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中央アジア:資源、安保の要に 世界に存在感--27日、東京でフォーラム

 中央アジア5カ国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)の魅力を探る「経済と文化のクロスロード-ユーラシア・中央アジアフォーラム」(毎日新聞社主催)が27日、東京都内で開かれる。豊富な天然資源をめぐってロシアと欧米、中国がしのぎを削り、またアフガニスタンの後背地として世界の安全保障の面からも重要視される地域だ。フォーラムを前に中央アジアの現状を紹介する。【モスクワ大木俊治】

 ◇石油・ウラン・天然ガス、各国争奪戦

 中央アジアの石油・天然ガス資源をめぐる開発参入競争や輸出ルート争いは、19世紀に英国とロシアなどがこの地域の覇権を争った「グレートゲーム」の再来とも呼ばれている。旧ソ連時代、輸出経路はロシア経由のパイプラインに限られていたが、近年は中国がほぼ独力で直通パイプラインを建設し、欧米もロシアを迂回(うかい)する欧州向け輸出ルートの開拓を進めている。

 カザフスタンはカスピ海北部や沿岸部の石油資源が90年代から注目され、欧米資本を導入して開発を進めてきた。昨年の原油生産量は7200万トン、確認埋蔵量は53億トンで世界第9位。旧ソ連ではロシアに次ぐ「石油大国」だ。米シェブロンが手がけた世界有数規模のテンギス油田は今後、さらに生産量を増やす見込みで、日米欧の共同事業体が開発するカシャガン油田も早ければ12年に生産を開始する。カスピ海北岸から中国・新疆ウイグル自治区まで総延長約3000キロの石油パイプラインが7月に完成し、輸出先の多様化も進んでいる。

 カザフは原発燃料となるウランの生産量でも、カナダに次いで世界第2位。昨年の生産量は約8700トンで世界の生産量の2割を占める。地球温暖化対策で世界的に原発回帰の流れが起きており、今後の需要増を見込んで日本企業も開発に乗り出している。

 天然ガスで注目されているのはトルクメニスタンだ。確認埋蔵量は7兆9000億立方メートルで世界第4位(1位はロシアの43兆立方メートル)。これまで輸出ルートはロシアが独占していたが、今年末にはトルクメン東部からウズベキスタン、カザフを経て中国までの総延長約1800キロのパイプラインが完成する見込みだ。欧州連合(EU)主導のロシアを迂回するガスパイプライン「ナブッコ」計画も、トルクメンを有力な供給源とみており、ロシアとの争奪戦がさらに激しくなりそうだ。

 このほかウズベキスタンはウランや天然ガス、キルギスは金や水銀、タジキスタンは希少金属のアンチモンや金、銀などの資源に恵まれている。キルギスとタジキスタンでは、山間部の豊かな水を利用した水力発電も貴重な「資源」だ。

 ◇アフガンにらみ、米露軍駐留

 中央アジアは混迷が続くアフガニスタンに隣接し、タリバン掃討作戦を展開する米国はじめ北大西洋条約機構(NATO)にとって戦略的に重要な地域となっている。

 米軍は01年の同時多発テロ後、キルギスの首都ビシケク近郊にあるマナス空軍基地に駐留し、アフガン向け物資輸送の中継地として使っている。ウズベキスタンにも米軍が一時駐留したほか、現在はドイツ軍が南部テルメズ近郊で対アフガン作戦の拠点を構えている。

 一方、安全保障面で旧ソ連圏の「盟主」としての役割を維持したいロシアは、ビシケク近郊のカント空軍基地に軍部隊を駐留し、キルギス南部オシにも新たな軍基地の開設を求めて交渉を続けている。ロシアはアフガンでの軍事作戦に参加していないが、米軍のプレゼンスに対抗する狙いがうかがえる。

