きょうのコラム「時鐘」 2009年11月16日

 大相撲九州場所は、日本人力士が仲間外れにされそうな優勝争いとは別に、弱い大関にもファンの目が集まる

陥落の危機にさらされる力士たちである。千代大海は、出島より先に大関になり、在位65場所目、13度も危機を乗り切ったツワモノである。場所前に、現役続行を宣言した。引き際の決断は難しい

司馬遼太郎さんに取材したのは、小説から紀行文などに仕事を移したころだった。「小説はね、力仕事ですよ。もう無理だ」と話してくれたが、力が衰えても作家でいられるのは、才能に恵まれたまれな人に限られる。衰えを知って、きっぱり身を引く人もいれば、選んだ道を泥まみれになって歩む人もいる。潔さと執念。そのどちらの姿にも、心が引かれる

大相撲では格下の幕下の取組を好むファンが少なくない。伸び盛りの若手と、力の衰えを技や駆け引きで補う古参との対決に、相撲の妙味を見るという

九州場所は、「一年納め」の土俵である。まだ振り返るには早いが、逆風のやまぬ年である。弱い大関に不満の声が飛んで久しいが、転んでもなお立ち上がる根性に、今場所は声援を送りたい。