新型インフルエンザのワクチン。10ミリリットルの大瓶(右)と1ミリリットルの小瓶がある
不足する新型の豚インフルエンザのワクチンを効率よく供給しようと、全国で流通し始めた10ミリリットル入りの大瓶が、医療機関によっては容量が大きすぎ、ワクチンが余る事態となっている。24時間以内に使用しなければならず、一度に十分な人数が接種に集まらないと無駄が出るため、医療機関は対応に苦慮している。
14日から小児向け接種が始まる大阪府。豊中市のさもり小児科には12日、大瓶2本と1ミリリットルの小瓶15本が届いた。大瓶なら、1日に子ども40人前後に打てる量だ。現在、約100人の予約が入ってはいるが、佐守友仁院長は「この中から40人のスケジュールを調整するのは容易ではない」と嘆く。
思い余って大阪府に問い合わせたところ、回答は「余ったら捨ててください」。厚生労働省も、開封後24時間たって余ったワクチンは品質が保証できないとして廃棄するよう求めている。ただ、ワクチン不足から医療機関には要望量の3割程度しか配られていないのが現実。佐守院長は「廃棄しろなんて本末転倒」と憤る。
徳島市の城南公園内科には10月下旬、慢性疾患の小児用として大瓶が3本届いた。だが、予約が入っていたのは55人。これでは大瓶1本では足りず、2本では余ってしまう。急きょ、カルテを繰って予約のない患者に連絡、ちょうど大瓶2本分の約70人をかき集めた。
ただ、残された大瓶は1本。これでは70人全員の2回目の分に足りず、宮本泰文院長は「どうしたらいいか分からない」と思案に暮れる。
大瓶は梱包(こんぽう)などの手間が省け、生産量も増やせるとの意見もあって国が導入を決めた。ワクチンは国の配分で都道府県に届けられるが、その先でどう配るかは都道府県の判断。厚労省は、大規模な医療機関には大瓶を、個人病院や小児科には小瓶を供給するよう求めているが、思惑通りにはなっていない。
埼玉県には、県内の小児科などから「できるだけ小瓶がほしい」といった声が相次いでいるが、「すべての要望に応えることはできない」(疾病対策課)のが実情。小瓶に注文が集中しないよう、県は1医療機関あたりの小瓶の注文数に上限を設けた。
鳥取県の病院では、医療従事者用に配られた大瓶で残量が出たため、病院職員の親族に接種したことが表面化。だが、医療現場では「余った分は、優先順位の対象外ではあっても、その日に接種できる人に回す」と言い切る関係者も少なくない。
こうした中、東京都小平市の医師会では、集団接種の実施を決めた。鈴木昌和会長は「大瓶は本来、集団接種向き。なるべく余らせたくない」と話す。(稲垣大志郎、浅見和生)