 ただ中央アジア各国にとって当面の安保上の懸念は、アフガンからのテロや麻薬の流出が政権の不安定化を招くことであり、この点で各国と米露の利害は一致する。軍事評論家のフェリゲンガウエル氏は「テロの脅威が強まるほど米露の確執は薄まり、脅威が低下すれば米露間の対立が表面化する構図」と指摘する。

 ◇ロシア依存脱却へ--ロシアのエネルギー専門誌「ロスエネルギー」編集長、ミハイル・クルチーヒン氏

 中央アジアはかつて経済的にロシアに大きく依存していたが、資源を武器に輸出先の多様化を進めるなど自立を強めている。欧州や中国の進出で、この地域でのロシアの立場は以前に比べて弱くなっている。

 例えばロシアとカザフスタン、トルクメニスタンは07年、天然ガスのロシア向け輸送量強化のため既存のカスピ海沿岸パイプラインを改修し、併せて新線も建設することで合意したが、この計画は全く進んでいない。実現にはトルクメン国内を横断するパイプライン建設が必要で、同国はロシア政府系天然ガス企業「ガスプロム」に費用負担を求めているが、財政難の同社が応じていないためだ。一方でこの横断パイプライン建設にドイツやオーストリアの企業が協力を申し出ている。トルクメンは条件で双方と駆け引きしている。

 ロシアは4月、パイプライン事故の原因を巡りトルクメンと対立し、ガス輸入を停止したが、トルクメンは中国やイランへの輸出でしのぎ、強気の姿勢を崩していない。

 カザフはウランという武器を持つ。ロシアは今後の原発増設のため、カザフからの輸入に頼らざるをえない。カザフの石油部門には欧米だけでなく中国の企業が進出。協力相手の多様化が進む。

 ガスプロムなどロシアのエネルギー企業は「外交の武器」と言われるが、実際は外交政策を利用しながら目先の利害で動いている場合が多い。しかも経済危機による資金不足や経営の非効率で競争力は低い。中央アジアは欧州、中国以外にもイランやトルコなどさまざまな取引相手があり、ロシアとの間でも当面は有利な駆け引きを続けるだろう。【聞き手・大木俊治】

 ◇日本は支援強化を--国連大学学長上級顧問、中央アジア・コーカサス研究所所長、田中哲二氏

 「中央アジア」と聞いて日本人はどんなイメージを抱くのだろうか。「シルクロード」だろうか。99年のキルギス日本人技師拉致事件の時のような「イスラム過激派がいる危険地帯」、あるいは石油を中心とする「豊かな天然資源」だろうか。しかし、いずれもこの土地の性格を十分伝えていない。

 まず中央アジアは極めて親日的な地域だ。第二次大戦後、ソ連に抑留された日本人約60万人のうち1割が中央アジアに送られた。当時の日本人の勤勉な仕事ぶりは今でも語り継がれている。敬老精神や客人をもてなす現地の文化も日本に近い。

 最近はエネルギー安全保障の観点や、アフガニスタンをにらんだ戦略拠点として語られることが多い。今や欧米諸国や中国、ロシアから注目される存在となり、上海協力機構などを通じて中央アジア側が実質的にキャスチングボートを握ることもまれではない。

 日本は97年に橋本龍太郎首相が「ユーラシア外交」、04年に川口順子外相が「中央アジア+日本」の外交方針を唱え、この地域に積極的にかかわってきた。政府開発援助(ODA)の減少もあって日本の相対的優位性が続くとは限らない。

 日本はさらに支援を強めて堅固な民主国家群の形成を促し、この地域の安定と平和に貢献すべきだ。中国やロシアとの関係を考える際、日本びいきの中央アジア諸国の存在は、外交カードの厚みを増す。鳩山由紀夫首相が唱える「東アジア共同体」の行方にも影響を与えるはずだ。日本は歴史的にシルクロードを通じて文化向上の恩恵を受けてきた。世紀を越えてその恩返しをするのだというぐらいの視点を持ちたい。【聞き手・杉尾直哉】

毎日新聞 2009年11月13日 東京朝刊

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