2009年09月17日 (木)時論公論 「鳩山新政権の経済運営」

(藤井キャスター)
鳩山政権が、昨日発足しました。
経済運営の課題について、山田伸二解説委員です。

(山田解説委員)
鳩山政権は、バブル崩壊後の長い閉塞状況から生まれただけに、経済政策でも、
これまでにない新機軸が打ち出されています。
意欲的な挑戦で、新たな地平線を切り開く事が出来るのか、あるいは、空回りに終わってじり貧になるのか、今晩は、子ども手当を中心に新政権の経済運営の課題を考えます。

 

(人に優しい政治)
鳩山政権が目指すものを一言で言うと、「企業より庶民に優しい政治」でしょうか。
子ども手当など、家計や庶民に、目配りした政策です。
小泉さんが進めた「痛みを伴う改革」の結果、社会に様々な歪みを生じた為、何よりも、この傷を癒すという狙いがあるのでしょう。


(直接配分へ)
これを具体化するのが、新しい経済政策であり、予算を配分する仕組みです。
これまで、政府は、経済界や農協と言った業界の団体等を通して民意を集約し、公共事業とか、福祉の予算を決めました。
政治家は様々な団体の意向を汲んで政府に働きかけ、この配分に、大きな役割を果たしました。
これに対し、民主党の考え方は、利益を、政府から国民に直接配分しようと言う物です。

j090917_01.jpg子ども手当、高校の無料化、ガソリン税の引き下げなど、家計に現金を支給したり、負担を軽くします。
こうして、予算の配分を、企業等から、個人に厚くします。
これにより、政治家は、業界等の代弁者という性格を薄める事になるでしょう。

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(金
属疲労の反省)
何故こうなったかです。
かつては効果を発揮した仕組みも、長い間のうちに金属疲労を生じ、政治家と官僚、利益団体の間で癒着が生じました。
また、経済が低迷する中、配分は先細るだけでした。
特に、企業は公共事業や減税の恩恵で空前の利益を上げながら、働いている人の給料をちっとも増やさず、その不満が爆発した形です。
これに対し、民主党は、経済の主役を国民だと位置づけ、庶民に購買力を付けて消費を伸ばし、これを経済の牽引力にして、内需依存の経済に変えようと言うわけです。


j090917_11.jpg(経済効果は)
それでは、これで、本当に効果を見込むことで出来るのでしょうか。
例えば、子ども手当ですが、5兆3000億円の支出を見込んでいます。
これは、今の予算で見ると、防衛関係費を凌ぎ、文教科学費に匹敵する規模です。
GDPの1%にも当たり、これが貯蓄に回らず全部使われるならば、効果は上がります。

j090917_12.jpg問題はこの財源で、単に予算の組み替えならば、
見直される事業の支出が減りますから、プラスマイナス・ゼロに過ぎません。
もし、本当に無駄な予算を削ることが出来るなら、この分がプラスに働きますから、予算作りで、民主党のお手並みを拝見と言うところです。


(制度改革で安心感)
子ども
手当が効果を上げるには、将来の生活に安心感を与えることが、不可欠です。
国民は将来の不安を抱えているので、消費を手控えると言います。

j090917_13.jpgこちらをご覧下さい。
貯金で、人々がどれ位の金額を目標に置いているかです。
80年代の前半は、ほぼ1600万円でしたが、後半に2400万円に上がり、そして、2001年から2000万円に下がります。
80年代後半に上がった理由は、プラザ合意の後円高不況となり、経済の仕組みが変わった事に対する不安が広がったためでしょう。

j090917_14.jpgそれでは、景気は悪化したにもかかわらず、なぜ2001年から下がったかです。
前の年、介護保険の制度が導入され、老後の不安が幾分とも和らいだからでしょう。
そして、今の経済危機で、庶民は不安を募らせています。



