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元日本兵「中国・撫順戦犯管理所」収容体験を証言

芹沢昇雄2009/11/11

元日本兵「中国・撫順戦犯管理所」収容体験を証言 | 証言する「小山一郎さん」(撮影すべて筆者)
証言する「小山一郎さん」(撮影すべて筆者)
 11月7日(土)東京・新宿区立消費者センターで、「撫順の奇蹟を受け継ぐ会」東京支部の主催で、元日本兵による証言集会『撫順戦犯管理所の6年間』が開かれ50人が参加した。

 最初に45分の記録映像を視た後、休憩を挟んで証言に入り「元中国帰還者連絡会(中帰連)」会員で都内在住の小山一郎さんと、千葉県在住の坂倉清さんが証言に立った。お二人とも89歳で、第59師団43大隊で、小山さんは本部情報、坂倉さんは兵砲中隊に所属し二人とも階級は軍曹であった。

 同東京支部では今まで「元中帰連」の皆さんの戦争や加害体験、シベリア抑留体験等の聴き取りを進めてきたが、今回はその後、1950年に約1000人が抑留先のシベリアから、中国「撫順戦犯管理所」に引き渡された(収容)当時の事を証言した。

 収容当初は「なぜ俺たちが戦犯!、命令に従っただけ!」と反抗していた。そして暖房の効いた部屋で中国人以上の食事待遇等などを受け、自分たちの過去を振り返り「これで処刑か」と覚悟さえしていた。しかし、何時になってもその待遇は変わらず、過去を振り返り体験を書くように勧められたものの決して強制はなかった。

 そして、54年になって自分たちの過去を振り返る人たちが出始め、宮崎弘(中尉)が管理所の中庭に全員を集めた前で、師団長命令で抗日分子7名を殺し、また、中国人家屋への放火、略奪、殺人等を部下に命じ自らも行ったと告白、「極刑に価する」と絶叫しひれ伏し涙しながら謝罪した。

元日本兵「中国・撫順戦犯管理所」収容体験を証言 | 証言する「坂倉清さん」
証言する「坂倉清さん」
 宮崎の告白を聴き全員が涙し、坂倉さんも自分の今までの軽い反省から、改めて罪の深さを自覚した。そして、戦場で既に息絶えている母親の乳をまさぐりながら、坂倉さんの顔を見て「ニコッ」と笑った赤ちゃんの顔を今も忘れない。その後、部屋に戻った後は暫く誰も口をきかなかった。

 また、坂倉さんは憲兵だった土屋良雄さんと三尾豊さんと同室で、宮崎の告白を聴いた後、二人が余りにも意気消沈しているので、心配して声を掛けると「俺たちはみんなと違うんだ」と応え、「731に丸太を送った」と告白した。しかし、後日この2人も認罪し「起訴免除」で帰国を赦された。

 また、収容中に自らの良心と処刑の恐ろしさからか2人が自殺した事も証言した。一人は便所のクレゾールを飲んで、もう一人は大きな溜の便槽に身を投げ、管理所職員が便槽に飛び込み口を合わせ糞尿を吸っては吐きを繰り返して救出しようとしたが、命を救うことが出来なかった。

 そして、偽満州国国務院総務長官の武部六藏は禁固20年の判決を病室で受け、「但し、病につき即時釈放」と伝えられ号泣し、彼は担架のまま興安丸に乗せられ帰国したのである。

 小山さんは戦後カッパブックスから出版した『三光』が、たった一枚の写真の間違いを右翼から攻撃され、絶版になった悔しさも話した。(その後、別会社から出版)

 そして、管理所での告白は一時、加害を過大に書けば有利という安易な考えの人もいたが、管理所は事実の過大も矮小化も認めなかった。また、思い出すので「ヒントを」と言っても(中国側は全て調査済み)「自分で考えなさい」と教えず、他人の密告も認めず「自己の事実」のみを書くように指導した。
 
 この頃になると部屋の鍵も無くなり、文化、体育、創作、生活、学習の各部が自主的に創られ、運動会や学芸会、読書や絵画、麻雀、将棋などを楽しみ、食事も生活部が作るようになった。

