25%削減はビジネスチャンス(2)/福山哲郎(外務副大臣)Voice11月16日(月) 12時36分配信 / 国内 - 政治◇外交交渉のカードを握るために◇ もう1つ、「25%削減」という数字で誤解されやすいのが、これは「真水」だけではないということである。「CO2の吸収源をどのように考えるか」、また「海外でのCO2削減への貢献をどのようにカウントするか」などの国際交渉をにらんで「25%」を実現しようと考えている。 だがわれわれは、それらの比率について、具体的な数字はまだ発表していない。なぜなら、それが外交交渉のカードになるからである。 たとえば、CO2の吸収源についても、いまだ明確な結論は出ていない。もともとは森林を吸収源としていたが、アメリカでは「アメリカの広大な農地もCO2の吸収源にカウントすべき」という議論を始めている。日本の広大な森林も、現在より大きな吸収源としてカウントされるよう交渉する余地がある。 現在は日本がお金を出して途上国から排出枠を買うばかりだが、途上国にも排出削減の枠組みができれば、社会インフラを省エネ用に整備する必要が出てくる。途上国の支援の官民による資金調達の在り方、透明性の確保等を含めて、新たなメカニズムを構築する必要がある。 だが、このようなルールは、まだ明確に決まっていない。これらは交渉次第で大きく変わる可能性がある。まずは日本に有利なルールづくりをめざすべきなのだ。 ここにおいて、「25%」削減を打ち出した意義が生きてくる。海外との交渉の場においても内向きなことばかりを考えて「日本は、排出量削減はこれだけしかできません。しかし、削減のルールは日本の考えを配慮してください」などと主張したところで、誰が聞く耳をもつだろうか。 それよりも、「全員参加の枠組みがつくれるならば日本は率先してこれだけ減らします。そのためには、これだけのことが必要です」と主張してルール策定に積極的に関わっていったほうがはるかにいい。そう私は考えている。 今回の「25%削減」目標について、「京都議定書のときも、アメリカが批准せず、中国にも削減義務が課せられず、EUも環境対策が遅れた東欧諸国の部分を加味すると目標達成が容易だったことを考えれば、日本の『1990年比マイナス6%』という目標はあまりに負担が大きすぎた。その反省が生きていない」という議論もある。 だが、これもおかしい。当時の日本は「プラスマイナスゼロ」を主張し、結果としてマイナス6%をのむことになった。だがこのうちマイナス3.8%は植林などの吸収源活動、マイナス1.6%は途上国への技術・資金支援による京都メカニズムによるものであり、実質の削減幅はマイナス0.6%にすぎなかったのである。 当時、私は民主党のコーディネーターの立場で現場にいたのだが、外務省や経済産業省、環境省の多くの人びとが、「これは日本外交の勝利だ」と喜んでいたものである。 ところが日本の排出量はその後もどんどん増えつづけ、プラスマイナスゼロすら達成できない結果となった。それを差し置いて、約束を果たせていないからといって京都議定書に不満をいうのは、国内では通用しても、国際社会では通用しない議論である。 たしかに京都議定書について、アメリカが離脱し、中国に削減義務を課していないことを問題視する意見は、感情としてはわからないでもない。だが、だからといって日本が何もしなくていいわけではない。 むしろそのことを反省する意味からも、次のCOP15では、アメリカや中国をはじめ、世界のすべての主要排出国が参加する枠組みをつくることが必須なのだ。そのためにこそ日本は力を尽くすべきである。 過去十数年の温暖化対策に関する日本のリーダーの発言で、「各国が賞賛」といった評価を受けたのは今回の鳩山発言が初めてである。その点でも「日本の政治は変わった」というメッセージを世界に発信できたはずだ。また、「日本は国際交渉の場にプレーヤーとして参加してきた」とアピールする効果もあったのではないだろうか。その意味でも25%削減という目標は、けっして間違いではない。 CO2削減に向けてEUやアメリカでは、排出量取引制度の導入や、再生可能エネルギーの普及、環境税(温暖化対策税)の導入など、さまざまな対策を行なってきた。日本の民間企業もさまざまな技術革新や努力を重ねてきた。しかし、日本政府ははたして何をなしてきただろうか。COP3以降、十数年、クールビズ以外ほとんど何も行なっていないといってもよい状況ではなかったか。 そう考えれば、日本がやれるメニューを総動員すれば、25%削減はより現実味を帯びてくるといえるだろう。 まず導入すべき政策。その1つが、国内の排出量取引制度の導入である。企業や事業所ごとにCO2の排出枠を決め、排出枠が余った企業等と足りない企業等とのあいだで売買する。すでにアメリカの一部の州やEUなどが導入しており、カナダやニュージーランド、オーストラリアなどでも準備を始めている。 この制度が好まれるのは、経済原則に則っているため、CO2削減に掛かる経済的コストがもっとも安くつくと考えられるからだ。設備投資をして排出量が減れば、余った分をよそに売って設備投資分を回収できる。自社開発の技術であれば、その技術を売ることもできる。インセンティブが働くため、技術革新が進みやすいというわけだ。 ただし導入にあたっては、温暖化ガス多排出企業に配慮したルールづくりが必要なことはもちろんである。 温暖化対策のためとはいえ、鉄鋼やセメント、電力といった自国の基幹産業が国際競争力を失い、衰退していくことを望むような国があるはずがない。そこでEUでは、多排出企業への配慮に関するルールがあり、アメリカもこれとよく似た内容のルールを検討している。12月に開かれるCOP15までに上院を通過・成立するのか注目される。 こうしたルールづくりに日本も参加することが重要なのである。さもなくば、輸入関税のような排出枠を日本からの輸出品に課せられる可能性も否定できない。目を背けつづけるよりは、積極的にコミットしていくべきなのだ。われわれもアメリカの法案の行方を注視しつつ、12月の国際交渉に臨みたいと考えている。 多排出企業に向けた対策として、もう1つ重要なのが炭素貯留装置(CCS)の開発である。実用化は2020年から2020年代中盤といわれているが、これを3年から5年早めれば、多排出企業が被る恩恵は大きい。すでに世界的な開発競争が始まっており、日本政府もこれを積極的に支援していかなければならない。 【関連記事】 ・ 「郵政見直し」国民負担1兆円 高橋洋一 ・ JALは潰してこそ甦る 屋山太郎/中条 潮 ・ 歴史を誤認する藤井大臣 若田部昌澄 ・ 家計を36万円痛める「CO2削減」北村 慶 ・ “勝間和代ブーム”のナゼ? 斎藤 環 ・ 東京・杉並区“無税”自治体への挑戦 山田 宏
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