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きょうの社説 2009年11月15日
◎加賀藩の塩硝遺産群 一括で文化財登録できないか
金沢市の土清水塩硝蔵(つっちょうずえんしょうぐら)跡で新たに火薬製造施設の遺構
などが確認されたことは、国史跡指定へ向けた取り組みに弾みがつく大きな成果といえる。これまで絵図などでしか分からなかった加賀藩の軍事施設の輪郭が発掘調査を通して徐々に浮かび上がってきたことで、火薬原料の塩硝生産地として知られる南砺市五箇山の関連施設との川上、川下の関係が一層分かりやすくなってきた。塩硝蔵は藩政期の火薬施設としては備蓄量が全国一とされる。藩の火薬施設の国史跡は 全国にも例がなく、今後の発掘調査の進展に期待したいが、文化財としての価値を高めるためにも、金沢、五箇山の塩硝遺産群を一体的にとらえて文化財登録する手法は考えられないだろうか。 加賀藩の遺産に関しては、金沢市野田山の前田家墓所と高岡市の前田利長墓所が「加賀 藩主前田家墓所」の名称で国史跡に一括指定された先例がある。県境を越えて2つの文化財を結びつけたことにより、大名墓所としての破格のスケールが一段と鮮明になった。 土清水塩硝蔵跡では火薬原料を粉末に加工する「搗蔵(つきぐら)」の遺構のほか、辰 巳用水から水を引き込む水路跡なども見つかった。一方、五箇山には塩硝を集荷した岩瀬家(国重要文化財)、周辺集落の生産を取り仕切った羽馬家(富山県文化財)などがある。それらを一体のものとして評価できる仕組みがあれば、両地域を結ぶ「塩硝の道」とともに、加賀藩軍事史が面的に浮かび上がってくるだろう。 世界遺産登録運動では、一つのテーマのもとに文化財を関連づけてストーリーを練り上 げる手法が広がってきた。文化財保護行政では、個々の指定で保護の網をかぶせれば一応の目的が達成されたことになるのだろうが、活用という視点を重視するなら、点在する文化財を線で結び直し、再構成する発想があっていい。 加賀藩遺産のように県境を越えて広域的なつながりを持つ文化財は、行政の区画を取り 払って眺めないと本質は見えてこない。固定化された枠組みにとらわれず、より柔軟な文化財指定の仕組みを地方からも積極的に提案したい。
◎独法の「埋蔵資産」 返還の法整備を急ぎたい
政府の行政刷新会議が進める事業仕分けで、国と独立行政法人(独法)が所管する基金
や保有資産が焦点の一つになっている。会計検査院の2008年度決算検査報告でも、多額の余剰資金の一端が明らかにされた。しかし、独法が保有する不要な財産を国に返還する規定はまだ整えられておらず、早急に法整備を行う必要がある。鳩山政権は国所管の基金や独法の資産で有効に活用されていないものを、特別会計に次 ぐ「第二の埋蔵金」として、一般会計に繰り入れる方針である。原口一博総務相は事業仕分けで、特に財務省所管の独法である国立印刷局と造幣局の利益剰余金などの状況を審査するよう求めた。 会計検査院は07年度報告で、国立印刷局に対し、土地など1千億円以上に上る不要資 産を国に返還するよう求めたのに続き、08年度報告でも、福利厚生施設に当たる運動場(帳簿価額37億7千万円)の譲渡や返還を検討するよう要請している。 国立印刷局だけでなく造幣局や総務省所管の独法である情報通信研究機構などに対して も、宿舎や出資金など多額の不要資産の返還を求めている。しかし、独法の財産の返納方法を定める独法通則法の改正案は今夏の衆院解散のため廃案となり、独法側が返還の準備をしても法の不備で立ち往生する状況が続いている。 一方、国や独法が補助金を出して公益法人に設置する基金は今年3月末で145を数え 、保有資金総額は約1兆870億円に上る。内訳は国所管が110基金9120億円、独法所管が35基金1750億円となっている。 会計検査院の08年度検査によると、このうち19基金は過去の平均事業実績の50倍 以上の資金を抱えているという。また、公益法人の事業費などに対する内部留保比率は、国の基準で30%以下とされるが、その基準を超えて利益を内部にためこんでいる公益法人が少なくない。こうした状況は多額の公的資金が眠っていることを示し、各種基金の適正規模や運営状況の見直しを迫っている。
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