 結果として56年の戦犯軍事法廷では無期も死刑も無く、政府・軍高官の45名を除き「起訴免除」となり56年の6、7、8月の3回に分け帰国、二人も同年7月18日に興安丸で舞鶴港に着岸した。
 また、有罪判決を受けた45人もシベリア抑留と撫順戦犯管理所の収容期間を刑期に参入され、その5年後には全員が帰国を赦された。

 しかし、帰国後もマスコミを含め彼らは「洗脳者」扱いをされ、また、公安警察にも監視され、多くの人が就職が出来ず自営業の人が少なくなく小山さんもその一人だった。
 また、撫順戦犯管理所に収容された1000人余りの関係者で、70万人の中国人を殺していると指摘されたという。

元日本兵「中国・撫順戦犯管理所」収容体験を証言 | 「証言」を聴く会場の皆さん
「証言」を聴く会場の皆さん
 この「撫順戦犯管理所」の体験は、昨年08年11月30日にNHK・BS放送で『認罪〜撫順戦犯管理所の6年』(1時間50分)と題したドキュメンタリーが放送され、その中で小山さんと坂倉さんも証言している。
 また川越の「NPO・中帰連平和記念館」でもこの番組に資料提供し、08年度のTV部門で「ギャラクシー大賞」を受賞している。

 尚、この元日本兵の反省・謝罪の原点である撫順戦犯管理所は、来春「完全復元工事」が完成しリニューアルされ再オープンする。
 近くには関東軍が3000人余りの中国市民を虐殺して埋めた遺体を掘り起こし保存している「平頂山惨安記念館」も在る。

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[53971] 北川洋一様へ「感謝!」
名前:芹沢昇雄
日時:2009/11/12 09:13
記者の芹沢です。


私こそ、再度のご返事有難う御座います。
戦争体験者は次々と亡くなりもう時間が無く、私たちもこの様な「証言」を録画記録し保存しております。


戦争体験者亡き後の事を考え、私たちはその資料の紛失や散逸を防ぐために06年11月、埼玉の川越にNPOの『中帰連平和記念館』を設立し、戦争関連の図書や映像、写真などを保存し、平和を願う学者、学生、市民などにご利用頂いております。


昨年11月NHK・BSハイビジョン特集で放送され、TV部門の「ギャラクシー大賞」を受賞した、『認罪〜撫順戦犯管理所の6年』にも資料提供致しました。


今月15日(日)に都内大田区産業プラザで開かれる『9条フェスタ』にも参加し、証言集会を開きます。
ゲストは旧東京帝大を出て文部省に入省したものの、恩師の著作検閲を命じられ「尊敬する恩師を売れない」と退官し、地方の女学校の教師になった絵鳩毅さん(96歳)です。


そんな、絵鳩さんでさその後、軍隊に入り中国で反省しなくてはならない体験をしました。
下記、ご参考です。


◆「中帰連」
http://www.ne.jp/asahi/tyuukiren/web-site/


◆「9条フェスタ」」
http://9jyoufesta.sakura.ne.jp/festa2009/
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[53956] 芹沢昇雄にお礼申し上げます
名前:北川洋一
日時:2009/11/12 00:18
芹沢昇雄様 ありがとうございました。私は証言してくださった元兵士の方々を、いつも誇りに思っています。彼らの潔(いさぎよ)さというか、白刃の下に立っても真実を曲げない姿勢に真の日本男児の心意気を観ます。今日、技術の進歩によって多くの記録や証言・映像を劣化無しで保存し、未来永劫伝えることが可能になりました。戦地に赴かれた元兵士の方々の記憶と証言を確実に残し伝えてゆくことは、子孫である私達の使命だと思っています。歴史事実を受け止め後世に伝える責任を強く感じています。元兵士の方々は皆ご高齢になられましたが、今後とも歴史を語り継ぐ活動に励んで欲しいと願っています。
[返信する]
[53941] 北川洋一 様へ
名前:芹沢昇雄
日時:2009/11/11 22:08
記者の芹沢です。
重い「コメント」有難う御座います。


皆さんは証言はしても家族には話せない、話していない、と言う方が少なくありません。
到底、女房子どもには言えないとお思います。
今でこそご理解してる奥様やご家族も居ますが、そんな奥様も当初は取材などが来ると奥様は聴きたくなくて外出していました。しかし、外での証言でも耳に入り、ご家族皆様のご理解が無くて話せないことだと思います。ご本人の辛い勇気もですが、私は黙認やご理解下さるご家族の皆様に感謝しております。「子どもも孫もいる」と言われる人も少なくありません。


