今年最後の試合が終わった。自然発生的に選手全員がグラウンドを一周、ファンに感謝を伝えた。
「最後あんなふうになるとは…。生涯忘れられない出来事になるんじゃないか」
イチローも感動したハプニングが起こった。感謝の一周は一塁側からスタート。外野を回り、三塁ベース付近にさしかかったころ、引退がうわさされるケン・グリフィー外野手(39)がみこしのようにチームメートに担がれた。するとほぼ同時に、カルロス・シルバ投手(30)が怪力でイチローを肩車した。
文句なしの今年のヒーローとして、ナインからたたえられた証し。昨年はチーム内外からバッシングを受けたのとは大違い。フロント陣も一新され、監督も代わった。多くの選手が入れ替わり、チーム内の空気も一変した今年のマリナーズを象徴する幕切れだった。
「単純に気持ちのいいチームだった。野球場にきて野球に集中できる。すごくよくなった、というよりは正常になった。価値観を共有できていることがうれしかった。そんなことはもう無理だと思っていたから」
今季最終戦は3打数1安打。打率はリーグ2位ながら自己2番目となる.352。盗塁は26にとどまり、9年連続30盗塁は逃したが、4年連続6度目のリーグ最多安打(225)も記録した。
開幕前にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本の世界連覇に貢献。その心労で胃かいようになった開幕当初を乗り越えて、大リーグ史上初の9年連続200安打、大リーグ2000安打などの快挙を成し遂げた。
「新しいことがいっぱいあった。胃にも穴があくしね。(そこから得たものは)自分の感覚を信じていい。その考えがもっと固くなりました」
プレーオフには進めなかったが、巻き返しの手応えをつかめた1年。肩車のフィナーレに、早くも来年へ天才が燃えた。