住まいのあり方を追究する全国の工務店団体から鳩山内閣に提出された1つの提言書がいま注目を集めている。題して「若者よ、半世紀をかけて住宅をつくろう!」。住宅ローンと資産価値評価のあり方を改めるこの提言は、森と町を繋いで「緑の時代」を築く、若者に持ち家の「夢」と就農の機会を与える、CO2削減にも資する、日本経済を下支えする「内需」を生み出す、など多くの狙いを包含した総合的な政策。菅直人国家戦略担当相や前原誠司国交相、赤松広隆農水相らが強い関心を示しており、鳩山政権の政策に取り入れられる可能性もある。
提言書を出したのは、全国の加盟工務店70店をインターネットサイト
「住まいネット新聞『びお』」で繋ぐ
「町の工務店ネット」(小池一三代表、本部・浜松市)。物質至上主義、科学技術万能主義を批判して人間中心の経済学を説いたエルンスト・シューマッハーの「スモール・イズ・ビューティフル」をモットーに、家族、健康、環境、生活を中心テーマにした住居づくり運動を進めている。「住まいは家族を包む『いのちの箱』」という代表の小池一三氏は、これまでにも太陽熱利用の協会運営や「近くの山の木で家をつくる運動」、「日本に健全な森をつくり直す委員会」などの活動を展開してきた住宅改革の実践家だ。
「住まいネット新聞『びお』」から(画像キャプチャ筆者)
提言書は、「若者よ、半世紀をかけて住宅(すみか)をつくろう!」をメーンタイトルに「若年層を対象とする家づくり支援・長期優良住宅推進制度(仮称)」のサブタイトルが付く。「提言の主旨」と8項目の「提言の要旨」、32項目にわたる「提言の理由」からなる長文のものだが、提言の内容を要約すれば以下のようなことになる。
1.若年層が将来に夢を持てる社会を築くために、家族、生活、福祉の根拠となる家を建てることができる制度を整える必要がある。
2.現行の長期住宅ローン(50年)は金融側の長期性に伴うリスク回避のため返済総額が膨らみ機能していない。これは建物自体が担保となる制度が確立されないからで、クレジットローン(個人への信用貸し)からモーゲージローン(抵当権付担保ローン)への転換を図るために、建物の「検査・診断(ホームインスペクション)」と同時に「評価(アプレイザル)」の基準を確立する必要がある。
3.従来の不動産評価は建築後20年でゼロになるが、本年6月に施行された長期優良住宅普及促進法(別名「200年住宅法」)に資産価値評価の制度を加えれば、住宅自体に資産価値(価格)が付くことになるから、長期ローンの障害は取り除かれ、若年層も2世代、3世代にわたって住み続ける優良住宅を建てる意欲を掻き立てられる。
4.モーゲージ(建物担保)を前提とした長期住宅ローン(50年)は、2世代にわたって支払うことを前提にする。何らかの事情が生じて他人に売却する場合には、その住宅の購入者が、そのままローンを承継できるようにする。若者が50年ローンで家を建てることを決意すれば、親も蓄えている財産を子のために使ってもいいと考えるようになり、金融資産が市場に回って景気浮揚を促すことになる。中古住宅の市場も活性化すれば、持ち主は建物の手入れに励むようになり、内需を持続的に下支えすることになる。
5.住宅の資産価値を長期に維持するために、住宅の建替えや大規模改造の際の耐震・省エネに対する金融・補助金などの支援・助成策を強化する。併せて、住宅ローン利子所得控除制度の導入、不動産取得税・固定資産税等の減額措置、消費税の適用除外(土地と同じ扱い)などによって政策的に誘導する。
6.現行の長期優良住宅制度を改変し、国産材利用、省エネ化、自然エネルギーの活用を義務づける。国産材利用は、森林業と住宅産業の共生を促し、山森と流域の保全、自然災害の防止に役立つ。木造住宅はCO2を長期間にわたって缶詰化することになり、植えた木はCO2を吸収する。加えて、省エネ・次世代省エネルギーを義務化すれば、鳩山政権が掲げる「CO2 25%削減」の地球温暖化防止に大きく貢献する。日本の住宅の平均寿命は30年だが、100年持つ住宅なら、建築に伴うエネルギー消費と建設廃棄物の削減は膨大なものになる。
7.田舎でも都会でも核家族化が進み、老朽家屋に高齢者がひとり取り残される「過疎化」が大きな問題になっている。長期優良住宅は大家族が一緒に生活することを可能にし、日本型の福祉社会を復活する決め手になる。
前原国交相の指示に従って国交省住宅局長らに提言書の内容をすでに説明したという小池一三さんは、次のように語る。
「わが国の戦後復興は鉄と石炭に傾斜するばかりであったが、西ドイツの初代首相コンラート・アデナウアーは焦土と化した戦後の出発にあたり『すべてを住宅建設に!』と呼び掛けた。あの演説の後方には、ナチスによって挫折させられたグロピウスなどの『バウハウス』の運動があった。大恐慌後のアメリカでフランクリン・ルーズベルト大統領は『ニューディール政策』を掲げたが、それに応えてフランク・ロイド・ライトは『ユーソニアン住宅』を提唱した。コルビュジエも、ミース・ファン・デル・ローエも、またチャールズ・イームズやジャン・プルヴェも、日本の前川国男や吉村順三なども、『小さな家』や『ケース・スタディ・ハウス』の試みを行っている。この系譜の仕事は、まるで地下茎のように連綿と繋がっている」
「都市に住む住人は、地域によって高齢化が進み、老人ばかりが目立つ地域が少なくない。子どもや孫は、家が老朽化している、狭いということもあって、同じ都会に住んでいても別居している。日本の高齢者福祉は、現実問題、家が負わなければ難しい状態にある。都市と農村を往き来するモビリティとして、無料化された高速道路や通勤割引の新幹線を使うのが高度経済社会だと思う。地震などの災害が起これば、その家は『避難住宅』になり、老後は『終の棲家』になる。政治家は、国民の夕餉に思いを致し、住処(すみか)に目を向けるべきで、そこにあらゆる政策の種、景気浮揚をはかる起爆剤がある」
提言書の全文は次のページにあります。