■行政刷新会議の中継で研究者クラスタが問題と感じた事 行政刷新会議は13日の事業仕分けでは、文部科学省も対象となり、「競争的資金(先端研究)」や「競争的資金(若手研究育成)」「地域科学技術振興・産学官連携」等も対象となり、査定結果は惨憺たるものでした。twitter上でもハッシュタグ#shiwake3(参照:http://twitter.com/#search?q=%23shiwake3)にて実況が行われました。
中でも印象的だったのは、民主党議員蓮舫氏の発言を引用した、 「納税者がトップレベル研究者にお金を払った分、納税者個人にもリターンを貰えないと納得できません!(キリッ)」 ですが、中継をおさらいしてみても、仕分け人は、個々の事業の査定において明確な基準を持っていないという印象を受けました。これは民主党は政権与党として、日本という国をどういった方向へ進めていくかというビジョンを明確にしておらず、どういう観点から事業を査定するかの方針が定まっていない事から生じている問題なのです。
さて、管理人は工学という分野に身をおいているため、実務に携わりながら研究業務に従事しています。今回、中継を見ながら管理人の専門である建設工事における工事請負契約のプロセスと、無理な査定から来る問題と対応の構造がそっくりだったので、工事請負契約から今回の事業仕分け問題へのソリューションへとたどり着くきっかけを皆さんに紹介できればいいなと思い、このエントリーを起こす事にしました。
■工事契約のプロセスと問題点 まず工事請負契約に関してですが、今回は建築に関係ない方へのコンセプトをお伝えしたいので、 細部かつ専門的なことは除いてできるだけシンプルな形で解説したいと思います。
ビルの建設プロジェクトについて考えます。
1、発注者(いわゆるオーナー)は、建物の設計図を設計事務所に作成を依頼し、その設計図をもとにビルの建設を建設会社(いわゆるゼネコン)に依頼します。
2、工事を始める前にオーナーは、ゼネコンと工事請負契約という契約を結びます。この時に、双方で成果物の性能を定めた設計図と契約金額(コスト)と契約工期(締め切り)を決めます。
3、契約を結ぶと設計図とあらかじめ定めた「設計図とコストと締め切り」に従ってゼネコンは工事を進めます。請負契約というのは、合意した「設計図とコストと締め切り」さえ守れば、過程は仕事を請け負った側(ゼネコン)が自由に決めてよいという契約形態です。科研費の申請なんかと同じで、あらかじめ研究計画をたてて承認さえされれば、成果を上げる過程を細かく指示されないのと似ているので理解は容易かもしれませんね。
4、不測の事態が起きたとき、それを補うため契約時には想定していなかった追加工事を行う事があります。地面の中に障害物が埋まっていて地面を掘り進める事ができないなど、事前に確認できない事が原因で生じる事が多いです。 オーナーは見積もり作成を指示し、ゼネコンは見積書をオーナーに提出し、見積書に書いてある追加工事代金が妥当なものであるかの査定を行い、双方合意したうえで、工事を進めます。 この時良くあるのは、追加工事によって締切りを遅らせないため、オーナーは口頭でゼネコンに対して工事の着手を指示し、ゼネコンは工事を進めながら見積もりを提出します。こういった場合、金額の合意ができていないのにゼネコンは工事を進めるために必要な材料や職人を手配してしまうため、往々にして価格の合意が不調に終わった場合、トラブルとなります。すでに科研費に乗っかって自分の人生を発注してしまっている若手研究者に対して、仕分け人が根拠のない減額査定を提示してくる。これって今回の仕分けの構図と似ていませんか?