「被害は語っても加害は話さない」とのご指摘確かにそうです。今は亡き元憲兵だった土屋良雄さん(山形)もそう言っておりました。ご承知かと思いますが、土屋さんは中国に自分の被害者を訪ね土下座して謝罪して来ました。


日本の被害は自国が初めた侵略戦争の結果で、自国政府の責任です。しかし、日本人犠牲者310万人に対し、アジアで2000万人と言われる犠牲者には何の責任もありません。加害こそ忘れてはならず、周恩来は「前事不忘 後事乃師」と赦してくれたのです。
ご承知の通りワイツゼッカーも「過去に目を閉ざすものは、現在にも盲目となる」とまったく同じ事を言っています。
負の体験は無かったことにはできず、後の社会に教訓として生かすしかなく、否、生かさなくてはならないのです。


ご指摘の通り「金や物質主義」は間違っており、既に今回の世界不況はそれが行き詰まったことを意味していると思います。必要に応じてではなく、必要なくても、無駄でも、食べられ弁当を捨てさせても、350メートル回った回転寿司を廃棄しても、生産して消費しないとこの経済は回らないのです。


その最大の消費効率が「戦争」であり、これは何も再生産せず「完全諸費」です。その朝鮮特需で戦後の日本も立ち直ったと言われます。しかし、地球の資源もエネルギーも無限でも先進国だけのものではないことは、言うまでもありません。


戦争は天災では亡く、人間が起こすのです。
張作霖の爆殺も、ベトナム戦争のトンキン湾事件も、そして、イラク戦争もデッチアゲの「嘘」から始まりました。作られた脅威とデッカゲから戦争は始まっています。


イラクやアフガンの「治安回復」と言いますが、その治安を悪化させたのは誰でしょうか。自国領土で戦争経験の無い米国は「9・11」でパニックを起こしましたが、その何千、何万倍もの人を世界中で殺している事でしょうか。


これからも少しでも北川様の思いを理解し努力を続けたいと思います。
此方こそ真摯な重いコメントを有難う御座いました。
寒さに向かい、呉々も御身ご自愛下さいますよう。
有難う御座いました!


下記は今までの関連の記事です。


◆「『日本鬼子』の無料上映会開催」
http://www.news.janjan.jp/culture/0405/0405174419/1.php
◆「『教えられなかった戦争・中国編』・埼玉で初上映」
http://www.news.janjan.jp/living/0510/0510254269/1.php
◆「所沢で、平和のための映画上映と証言集会」
http://www.news.janjan.jp/culture/0602/0601318487/1.php
◆「92歳、元日本兵が戦中・戦後の体験を証言」
http://www.news.janjan.jp/living/0609/0609121068/1.php
◆「戦犯に託された『朝顔の種』」
http://www.news.janjan.jp/area/0612/0612247003/1.php
◆「『香港ケーブルTV』が、元兵士の証言聴取りに来日」
http://www.news.janjan.jp/world/0703/0703232287/1.php
◆「恥ずかしい国 日本 元兵士証言〜安倍首相訪米を前に」
http://www.news.janjan.jp/government/0704/0704264481/1.php
◆「母子惨殺 生々しい日中戦争の証言」
http://www.news.janjan.jp/world/0705/0705155539/1.php
◆「『捕虜になったら自決せよ』〜元『731部隊』隊員が講演」
http://www.news.janjan.jp/area/0706/0706056762/1.php
◆「季刊『中帰連』創刊10周年、『読者の集い』開催」
http://www.news.janjan.jp/culture/0707/0707290070/1.php
◆「映画『ガイサンシーとその姉妹たち』大宮で自主上映会」
http://www.news.janjan.jp/culture/0708/0708140793/1.php
◆「『9条フェスタ』で元日本兵が証言」
http://www.news.janjan.jp/culture/0710/0710053477/1.php
◆「小田原のお寺で、元日本軍兵士が証言」
http://www.news.janjan.jp/living/0710/0710113784/1.php
◆「埼玉『おがわ町九条の会』で、元兵士の証言を聴く学習会」
http://www.news.janjan.jp/area/0710/0710294780/1.php
◆「埼玉・浦和で『南京事件70年集会』開催」
http://www.news.janjan.jp/government/0712/0712267930/1.php
◆「横浜で『強制連行』の証言集会」
http://www.news.janjan.jp/area/0801/0801169018/1.php
◆「『O(オー)美術館』で『八路軍従軍カメラマン・沙飛』の写真展」
http://www.news.janjan.jp/culture/0804/0804134808/1.php
◆「東大・弥生講堂で『平頂山事件』シンポジウム開催」
http://www.news.janjan.jp/world/0809/0809147191/1.php
◆「立命館大などで『国際平和博物館会議』開催」
http://www.news.janjan.jp/culture/0810/0810109142/1.php
◆「『9条フェスタ』の『受け継ぐ会』で聞いた旧日本軍兵士の戦場体験」
http://www.news.janjan.jp/living/0810/0810219910/1.php
◆「元日本軍兵士『戦争体験』を証言」
http://www.news.janjan.jp/living/0812/0812083086/1.php
◆「横浜で元・日本軍兵士が中国での体験を証言」
http://www.news.janjan.jp/living/0903/0903189669/1.php
◆元日本軍兵士、横浜で戦争体験を証言
http://www.news.janjan.jp/living/0906/0906014374/1.php
◆元日本軍兵士、横浜で戦争体験を証言
http://www.news.janjan.jp/living/0906/0906014374/1.php
◆戦場の記憶を語り継ぐ『盧溝橋7・7記念集会』開く
http://www.news.janjan.jp/living/0907/0907277826/1.php
◆埼玉戦争展で、元日本軍兵士が「戦後の戦争」を証言
http://www.news.janjan.jp/area/0908/0908018082/1.php
◆元日本兵「中国・撫順戦犯管理所」収容体験を証言
http://www.news.janjan.jp/living/0911/0911082877/1.php




