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格差社会の中心で友愛を叫ぶ

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「明日は新宿公園か、天国か――」
“救急車も呼んでもらえない建設現場”の悲惨

「今さら農村に帰れとは…」

 9月末、八ツ場ダム問題で世論が盛り上がる一方、建設業界にとって明るいニュースも流れた。千葉県野田市の「市公契約条例案」が原案通り可決されたのだ。公共工事の請負労働者などの最低賃金額を市独自に定めるもので、来春から施行される予定。この取り組みが全国に広がれば、国の最低賃金を上回る賃金が、公共工事で保障されることになる。

 とはいえ、不安材料はまだまだ尽きない。たとえば民主党が掲げる「医療保険の一元化」。国民健康保険、被用者保険(組合健保、協会けんぽ)を順次統合することを謳っている。しかし、実現すれば、多くの建設労働者が加入している「国民健康保険組合」がなくなってしまう。

 国民健康保険組合は、一般的な健康保険に比べ保障が厚い。税金が不公平に投入されている、と批判の声も多いが、つねにケガやアスベストなどの危険に囲まれている建設業界労働者にとっては命綱。無一文状態で病気やけがをすれば医療難民となり、そのままホームレス化しかねない。

 「国は『建設業であぶれた人間を農業や林業の従事者に』なんて言っているらしいですが、冗談じゃありませんよ。本当にそんな受け皿が今の農業や林業にあるんでしょうか。十分な受け皿整備もせず、無責任なことを言うのはやめてほしいですよ、まったく」

 溜口氏は、語り終えるとため息をついた。

 かつて貧困に陥った農家の人々を建設業へと誘った国が、今度は建設業から農業へと、逆の雇用ルートを創り出そうとしている。もともと農村出身の建設労働者にとっては、首をかしげたくなるような話かもしれない。

――今の所では賃金、単価が安く、働く方には残業代すら払うのは難しい。職人は皆やめて 仕事が有るときだけ 助けてもらう体制になり 親方として たいへん申し訳ない状況になっている。

少しでも 利益があったら 夏の飲み会を開いて お世話になっている職人に 少しでも御祝儀・ボーナス? をつつみたいと 夢をえがいています。 景気がよくなって 秋には飲み会 をできたらなあー

 8月、東京土建のホームページに書き込まれた、親方の「つぶやき」(原文のまま)だ。仲間同士の友愛ではもはや成り立たなくなってしまった建設業の人々の暮らし。現政権の「友愛」の光ははたしてここにも届くのだろうか――

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著者プロフィール

西川敦子
(フリーライター)

1967年生まれ。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクション勤務を経て、独立。週刊ダイヤモンド、人事関連雑誌、女性誌などで、メンタルヘルスや介護、医療、格差問題、独立・起業などをテーマに取材、執筆を続ける。西川氏の連載「『うつ』のち、晴れ」「働く男女の『取扱説明書』」「『婚迷時代』の男たち」は、ダイヤモンド・オンラインで人気連載に。

この連載について

現代社会でなおも広がり続ける「格差」。この連載では、人々の生の声を拾い、悲惨で理不尽な状況に苦しむ姿などから格差の現状を伝えていく。果たして現政権が唱える「友愛」の光はここにも届くのか――

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