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鳩山政権の「看板」である行政刷新会議による「事業仕分け」の対象事業・組織が9日、公表された。国の事業の必要性を公開の場で議論する初めての試み。概算要求額が過去最大の95兆円に上る来年度予算の編成に向け、自民党政権時代は聖域だった「政治銘柄」も俎上(そじょう)に載せ、ムダ根絶を目指す。一方、仕分け対象の事業を所管する各省庁は警戒感を強めており、どこまで切り込めるかが問われる。
「事業仕分けが予算編成を国民によく見えるものとし、筋肉質の歳出構造の実現につながるよう、尽力願います」。仙谷由人行政刷新担当相が、対象事業を決めた9日の行政刷新会議でムダの徹底排除を呼びかけた。
焦点になるのは、地方交付税交付金や診療報酬、義務教育の国庫負担、在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)など、見直しに政治的な配慮が必要とされる案件だ。地方交付税は09年度当初予算で16兆円超、診療報酬が反映される医療費の国庫負担は約9兆円。財務省内からも「これらの大玉の政治銘柄に踏み込まなければ、兆円規模の大幅な予算削減は見込めない」との声が上がっていた。
ただ政治銘柄は、地方との財源配分や医療のあり方、日米関係など、いずれも複雑な背景を抱え、短期間で削減するのは極めて難しい。行政刷新会議の加藤秀樹事務局長は9日の会見で「政治的配慮が必要なものは、金額の議論ではなく、制度の意義を議論する」と語った。事業仕分けでは、制度のあり方について示すにとどめ、実際の予算の削減額などは、与党や官邸、財務省などによる政治決断にゆだねる意向だ。
地方交付税は、総務省が概算要求とは別枠で予算化を検討する「事項要求」で1・1兆円の増額を求めている。診療報酬についても厚生労働省が事項要求に増額を盛り込んだ。これらの要求を認めれば、来年度予算は更に膨らむことになる。「仕分けの対象にすることで歯止めをかける」(財務省幹部)狙いもあるとみられる。
しかし、原口一博総務相は地方交付税が対象になったことについて「地方独自の財源に手を出してはならない」とけん制。鳩山由紀夫首相も、思いやり予算の見直しについて「簡単な話じゃないと思う。日米関係に影響がないように配慮する必要がある」と語るなど、仕分けの結果が政治判断に反映される保証はない。【平地修】
「所管する事業がほとんど入った」。48事業が仕分け対象になり、国土交通省に驚きが走った。「道路整備事業」「河川改修事業」「官庁営繕費」など大ぐくりにした主要事業名が並び、住宅金融支援機構など規模の大きい独立行政法人も挙がった。同省は10年度予算の概算要求で公共事業を前年度比で14%削減し、「内閣の指示を最も忠実に実行した」(馬淵澄夫副国交相)という自負があるだけに、「これ以上の削減は難しい」(幹部)と抵抗の構えだ。
厚生労働省は対象になった事業の必要性を短時間で説明するため、公開での仕分け作業には、各担当の「エース」を送り込む方針。同省幹部の一人は「もともと、財務省が切りたがっていた事業ばかり。会議を隠れみのにして、自分たちが悪者になりたくないのだろう」と話す。
文部科学省では、教職員給与の3分の1を国が負担する義務教育費国庫負担金も仕分け対象となった。同省は、10年度予算の概算要求に教職員定数の5500人増(126億円)を含む1兆6380億円を計上。ある幹部は「定数増、給与体系ともに議論対象となるだろう」と見通した上で、「財務省と密室でやり取りするより、公開で議論した方がいい。教員の必要性は分かってもらえるはずだ」と、逆に予算確保の場にしたい考えだ。
一方、仕分けは、独立行政法人向けの支出や特別会計も重点的に見直す。民主党は官僚OBが天下りする独法を「無駄の温床」として批判してきた。特会も「使う当てのない埋蔵金が埋まっている」とみてきた。そのため「柔道整復師」など自民党政権と良好な関係を保ってきた業界への負担金、財団法人の基金や独法への補助金の削減要求は「新政権は必ず実現してくるだろう」(厚労省幹部)と一部事業に対しては、各省からあきらめの声も漏れる。【位川一郎、佐藤丈一、加藤隆寛、石川貴教】
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【仕分け対象になった主な事業】
▽政策評価・行政評価の監視(総務省)
▽地方交付税交付金(同)
▽公務員宿舎建設経費(財務省)
▽整備新幹線建設事業費補助(国土交通省)
▽診療報酬の配分(厚生労働省)
▽薬価の見直し(同)
▽雇用・能力開発機構運営費交付金(同)
▽電源立地地域対策交付金(経済産業省)
▽国際協力機構運営費交付金(外務省)
▽義務教育費国庫負担金(文部科学省)
▽国立青少年教育振興機構(同)
▽駐留軍等労働者の給与水準<思いやり予算の一部>(防衛省)
毎日新聞 2009年11月10日 東京朝刊