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きょうの社説 2009年11月13日
◎繊維と医療の融合 北陸産地の得意分野にしたい
北陸三県の繊維企業が相次いで進出している医療分野は、業界にとって将来性が見込め
る有望市場である。繊維リソースいしかわ(金沢市)と金沢医科大の連携で共同開発された「血流改善ストッキング」が象徴するように、北陸に集積する大学や医療、研究機関との協力次第では、ビジネスチャンスがさらに広がる可能性がある。繊維産業は非衣料分野の開拓なくして成長は難しく、他の産業に広がりを求めていくの は必然の流れである。生活用品から土木建設、農林水産業、航空、自動車など幅広い産業に用途が広がるなかで、とりわけ医療では、高齢化の進展や健康志向の高まりを背景に繊維の技術が生かせる分野も広がっていくのではないか。北陸が蓄積してきた技術と医療の融合をこの地域の得意分野にできれば、産地復権の糸口にもなろう。 北陸の繊維企業が手掛けるのは、張り薬やテーピングに使われる布、手術着、病院用シ ーツ、サプリメント、消臭下着などで、企業全体の業績が伸び悩むなかでも医療・介護分野は堅調に推移し、工場内に医療用資材の加工エリアを設けるなど設備投資に踏み出す積極的な動きもみられる。 北陸に生産拠点を持つメーカーは厚生労働省が定める「医療機器クラスT」承認のタイ ツなどを開発し、素材の機能性を追求している。体の動きや姿勢をサポートする商品の開発はスポーツ分野だけでなく、日常生活や介護の現場でも役立つに違いない。 繊維リソースいしかわと金沢医科大が結んだ包括協定に基づき、繊維メーカーがつくっ た「血流改善ストッキング」は足のむくみや下肢静脈瘤の予防に効果があることが実証された。現場のニーズを的確につかめば、商品開発のアイデアはまだまだ出てくるだろう。 北陸では文部科学省の「ほくりく健康創造クラスター」事業も動き出している。産学官 が一丸となって診断機器や診断システムをはじめ、幅広い健康関連産業を創出する狙いだが、北陸の繊維技術が医療や介護の現場を支える場面が増えれば「健康創造」拠点としての厚みも一段と増すことになる。
◎「事業仕分け」 気になる「中央の目線」
政府の行政刷新会議による「事業仕分け」で気になるのは、「中央の目線」が鼻につく
ことだ。特に農林水産関係で事業廃止や削減が相次いだが、農道や里山整備、かんがい排水事業などの予算削減は、農漁村の衰退に追い打ちをかける懸念がある。石川県や富山県にとっては辛い話である。無駄をなくす努力は大いにすべきだが、中央の理屈で一方的に地方を切り捨てるようなことだけは避けてほしい。下水道事業やまちづくり関連5事業など、地方移管が固まった事業は、自治体の自由度 が増す期待はあるものの、財源と権限の在り方を今後どうしていくかなど、肝心の制度設計の枠組みが見えない。ゆえに喜んでいいのか、頭を抱えるべきなのか、今の段階では皆目見当がつかないのである。 事業仕分けをおぜん立てした財務省は、地方移管に伴って、総予算を削ろうとするだろ う。地方のために事業移管するというより、総予算の圧縮が目的化するようでは困る。財源と権限の問題がきちんと整理され、確実に税源移譲される保証が得られぬ限り、地方移管を安易に支持するわけにはいかない。事業仕分けの決定プロセスに地方が関与していく仕組みがぜひとも必要だ。 事業仕分けのリストには、義務教育費国庫負担金や地方交付税も含まれている。三位一 体改革で、公立小中学校などの教職員給与は、地方負担が「3分の1」から「3分の2」へと増えたにもかかわらず、地方交付税は縮減された。同じことが再び起きるとは思わないが、民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた「地域主権」の真贋(しんがん)が問われるのは間違いない。 石川県、富山県ともに来年度予算は、景気悪化による税収減で、かなりの財源不足が生 じる。事業仕分けで、さらに不透明さが増し、編成作業もままならない。そのうえに交付税や補助金などの大幅削減が追い打ちをかけるなら、たちまち予算が組めなくなる。 劇場型のど派手な「政治ショー」で「無駄」を削るのは結構なことだが、そのツケを地 方に回すようなまねだけは勘弁願いたい。
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