各国別のサッカー事情~国とサッカーの関わり合い~
2009年11月 7日
10月31日、第40回一橋祭において、シンポジウム「各国別のサッカー事情~国とサッカーの関わり合い~」(主催・一橋大学一橋祭運営委員会)が行われた。「国とサッカー」の関連性をテーマに、宇都宮徹壱氏(サッカーコラムニスト)と倉敷保雄氏(フリーアナウンサー)が、それぞれの持論を語った。
聴衆は学生を中心に50人程度。120分にわたるシンポジウムの最後では、両講師による2010年FIFAワールドカップ・南アフリカ大会の日本代表スターティングイレブンも発表された。
シンポジウムは12時30分、ほぼ定刻通りに開始される。「自分たちの商品を食べながら売る模擬店が新鮮だった」と一橋祭の様子を語り、「現場に行ってみないと分からないことがある」とは倉敷氏の挨拶。宇都宮氏は「昨日まで熱があり、万が一の場合は、倉敷氏にすべてを託すつもりだった」と語った。
「世界」とサッカーの紹介
最初のテーマ「世界とサッカーの紹介」では、両氏が持ち寄った写真をプロジェクターに映し、それについての言及を行った。倉敷氏が紹介した写真は、①「FAの会議が行われたパブ(現在も営業中)」②「コミュニティーシールド終了後のスタジアム周辺」③「新潟にやってきたアイルランド・サポーター(2002年)」④「ナポリ・サポーター(vs. ウェストハム)」⑤「ジャンプ台が併設されたラハティ(アイスランド)のスタジアム」⑥「ルジニキ・スタジアム(UCL決勝)」。
②の写真は、マンUとチェルシーのサポーターが同じ列に並んでスタジアムから帰っている様子で、倉敷氏は「暴れている人を見たことはあるが、いわゆるフーリガンと呼ばれる人は観たことがない」と指摘。イングランドにおけるサッカーは“娯楽”であり、観客を含めたスタジアムの全員がお芝居をしているようだったとの印象を語った。ちなみに、スペインのスタジアムは家族で来て“情操教育”を行う場、イタリアのスタジアムは観客同士が“戦術”を披露する場と、国ごとの違いを述べた。
国ごとの身体的な特徴はボーダーレスとなりつつあるが、その国の気候や、どの国の宗主国であるかでも、サッカーの内容は大きく異なるとの見解を示した。
宇都宮氏は、ロシア(ロコモティブ・モスクワ vs. CSKAモスクワ ほか)と、マルタ国内リーグに関する写真を多数紹介。8年ぶりに訪れたというロシアでは、大きな変化があったと指摘。スタジアムでの広告バナーや演出がヨーロッパナイズされ、モスクワ・ダービーも、暴れることが目的というような人がいなくなり、安全になったと説明した。ただし、試合終了後のスタジアム周辺には兵隊や騎馬警官による“壁”が作られる厳戒態勢は、以前のロシアと同様だったと語った。
マルタ国内リーグに関しては、狭い島の中でプレミアリーグ(10チーム)を頂点に、40以上のチームが存在すると指摘。ただし国土が狭く、スタジアムの数が少ないことから、リーグ戦はセントラル方式で行われるとのことだった。サポーターが試合終了10分前になると横断幕を片付け始める様子は、日本の全国地域リーグ決勝大会のようで、“サポーター間の当事者意識”が感じられたという。
EU国籍を手っ取り早く取得できるためかセルビアなどの外国人プレーヤーが多く参加。スタジアムはイングランドの3~4部の雰囲気で、小さいなりに盛り上がっている。宇都宮氏は、こうした現象を“フットボールの島嶼化”と定義していた。
「日本」とサッカーの紹介
第二のテーマ「日本とサッカーの紹介」では、U-17W杯の日本 vs. ブラジルを枕に、議論が進められた。倉敷氏は「日本人はボランチが好き」だと指摘。その理由を「責任を回避できるから」だと説明した。サブプライムローンと同じで、日本のサッカーは責任回避の連続であり、高い技術を持っているボランチがシュートを決めれていないとも語った。
決定力とは“技術と勇気”であり、それは特別な才能なのだという倉敷氏に対し、宇都宮氏は岡崎慎司と森本貴幸の存在を好材料として紹介。日本人ストライカーが少ない背景には、17歳ぐらいの年代で世界に揉まれる経験が少ないことがあると指摘した。
決定力以外の日本の弱点として挙がったのが、ハイボールの処理。宇都宮氏は現日本代表のレギュラーである中澤佑二と田中マルクス闘莉王が、日本の育成システム外から育った選手であることを指摘する。倉敷氏は、一握りのトップアスリートが、どの競技を目指すかが重要であり、サッカーのセンターバックというポジションは、少年・少女たちに魅力を提示できていないのではと語った。
倉敷氏はゴールキーパーに関する文化が弱いことも指摘。正GKが固定されていないため、守り方が不安定だと語った。これに対し宇都宮氏は、岡田武史監督はセンターバックから守備を決めているのではと補足した。
日本サッカーの展望
質疑応答後に行われた「日本サッカーの展望」では、両講師の考える2010年FIFAワールドカップ・南アフリカ大会の日本代表スターティングイレブンが発表された。
宇都宮徹壱
GK:楢﨑正剛、川島永嗣、西川周作
DF:中澤佑二、田中マルクス闘莉王、徳永悠平、駒野友一、阿部勇樹、長友佑都、今野泰幸、(内田篤人)
MF:中村俊輔、遠藤保仁、稲本潤一、中村憲剛、松井大輔、橋本英郎、長谷部誠、本田圭佑、(石川直宏)
FW:岡崎慎司、森本貴幸、前田遼一、玉田圭司、佐藤寿人
倉敷保雄
GK:楢﨑正剛、山本海人
DF:中澤佑二、田中マルクス闘莉王、加地亮(新井場徹)、駒野友一、岩政大樹、長友佑都、内田篤人、森重真人
MF:中村俊輔、遠藤保仁、稲本潤一、中村憲剛、松井大輔、石川直宏、長谷部誠、本田圭佑、山田直輝、小笠原満男
FW:岡崎慎司、森本貴幸、田中達也
現実的な路線を考えたという宇都宮氏に対し、取材された日に活躍して欲しいと思っていた選手を挙げたとは倉敷氏の弁。ともに中村俊輔が先発から外れたが、「現在のコンディション、試合出場ができない状態が続けば、岡田監督は本田を選ぶだろう」(宇都宮氏)「特に含むところはない。何でだろう?」(倉敷氏)と語った。
中村俊輔と本田圭佑が対立しているとの報道に関して、宇都宮氏は「つまらない報道」と一刀両断。倉敷氏も「確執を取り上げるのは強い国に任せておけばよい。日本はまだ、そのレベルに達していない」と、苦言を呈した。加えて、倉敷氏はバレーボールの松平康隆監督の著書から「中村祐造は試合には必要のないキャプテンだった」という言葉を紹介。試合とは別の部分でリーダーシップを発揮する“番長”として、本田圭佑に期待していると語った。
最後に、宇都宮氏はW杯に向けて盛り上がっていない現状を指摘。それぞれの立場で盛り上げてもらいたいと語った。それを受けて倉敷氏も、「アナウンサーや解説といった定義にとらわれず、サッカーが好きだということを、どのように伝えていくか」を考えて仕事をしていると語り、個人個人のアピールの発信が重要だと語り、120分間のシンポジウムが終了した。
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各国別のサッカー事情
~国とサッカーの関わり合い~(一橋祭)
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