「金のなる木」から「負け犬」の途上の日本 − 日米首脳会談の憂鬱
オバマ訪日の日程の異常な窮屈について、報道では、当初の計画は１日前の11/12に日本に到着の予定だったとされている。本当だろうか。天皇陛下の在位２０年の記念式典が開かれて、国民もマスコミもそれに注目している最中に、米国の大統領が羽田に降り立って都内で訪日日程の行事をこなす図などというのが果たしてあるだろうか。考えられない。11/12の夕刻から夜にかけては、二重橋前の皇居前広場で国民祭典が開かれた。鳩山首相も出席して祝辞を述べている。オバマ訪日と重なっていたら、一体どうなっていただろう。マスコミ報道では、例のテキサスの陸軍基地での銃乱射事件が尾を引いて、その影響で米国政府の日程にズレが生じ、オバマ訪日が一日短縮されて11/13の来日になったと説明されている。この説明は俄に信じがたい。オバマは、訪日前（日本時間で11/13午前）、わざわざアラスカに立ち寄っている。ワシントンから東京に直行していない。何でこんな日程を入れたのか。11/13午前、東京では皇居の宮殿で天皇陛下の即位２０年を祝う宮中茶会が開催されていた。鳩山首相も出席している。それを避けたのだ。つまり、オバマ訪日が11/12であった場合、天皇陛下の即位２０年祝賀行事と完全に重なる。すなわち、11/12の訪日は最初からあり得なかった。実に不思議な話だが、それなら、なぜ11/12訪日という政治日程が企画されていたのだろう。
この日程の謎解きは一つである。米国政府は、ＡＰＥＣの日程を睨み、天皇陛下の即位２０年の行事日程も承知した上で、敢えて（無理な））11/12訪日を日本政府に打診していたのだ。日本側に、即位２０年記念行事の日程を前後に移動させるか、オバマ訪日の日程の短縮を受け入れるか、二つに一つを強引に選ばせたのである。つまり、最初から日本には１泊２日の予定で決めていて、陸軍基地乱射事件の影響云々はエクスキューズだったのである。もし、米国側に天皇陛下即位２０年行事とのバッティングを避ける意思があったのなら、シンガポールでのＡＰＥＣ会議後に日本を訪れ、それから中国に回る歴訪日程を組むべきだっただろう。それなら何も問題ない。膝を交えた首脳会談も二度行えて、個人的な信頼関係を構築する機会も増える。中身は、日本には１泊２日（11/12-13）、中国には３泊４日（11/15-18）の日程である。北京だけでなく上海で宿泊している。日本のマスコミは、オバマの中国滞在を３日間と言っているが、実際は４日間だ。この報道の表現にも政治的な意図を感じる。物理的な時間で言えば、日本滞在（２４時間）の３倍の時間を中国で費やしている。それから、この日程の曜日設定にも注目する必要がある。日本滞在は週末であり、中国滞在は平日である。中国滞在中の報道は平日の夜のニュースで詳しく伝えられる。米国政府が中国をフォーカスしているからだ。
米国にとって中国が最重要の外交相手だからであり、米国民の関心が米中関係にシフトしているからである。経済的に苦境に喘ぐ米国は、中国経済の躍進と発展を米国経済に連結し取り込むことで、景気再浮揚のチャンスを捉えようと必死になっている。冨のフロンティアである中国戦略のプログラムに目の色を変えている。一年前、水野和夫が世界金融危機の状況と展望を解説しながら、日本経済の突破口は中国市場にあり、脱米入亜の路線こそが経済再生の鍵だと提唱したが、同じ発想と期待を米国自身が持っていて、入亜結中の方向を懸命に模索しているのである。中国での経済外交の成果を米国民は固唾をのんで注視しているのであり、中国からのマスコミ報道が落ち目のオバマ支持率を左右する。したがって、今度のオバマのアジア歴訪の目的の第一は、中国との経済関係にあり、中国経済と連動することで米国の景気を回復させる夢を米国民に見せることである。それが第一で、第二が日本からアフガン支援のカネをふんだくることだった。プライオリティの低い第二の目的は、難なく鳩山由紀夫が応じてくれて、日本政府の（米国に貢ぐ）キャッシュ・ディスペンサーの能力に衰えがない事実を確認できた。米国のポートフォリオ戦略の中で、日本は「金のなる木」から「負け犬」への過程にある。中国は「問題児」から「花形商品」への途上にある。経営資源を集中投資すべきなのは、当然ながら後者の方だ。
しかし、昨夜（11/13）の首脳会談後のオバマの記者会見を聞いて驚いたが、日本政府はアフガン支援の５０億ドルに加えて、パキスタン支援の１０億ドルの提供まで約束している。この事実は知らなかった。初耳だ。訪日前に記事で書いていたマスコミはあっただろうか。パキスタンへの１０億ドルの話は鳩山由紀夫の口からは出なかった。米国側の図々しい（先手の）計略だろうか。米国に強請されるまま、唯々諾々と従ってカネを出すのが日本の外交だ。カネの使途を決めるのは米国、カネを貢ぐのは日本。去年は１０兆円を米国にふんだくられた。今年は６千億円をふんだくられた。政権交代のおかげで、ふんだくられる金額が減ったことを祝い喜び寿ぐべきだろうか。事業仕分けで予算を削って財源を捻出しながら、６千億円の巨費を簡単に米国に差し出してドブに捨てる。鳩山政権の言う「緊密で対等な日米関係」とは、こうして従来と同じく、言われるままに米国にカネを貢ぎ続ける関係であり、選挙公約で約束した普天間基地の国外移設も言い出せず、日米地位協定の改定も言い出せず、何も言えず、蛇に睨まれた蛙のように米国の前で縮み竦んで、札束だけを積み上げ渡す関係でしかない。読谷村で轢き逃げ事件を起こした米兵についての言及もなかった。本来なら、オバマから一言の謝罪もあって然るべきだろう。それなのに、謝っているのは日本の方で、日米合意の履行（辺野古沖新基地建設）が遅れて申し訳ないと卑屈に詫びを入れている。