5、締切日までに建物を完成させ、オーナーはゼネコンに対して工事代金を支払い、ゼネコンはオーナーに対して建物の引渡しをします。引渡しというのは妙なニュアンスに聞こえるかもしれませんが、実は、工事中の建物の所有権はゼネコンにあるのです。建物を建てるための材料はゼネコンが負担しているため、工事代金の支払いとともにオーナーがゼネコンの所有権を買い戻すといったイメージで考えてもらえればよいと思います
■理不尽な査定に対して、成果物を引き渡さないという考え方 日本の契約は、基本的には信義則に基づいて締結されます。これは、お互いがお互いの立場を尊重し、 基本的にトラブルが起こったときは、双方が協議して合意点にいたる事を想定しています。
追加工事の査定を行うシーンを考えてみましょう。 追加工事に当たって、必要な材料と、必要な作業量、を明確にして見積書を作成します。オーナーはその妥当性を判断します。材料の単価や作業にかかるコストが当初定めたものと大きく変更がないか、妥当な価格がどうかを判断し、意義があれば価格交渉を行います。しかしながらオーナーの都合だけで、とにかく安く、もっと安く、などという言い分は、契約相手であるゼネコンの利益をあからさまに侵害する事になりますので、容易に合意できない事でしょう。通常、ゼネコンはオーナーを立てますが、契約上はオーナーとゼネコンは対等な立場ですので、どちらか一方の都合でどちらかが一方的に損害を受けるような契約を合意する義務はありません。 双方の合意が得られず時間が経過すると、当初定めた締切りに影響が出る恐れが出てきます。このままでは契約不履行となり一方的にゼネコンが被害を受ける事になりますから、オーナーの理不尽な要求に対抗すべく、ゼネコンは非常手段として、契約の想定条件が変化した事を宣言し、オーナーに建物が仮に完成したとしても引き渡さないという戦略をとることができます。 余談ですが、最近都内ではあらかたビルが完成されているにもかかわらず、足場が取り付いたままいつまでも放置されているビルを見かけますが、あれはサブプライムの影響等で発注者が倒産して、仕方なく工事代金に代わる債権としてゼネコンが保管しているという構図によるものなのです。
■研究者の立場で今回の仕分け問題に生かせることとは 今回の仕分け問題では、政府から研究者の価値は明確に否定されました。 理不尽なものですが、選挙権を持つ人たちの多くが指示した政府の決定によるものですから、 覆せるような手段はあまりないでしょう。
合法的なアプローチとしては、前述のケースにあてはめて考えると良いでしょう。 オーナー(政府)から、理不尽な査定(仕分け)を受けた場合、ゼネコン(研究者であるあなた)が取りうる一番の強硬な措置は成果物(研究者としての能力・成果)をオーナー(政府)に引き渡さないという事です。
とはいっても企業であるゼネコンと違いあなたにはそんなに余力はないはずです。あなたは研究ができなくなればあっという間に干上がってしまいますから、あなたができるささやかな抵抗といえば海外の研究機関に籍を移し、研究者としての能力・成果をいかんなく発揮するとともに、あなたの能力と研究成果を、あなたの立場を不利なものへと導くであろう政府の成果に結びつかないようにする、というのが最適解と思われます。
これは、2つの点で有利です。
・ストライキなどを起こしても、世論を味方につけることはできないという事。 ・本来のポテンシャルを開花する事に専念し、研究者としてのあなたをより環境のいい場所における事
私は日本の事は好きですので、安易に外国がいいとも思いませんし、日本人が外国人と同化する日が来るなどと希望的観測をいだくこともありません。 しかし、自分の生計として志したものを否定するような相手とは断固戦わなければいけませんが、どのみちジリ貧になるくらいなら借金してでも親の資産を売っても、研究室の機器を売却するなり(冗談です、ホントにやるなよ?)、して海外へ活路を見出してはいかがでしょうか?どのみち、こういった研究者のようなマイノリティに相当する問題は、票に結びつかないので救済対象とはならないでしょう。 政権が交代するとしても8〜10年程度はかかりますので、その間しんどい思いをしながら日本にかじりついて抵抗勢力とみなされるより、外国で成果を上げて民主党にその成果を攫われないよう生きるのもまた良い気がします。コレは研究者としてのあなたのキャリアを磨く期間としても十分な期間ではないでしょうか?
足の引っ張り合いを始めてしまうと図体のでかい分政府が有利ですので、ブログや書面などで明確に意思表示をした上で、いつか来る新政権のブレーンとなる為に海外で力を蓄えておいてください。お互い頑張りましょう。
テーマ:研究者の生活 - ジャンル:学問・文化・芸術
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