまで反動の台頭を見ると、長島昭久が政務官就任直後に「インド洋給油続行」を言い、官邸に呼ばれて叱責を受けたのが嘘のように思われる。同じ昨日（11/15）の午前、沖縄訪問の前にフジテレビの政治番組に出た岡田克也は、「沖縄県民の県外、国外移設への期待は高まっている」という質問者の指摘に対して、「もともと沖縄県民の７、８割は県外国外だ。日米同盟の重要性を考えたときに、どこまで沖縄のみなさんに我慢していただけるのかという問題だ」と言い放った。この言葉は沖縄県民の心を傷つけ、鳩山内閣の支持率に影響を及ぼすだろう。一体、民主党の「沖縄ビジョン」は何なのだ。政権を取った途端、それは無効な紙屑になって捨てられる約束なのか。岡田克也の訪問を受け入れた沖縄では、仲井真弘多と島袋良和が狡猾かつ滑稽に立ち回り、日米同盟の論理と沖縄県民の意思の間で「板挟みになって苦しんでいる」プリテンドの政治をアピールしていた。要するに、「政府が早く決めてくれ」という二人の首長の声をマスコミを通じて全国放送で周知させるための姑息な政治である。米国の要求に従って、辺野古沖新基地建設を政府方針にして１２月に予算づけしたいとするのが、北澤俊美（防衛省）と岡田克也（外務省）の立場であり、１月の名護市長選まで先送りで様子見しようとしている鳩山首相を牽制している。名護市長選まで待てば、辺野古案は確実に民意として否定されるからであり、先に政府に辺野古案を固めさせて、政府決定の既成事実を名護市長選に持ち込んで、現在の風向きを変えようと目論んでいるのだ。
島袋吉和は、「（移設問題は）これまで３度の市長選を経てきた。これ以上市民を二分したくない」と嘯いている。基地受け入れ拒否を公約して市長に当選し、その後、豹変して市民を裏切って辺野古沖移設賛成に回り、市民を二分させた張本人でありながら、この言い草はどうだろう。二分していなかった市民を二分させた責任者は自分自身ではないか。それに対して、岡田克也は、「国が判断しなければいけない話を、名護市民一人一人に正否を問う形はあってはならない」などと巧妙な相槌で応じ、「名護市長選前に結論を出したい」と言って世論誘導の政治をしている。果たして、名護市長選で民意を問う前に国の結論が出るだろうか。仮に鳩山首相が辺野古沖案を（修正版で）結論にしたとしても、沖縄県民の県内移設反対の世論は変わらず、１１月の知事選まで沖縄の政治的激動は続き、簡単に工事は開始できないだろう。他方、琉球新報の報道では、米国が９８年の段階で県外移転（北九州案）を了承していた事実が明るみに出た。辺野古沖案の検証作業をすればするほど、その政治決定の正統性や工事計画の妥当性が怪しくなる材料が出るばかりだ。１２月の来年度予算案まで時間がない。鳩山首相の思惑は不明だが、今、県内移設反対の沖縄県民の運動に必要なのは、反対論のメディア・エクスポージャーを高める戦略の工夫であり、名無しの多数の民意ではなく、具体的な代表者を立てて東京のテレビ局のスタジオに押し出すことである。世論調査の数字だけを示すのではなく、生の声をシンボルのキャラクターが発信して本土の人間を説得なくてはいけない。沖縄の反基地の湯浅誠を一刻も早くプロデュースすることだ。
