25%削減はビジネスチャンス(3)/福山哲郎(外務副大臣)Voice11月16日(月) 12時36分配信 / 国内 - 政治◇マーケットは劇的に拡大する◇ 「25%削減」という数字に対し、産業界が強く反発しているという声も聞こえてくるが、一概にそうとはいえないだろう。日本には、ハイブリッドカーや電気自動車、省エネ技術を駆使した家電製品など、優秀な環境技術を誇り、それを世界に輸出している企業が多数あることを忘れてはいけない。 先にも述べたように、2050年に向けて世界全体で温暖化ガスの排出を50%削減することが合意されている。一方、G8諸国はラクイラ・サミットで2050年に80%削減することをコミットした。これは現在のライフスタイルを前提にはとてもできない話である。当然、大きく生活の在り方を変えていく競争が展開されることになるだろう。 そして、「地球上のどの国においても、CO2を削減することが大切だと思われる」世界になっていけば、「CO2を減らすライフスタイルこそが『めざすべき憧れのライフスタイル』である」という価値観が、途上国にも大きな勢いで波及していくこととなろう。 そのような新たなライフスタイルを実現すうえで、日本的な価値観のなかで磨き上げられた優秀な環境技術は、大変なアドバンテージとなるはずだ。日本の省エネ製品は世界の環境意識が高まれば高まるほど、さらに海外から求められるようになり、さらにマーケットシェアを拡大していくだろう。 その意味から、「日本が25%削減するのは、全員参加の枠組みができることが前提だ」という鳩山首相の発言をビジネスチャンスとして歓迎している企業も少なくないはずだ。 ビジネスチャンスという面では、太陽光発電を促進する仕組みも重要なものの1つである。ドイツでは発電した電力の全量を固定価格で買い取る制度を導入した結果、太陽光発電が一気に普及した。それに対して日本では、2005年に太陽光発電設備の設置に対する補助金を打ち切った。 これによりドイツのメーカーは、それまでトップシェアだったシャープ、京セラ、三洋電機などの日本メーカーを一気に追い抜いた。明らかに日本の政策は世界の趨勢に逆行する「失敗策」だったといえる。 固定価格買取制度の導入にあたって、「国民の負担が過大になるのではないか」「貧しい人は太陽光発電設備を設置することができず、かえって不公平ではないか」という議論もなされている。 率直にいって、これらの議論はナンセンスである。国民の負担額は、一般に思われているよりずっと少ない。たとえばドイツの場合、一般家庭の電気料金が月々8000円程度とすると、負担額は300〜400円程度である。 それだけの負担で、マーケットは劇的に拡大し、太陽光発電のシェアは大いに増え、ライフスタイルが変わることを体感でき、さらに地域経済の成長に貢献していけるのだ。本当に高いといえるだろうか。 とくに日本の場合、円高差益の影響で、一般家庭の電気料金はこの半年で1000円程度下がっている。いまこそ導入のチャンスといえる。この状況ならば、国民の皆さんも、全量の固定価格買取制度の導入に納得してくださるに違いないと、私は信じている。 それでも低所得層には負担になるというなら、選択肢はさまざまである。使用電力量の少ない低所得層の家庭については負担を免除するといった制度設計もできる。さらにいえば制度が軌道に乗るまでの最初のうちは、特別会計のなかの余っているお金、つまり「霞が関埋蔵金」で賄うこともオプションとしては考えられるだろう。 固定価格買取制度による売電が可能になれば、太陽光発電設備を設置する費用を回収するスパンはグッと短縮する。そうなれば太陽光発電設備を設置しようという投資は促進され、促進されれば数も出て、値段も安くなり、さらに投資が促進される。 その結果、技術革新も進み、それが本当に良い商品なら、世界にもどんどん普及していくだろう。そのような好循環をつくるのである。 ◇「これをやる」という政治の意思を示す◇ もちろん太陽光発電以外にも、いろいろな可能性がある。間伐材を使ったバイオマスも考えられるし、風力発電も洋上発電まで視野に入れれば十分可能性がある。政府が積極的にサポートする姿勢を見せれば、さまざまな新規事業に投資する企業も増える。大事なのは25%削減を達成するために、あらゆる技術開発・促進のためのサポートを行なうという明確な姿勢を見せることなのだ。 電気自動車の普及を促進するための社会インフラを整えることも考えられるだろう。高速道路のすべてのパーキングに充電装置が設置され、ほかにもたとえばコンビニなどにも充電装置が置かれるようになり、電気自動車も安くなれば、2020年には電気自動車のシェア拡大も夢ではない。電気自動車が1台200万円を切る価格で販売できるようになれば、ガソリン車とも十分競争が可能になる。 電気自動車開発の第一人者である慶應義塾大学の清水浩教授も指摘されているが、かつてCDプレーヤーがレコードプレーヤーに取って代わるまでの期間は、わずか7年程度だった。固定電話から携帯電話にシェアが移るまでの期間も、約6年だった。本当にいい商品で、マーケットに受け入れられれば、状況はあっという間に変わる可能性があるのだ。 それは国内だけでなく、海外のマーケットでも同じだ。そしてその劇的な変化が、同時に温暖化対策にプラスになり、生態系の破壊の防止にもつながるのである。 冒頭でも触れたように、これまでの自民党政権下では、温暖化対策を実現しないための理由をいろいろと考えてきた。だが、政権交代によって、政策決定の在り方も180度変わった。もはや、「やれるか、やれないか」「やれるものをやろう」で政策を決めるのではない。「これをやる」という政治の意思を示し、そのために行ないうる政策を総動員する方向へと、舵は切られたのだ。 われわれが提示した「25%削減」という目標は、必ずや輝かしい日本の未来を切り開くであろう。そのような未来を実現させるために、私も全力を尽くしたいと思う。 【関連記事】 ・ 「郵政見直し」国民負担1兆円 高橋洋一 ・ JALは潰してこそ甦る 屋山太郎/中条 潮 ・ 歴史を誤認する藤井大臣 若田部昌澄 ・ 家計を36万円痛める「CO2削減」北村 慶 ・ “勝間和代ブーム”のナゼ? 斎藤 環 ・ 東京・杉並区“無税”自治体への挑戦 山田 宏 |
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