基本的に役作りみたいなことはしない
こうしたシーンはそのまま本編に使われているが、てっきり演出だと思いこんでいたぐらい自然に収まっている。むしろ琢磨の奔放な人柄がにじんだ出色のシーンと言ってもいい。アクシデントにも“役”として対応してしまうほど、毎回、役を練り上げているのだろうか。
「いやいや、基本的に役作りみたいなことはしないんだ。そりゃ、今回だって(セリフに出てくる)禅に関する本を読んでみたりもしたよ。でも、気を紛らわしているのかなぁ、何かしないと落ち着かないだけ(笑)。(『愛のコリーダ』で組んだ)大島渚監督が“役者が決まった時点で映画は決まる”って言ってたけど、本当にそういうものだと思っているから。現場に行ったら、ただただ一生懸命やる、それだけなんだよね」
全身全霊をかけて集中して、終わるとスッと忘れてしまうのだという。そうやって膨大な数の作品のなかで生きてきたのだ。
「夢中でしたね。ただ、45歳ぐらいだったかなぁ、先が見えた感じがしたときがあったな。なんというか、体のなかを秋風がサーッと吹き抜けたような。そのときに、このままじゃダメだと思えてきて、仕事を年に1、2本に絞ったんだ。仕事は妥協しないで待つ、これしかなかったね。向こうからやってくるのをひたすら待つという。それと陶芸かな、自分を救ってくれたのは。そのころからやり始めたんです」
まさに彼も琢磨役と同様、陶芸を手がけているのだ。