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[53935] 重い遺志
名前:北川洋一
日時:2009/11/11 20:33
兵士たちの告白 〜撫順・太原戦犯管理所1,062人の手記〜

〓41分03秒〜

「これはもう、いまだに書けないです。家族に・・。(自分の)子供たちが「こんなことをやったのか」ということを知ったらね・・・どんなに嘆き悲しむかと思うと書けないです。それくらい中国の人たちを苦しめた。私のために苦しんだ。

今の日本人は、B29によって殺られたこと、それから原爆によって殺られたこと。自分たちが殺られたlことについては、いろいろ記録を残して、これを語りつたえてゆかなければならんと一生懸命やってますよね。

ところが、私たちが中国人、あるいは朝鮮人、ベトナム人、フィリピンにインドネシアのあちらのほうに・・。 中国人に何をやったかということについては、口を瞑って誰も語らない。

そのような状態で、次の時代を背負う人々が出来たときにおいて、これは大変なことになる。いつかはこの罪を清算しなくちゃならんときが来る。そのときに大部分の人が分からない状態。そんなときになったら、本当にこれは大変なことだと・・

何が真実かということを、本当に見分けることが出来る人になって頂きたいなと、これを思います。

そして、物質主義じゃなくて、カネとかそういう物質主義じゃなくて、本当に人々を心から愛することが出来る人々になってもらいたいと。

そうすれば戦争は起こってこない。宗教問題も解決する。民族問題も解決するし、制度の問題も解決してくるんじゃないかと、私たちが争いを起こさなくても済むんじゃないかと、そう思います。

これを本当に是非、私もこういう状態になりましたので、言い残したいことはそれだけ。こういう機会を与えていただきまして、皆さん方に本当に心から感謝いたします。ありがとうございます・・」

〓(引用終了)

もうすでに亡くなられたと思いますが、このお爺さんの語られた言葉、特に

「そのような状態で、次の時代を背負う人々が出来たときにおいて、これは大変なことになる。いつかはこの罪を清算しなくちゃならんときが来る。そのときに大部分の人が分からない状態。そんなときになったら、本当にこれは大変なことだと・・」

という部分を重く受け止めたいです。私達の世代は、加害者としての戦争を忘れることのみに専念している気がします。それは、日本の未来にとって必ず大きな不幸となる気がするからです。かの戦争は、被害者であったと同時に大きな加害者でもあった。そのことを未来永劫受け継いでゆくのが、亡くなられた日本兵の方々の遺志であることを私達子孫は心に刻んで。
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11月2日〜11月7日 

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