官邸記者会見で立ったＡＰの記者は、オバマに対する質問の中で、日米関係の問題については何も聴かなかった。アフガン増派の決定の遅延理由の説明を求め、陸軍基地乱射事件の犯人の取り扱いについて尋ねただけである。この質問は、日本とは何も関係がなく、日米首脳会談の記者会見で発すべき性格のものではない。態度として非常識で、日本政府と日本国民に対して無礼だ。だが、彼ら米国のマスコミにとって、この行動は無礼でも非常識でも何でもないのである。属国の官邸の中で、彼らはどんな傍若無人な振る舞いも許される主人様なのだ。そして、米国民が大統領の口から今すぐ知りたいのは、ＡＰの記者が質問したその二つであり、日米関係などどうでもいい無視すべき些事なのである。属国の首相がアフガンに５０億ドル出し、パキスタンに１０億ドル出しても、ああそうか当然だという程度で、去年の１千億ドルに比べれば少ないなという程度で、まあ属国も台所の事情があるだろうから許してやろうという程度でしかないのである。日本の首相にも一つくらい質問しなきゃと思ったＡＰの記者は、率直に米国民の思うところを代弁して、日米合意の約束はいつになったら実行するのだと問い、あまり米国民を苛立たせるなと釘を刺した。この現実は、日米の世論の温度差などという生易しい表現で説明できるものではない。米国にとって日本は米国の植民地なのであり、米国政府の意向と対立する意思や主張を持つべき独立国ではないのだ。卑しい属国なのである。
当夜、報道ステーションの解説で出演した寺島実郎は、日米が今後１年間をかけて日米同盟の再定義と再構築に取りかかる合意を重視、５０年前の冷戦時とは違う非軍事部門の協力関係を含む新たな日米同盟への進化を期待するコメントを発していた。だが、このコメントも無内容で空々しく聞こえる。寺島実郎は、国防総省の内部では、米軍の沖縄駐留などには全く固執しておらず、ハワイやグアムに部隊を配置しつつアジア地域の防衛をカバーする構想がすでに準備できていると言い、そうした動きに対応できてないのは日本の政府と世論だと言った。評論家は好き勝手なことを言う。そうであれば、ゲーツはなぜ日米合意の早期実行を脅すようにして執拗に迫るのか。なぜ米国のマスコミは、日本を侮って、今回の沖縄米軍基地の問題を日本側の愚図と不誠実が全てのように構図を捏造して報道するのか。寺島実郎の発言は、あまりに自分に都合のよいお花畑の楽観的評論で、米国の現実を直視していない。その国防総省の内部の議論について証明できるのか。米国側に日本の立場を主張する根拠として提示できるものなのか。実際には、米軍は日本に駐留する方が安上がり（思いやり予算）で、地位協定で米兵の身の安全が保障されているから日本に駐留を続けるのである。便利で都合がいいから日本にいるのだ。寺島実郎の議論は、彼の米国への幻想を強引に情勢解説にしたものである。これまでのシュアな評論で定評がある寺島実郎の影響力は小さくなく、この（幻想の）認識に惑わされる日本国民も少なくないだろう。こうして日本国内の対米言論は屈折を重ねて行く。
この問題を打開するのは沖縄の声と動きでしかない。いつも思うことだが、こうして米軍基地の問題がテレビ報道で扱われるときには、解説席に沖縄の代表者が座って口を開かなくてはいけない。それがない。貧困の問題については、われわれには湯浅誠という代弁者がいる。生活保護について、失業対策について、派遣法改正について、マスコミも政府も政党も、その問題や政策を扱うときに、湯浅誠の発言と存在を無視できない。そういう代表者の人間を沖縄の基地問題で出さなくてはいけない。沖縄の反基地運動に携わっている人々に早急に求めたいのは、本土のマスコミと政治に対する広報戦略の立案である。湯浅誠のような若いリーダーをプロデュースすることだ。そうした白眉の人間が出れば、テレビが取材する。「朝生」から出演依頼が来る。岩波が新書の執筆依頼に来る。野党が（テレビカメラを入れた）政策の勉強会に呼ぶ。政権が人気とりの目的で彼を内閣府の参与に抜擢する。世論工作という問題を沖縄の基地反対派は戦略的に考える必要がある。それなしに、本土の人間は冷たいとか無関心だとか温度差があるなどと言っても仕方がない。それから、沖縄からの発言で、「沖縄の人間は何度民意を示せばいいのだ」という主張があるが、仲井間弘多のような知事や島袋吉和のような市長を選んでいるから、何度も何度も基地撤去の民意を示し続けなくてはならないのである。選んだのは沖縄県民であり名護市民だ。自己責任である。民意の証明を幾度も繰り返さなければならないような、そういう首長選挙の結果を出してはならず、その不具合に始末をつける責任は第一義的には沖縄にある。人（指導者）がすべて。指導者なくして運動の成功はない。
