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社説

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オバマ演説―アジア回帰を歓迎する

 米国がアジアに戻ってきた。オバマ米大統領が東京で行った演説を聞いて、そんな思いを深くした。

 自らを「米国初の太平洋系大統領」と呼んだのには驚かされた。インドネシアやハワイで育ったことを指しての表現のようだが、発展するアジア太平洋地域に米国として深く関与していく強い意思を示したものだろう。

 大統領は日本訪問のあと、シンガポールでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国との首脳会議に出席し、そして中国、韓国を回る。この演説は初のアジア歴訪にあたって新政権としての基本姿勢を打ち出す狙いが込められていた。

 「核なき世界」を訴えた4月のプラハ演説、イスラム世界に対話と和解を呼びかけた6月のカイロ演説と並ぶ、重要演説といっていい。

 今回も、大統領のメッセージは明確だった。「アジア太平洋国家として、地域の未来を形作る論議に関与し、ふさわしい機構に参加したい」。ASEANと日中韓インドなど6カ国で構成する東アジアサミットに「より正式な形でかかわりたい」。

 クリントン大統領の時代、米国はアジア太平洋への関与を強める姿勢を見せたが、ブッシュ政権になって外交の主軸は「テロとの戦い」に移り、アジアでの存在感も急速に薄らいだ。イラク戦争や金融危機で、米国の一極パワーは衰えたという見方がアジアにも広がりつつある。

 この流れを逆転させたいということなのだろう。中国、インドなど、この地域が21世紀の世界経済をひっぱる存在に成長していくのは明らかだ。米経済の未来がここにかかっているという認識は納得がいく。

 政治、安全保障の面で米国の力はなお圧倒的な優位にあるし、平和や民主主義の重しとしての期待も大きい。

 日本として、そんな米国がアジアへの関与を深めるのは歓迎すべきことだ。経済だけでなく、朝鮮半島の非核化や温暖化対策などを含めて米国が中国と実務的な協力関係を築くことは、地域の安定と繁栄のために欠かせない。アジア諸国にもさまざまなメリットがあるのではないか。

 大統領は、米国がアジア政策を進めるうえで日本との協力関係をその土台としていく考えを示した。沖縄の基地問題を抱えつつも、日米同盟の多面的な発展を言う鳩山由紀夫首相とも響き合う発言だ。米国の東アジアサミット参加などを後押しすべきだ。

 北朝鮮の核や拉致問題、ミャンマー(ビルマ)の民主化で、大統領は直接対話を通じての打開への意欲を語った。方向性は支持したい。日本をはじめ関係する国々が足並みをそろえられるよう、丁寧な取り組みを求めたい。

子ども手当―公正な制度設計を入念に

 鳩山政権が、公約の柱にした「子ども手当」の実現に向けて知恵を絞っている。越えなくてはならない、いくつかのハードルがあるからだ。

 焦点は「全額国庫負担」とするかどうか。さらに「所得制限なし」で一律に給付するかどうか、である。

 政権公約では「子育ての経済的負担を軽減し、安心して子どもが育てられる社会をつくる」とし、中学生までの子どもがいる世帯を対象に10年度は1人当たり月額1万3千円を支給するとした。11年度から倍にして、総額年5.3兆円とする計画だ。

 子ども手当の導入に伴い廃止される児童手当は、小学生以下の子どもがいる世帯を対象に年約1兆円が支給されている。うち国費は2700億円で、地方自治体が5700億円、企業が1800億円を負担している。

 子どもは、社会の将来を担う宝だ。みんなで守り育てなくてはならない。だが、社会保障費は高齢者に偏り、子育て支援は後手に回ってきた。

 非正規雇用の増加や賃金抑制のため、若い世代は子育てに必要な収入を得るのが難しくなっている。

 事態を転換するには、政府による大胆な支援が必要だ。とはいえ、児童手当をなくしても、自治体や企業は少なくとも従来と同等の負担を、何らかの形で継続すべきではないか。

 たとえば、子ども手当の大半は国庫負担とするが、一部を自治体や企業が負担する仕組みにすることも検討すべきだ。あるいは、子ども手当は全額国庫負担とし、保育施設など子育て環境の整備に自治体や企業が応分の負担をすることにしてもいい。

 子育て環境の整備は、親が子育てのために仕事を休んだり辞めたりするような事態を減らすことにつながる。同時に、保育士などの雇用を増やす。地域の活性化や経済成長の観点からも、企業や自治体も含めて負担し合う価値は十分にある。

 給付に所得制限を設けるかどうかは、誰が財源を負担するのかという問題と絡む大きな論点だ。

 子育ての負担を例外なく軽減しようというのなら、所得制限なしの一律支給が筋だろう。どこかで線を引くのは難しいことも考えねばならない。

 また、民主党は将来的には、納税者番号に基づく「給付つき税額控除」制度で低所得世帯への支援を強化する政策を掲げている。全体像を見れば、富者優遇にはならないだろう。

 それにしても巨額の財源が必要である。鳩山政権は所得税や住民税の控除の見直しを検討しているが、将来の消費増税なしに財源を確保することは難しいのではないだろうか。

 政府税調の審議と連動し、多くの人々の納得がいく制度作りを、大胆かつ細心の注意を払って進めてほしい。

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