(踏み込めるか社会福祉)
一方
、子ども手当の財源として、配偶者控除の廃止が打ち出され、子どものいない夫婦は増税になります。
妻は家庭を守るものという時代に出来た制度を改めるのは良いと思いますが、増税は増税です。
増税への理解を得るため、女性が働きやすい環境作りを進める必要があるでしょう。
子ども手当は切っ掛けに過ぎず、少子化対策は、総合的に進めることが重要です。
民間の調査機関は、民主党の政策が全て実施された場合、来年度はGDPを押し上げる効果は期待できるものの、その後は効果がはげ落ちるという見方が大半です。
効果を持続させるためには、社会保障の改革を進める事が不可欠です。

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見えないビジョン)
社会福祉を改革する上で、判らないのが財源問題です。
民主党は手厚いサービスを強調しており、その意味では高福祉を目指しています。

j090917_15.jpgこれに対して、財源は無駄遣いを止めさせると言うだけで、これでは「絵に描いた餅」に終わるのではないかという、不信感が拭えません。
年金についても、消費税を財源に、最低保障で月7万円支給すると約束しています。
ところが、今の消費税ではカバーできないのに、「消費税の議論は4年間しない」と言っていますから、これでは、本当に実現するか、おぼつかない限りです。
j090917_16.jpg「高福祉・高負担」のモデルとして、北欧諸国があります。
財務省などは高い
負担では活力を削ぐことになると批判してきましたが、1人当たりのGDPを比べても北欧諸国は日本より遙かに高く、こうした批判は的外れでした。
高福祉を目指すなら高負担は避けて通れないでしょう。

民主党は政権を担った以上、問題に正面から取り組み、国民の理解を得る努力をするべきではないでしょうか。


(成長戦略)
る時間で、鳩山新政権の課題として、成長戦略と外国との関係に触れて置きます。
民主党の経済運営で、一番判らないのがマクロの政策、如何に成長するかの戦略です。

冒頭、民主党は「人に優しい政治」を目指している様だと申し上げましたが、国民に優しくするためには、何よりも政府は強くないと、人の命や財産を守る事は出来ません。
民主党の政策は、「稼ぐ事より使う事や配る事に力が入っている」と、論評した人がいましたが、私も同じ感想です。
経済が低迷したままではじり貧になりかねません。
民主党は大胆な環境政策を打ち出しており、逆境をテコに競争力を付けた石油ショックに倣って、環境で産業を活性化させるのも良いし、介護・医療など可能性のある分野は少なくありません。
未来に明るい展望を持てるような、経済・産業振興のビジョンを示す必要があります。


(開かれた経済を)
最後に、外国との関係です。
今回の政権交代で、欧米のマスコミから、日本は「市場」経済から、「お上」が主導する経済に戻るのではないかという、不信感が突きつけられました。
日本市場の閉鎖的な体質を嫌って外国からの投資が先細りになると、日本経済の活力を削がれるだけに、こうした不信、あるいは誤解を取り除く努力が欠かせません。
外国為替市場では、このところジリジリ円高・ドル安に動いています。
市場関係者の間には、鳩山政権が内需依存を打ち出しているので、円高を容認するのではないかという思惑が働いているようです。
もし、大きく円高に触れる様なことになった時、政府は市場に介入するのでしょうか。

新政権は、とかく閉鎖的・内向きと見られているだけに、経済運営の姿勢が問われる試金石になるでしょう。


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(政策
の選択)
さて、新政権は発足しましたが、政権という運転免許書を手にしたばかりです。
運転手が代わって、本当に日本という車をうまく運転できるのかどうか、いつまた景気が悪化するか判らない厳しい状況だけに、乗り手の私達も少々心配です。

来年度の予算編成も時間は限られているので、公約の具体化は容易ではありません。
欲張っても無理ですから、膨大な公約のうち、国民の間に賛否評価が分かれる高速道路の無料化などは、思い切って、見送るなり先送りする勇気を持って欲しいと思います。
そして、重要な政策で一刻も早く具体的な成果を示して、安心感を与えて貰いたいものです。
歴史の大きな節目の選挙と言われた、先の総選挙ですが、民主党には国民から寄せられた、絶大なる期待に応える、重い重い責任があります。

 

投稿者:山田 伸二 | 投稿時間:23:55

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