空疎だったオバマの訪日前インタビュー - 日米関係にCHANGEなし
訪日前のオバマ大統領のインタビューが、昨夜（11/10）、NHKの報道番組で放送された。クローズアップ現代、９時のニュース、ＢＳの「きょうの世界」と三度見たが、日本国民に向けての意味のあるメッセージの発信はなかった。印象として、歯切れの悪い英語を話している。別の言い方をすれば、言葉を慎重に選び、事前に国務省が用意したアウトラインを念頭に置き、安全運転に徹して、無難な言葉で質問に対する回答を埋める「政治家仕事」を必死で演じていた。意味が際立つdistinguishな表現をしないように、マイルドで淡泊な発言録が残るように努めている様子が看て取れた。本来、オバマはこういう役割演技が苦手である。変革を大衆に訴えるアジテーションこそが得意な男なのだ。「言葉を慎重に選ぶ」というのは、それこそが日本国民に対するメッセージなのだから、それを態度で見せなくてはいけない。その意味では巧く演技して態度で示していた。だが、われわれは、オバマについては劇的で感動的な演説のパフォーマンスのイメージが焼きついているので、言葉を慎重に選ぶ無内容な発言の羅列というのは、この男に関しては不格好で不似合いに見える。アグレッシブなスピーチを聴衆に叩きつけるオバマとは別人のようで、内心、オバマ本人もストレスだったに違いない。米国の対日外交の所在がよくわかる。何もないのだ。新しい関係構築の発想や意欲がないのである。日本について考えるのが面倒なのだ。
アフガン戦線の不調と医療保険改革の躓きで支持率が下がり、２州の知事選で敗北したオバマ政権にとって、今回の東アジア外交は絶対に失点を許されない政治の機会であり、支持率に好影響を与える結果で終わらせる必要がある。米国政府が予定しているオバマ訪日の政治の「成果」とは、すなわちオブジェクティブは、世界の最高指導者の訪問に日本国民が感涙して随喜するショーを米国民にテレビで見せることである。核廃絶を唱える米国の偉大な指導者に歓喜の声を上げ、国中を上げてノーベル平和賞受賞の現職大統領を祝賀し歓迎する日本国民のフィーバーぶりを映像にすることである。日本のバカな国民とマスコミが、蜂の巣をつついたようにオバマ訪日に沸き立ち、CHANGEだのYes We Canだのと興奮して叫び回る騒動を撮ることである。３年前に小泉純一郎がブッシュの前でやったように、皇帝陛下の前で無邪気な臣民どもが奇矯にハシャぎ、皇帝陛下の崇高なお言葉に帰依して恍惚となる姿を配信することである。それが米国政府による「オバマ訪日」の政治だ。日本国民がどれほど米国を尊敬しオバマを崇拝しているか、属国の地位に満足して米国を支持しているか、それを米国民にプルーブすること。そして、日本政府が米国のアフガン作戦に嬉々として大金を差し出す様子を米国民に示して安堵させること。それらの情報でオバマ政権の支持率低下を食い止めること。それが米国政府の目的であり、貴重な１泊２日の日程である。
だから、それ以外の不興な雑音や不具合な映像を皇帝陛下の１泊２日の間に入れてはいけない。日本の新政権が、日米同盟の見直しを提起するとか、沖縄の米軍基地の縮小を提案するとか、日米地位協定の改定を言い出すとか、そんな不穏当で生意気なハプニングの発生は論外であり、属国総督府の卑しい現地下僚が、身分もわきまえずに神聖な帝国政府に政治要求を申し立てる珍事などあり得ない。思い違いも甚だしい。日本政府にとっての「オバマ訪日」の政治の役割は、謹んでアフガン支援に５０億ドルを拠出する貢献の任を下賜される栄浴である。５０億ドルのカネを出させていただく使命を与えていただいて嬉しいと泣いて喜び、米国政府に深々と感謝する記事を米国のマスコミに提供することである。今回のオバマ訪日の政治で、鳩山政権は、マニフェストで掲げた外交政策の指針を全面的に撤回し転換するだろうと私は予想する。無論、それは事実上の撤回と転換であって、マニフェストの公式な見直しとしては政権は認めないだろうが、他の内政の諸政策と同様、外交の基本方針も変えたこと（元に戻したこと）を国民に態度で表明するだろう。すなわち、マニフェストで掲げた「主体的な外交戦略を構築し、緊密で対等な日米同盟をつくります」の自立外交の路線は根本的に後退となる。外交安保政策は元の自公政権とフルコンパチブルな（米国主導の）内実に戻り、日本外交の主導権は米国政府と外務官僚の手に戻る。岡本行夫や森本敏がヘゲモニーを回復する。
オバマが本当に歴史に残る政治家であるなら、第一回目の訪日で広島と長崎の地を踏むサプライズで世界中に衝撃を与えなくてはならない。最初が肝心だ。オバマはＮＨＫのインタビューで、任期中の広島長崎訪問の希望を口にしたが、これは本人の真意ではなく、日本国民向けの（熱狂的歓迎の演出を策した）政治的なリップサービスだろう。オバマの支持率は現在５３％だが、これ以上高くなる楽観的な展望はない。決断し実行するなら今しかない。今は、米国内での支持率はそこそこで、国際的な支持率は１年前と同じ高い水準にある。国際的な人気は高い。だが、予想しよう。このままアフガン戦争の泥沼に踏み込み、兵力を逐次投入してはタリバンの攻勢で米兵死傷者を徒に増やし、アフガンの民間人が大量に犠牲になり、アフガンがイラクと同様の状況になったとき（すでになっているが）、オバマは国内だけでなく国際的な支持も失う事態に陥る。そこまで１年もかからない。国際的な支持を失ったとき、世界の民心が失望してオバマから離れたとき、果たして、広島と長崎は快くオバマを受け入れられるだろうか。そういう政治イベントを挙行して世界にアピールする環境が整っているだろうか。歴史的なイベントは本来の目的を達成できるだろうか。そうした考慮や懸念を将来に廻らしたとき、広島と長崎に来るなら今のこのタイミングしかないのだ。歴史に残る指導者は最初の時機を必ず捉える。最初の英国訪問でサッッチャーから賞賛と評価の言を得たゴルバチョフがそうだった。一発で決められるかどうかだ。
米国も日本も同じだが、支持率が低迷すれば、政権は大胆な政策は打ち出せなくなる。議会や国民を説得できなくなる。経済状況が悪くなればなおさら。オバマの広島長崎訪問は、米国の保守層の歓心を買わず反発を買う。米国の保守マスコミを刺激し、さらに支持率低下を誘引する。国内要因の制約のため、世界の指導者として有意義で画期的なパフォーマンスを演ずる余裕はなくなる。その決断ができるかどうか、オバマの政治家としての能力と器量を計るリトマス試験紙になるだろう。米国はブッシュからオバマに政権が変わり、国民の政治意識も大きく変わったかに見えるが、オバマの国際協調路線がどこまで本物なのか、また、それが米国全体の内在的なビヘイビアになっているかは不明だ。通常、国内経済や国民生活が悪化すると、国民は内向きになり、政治意識は利己的で排外的な性格と傾向になる。バブル崩壊以降の日本がそうだった。９０年代以降、信じられないほど右傾化が加速し、「諸君」や「正論」が論壇の主流になる暗黒の時代となり、精神疾患としか言いようがないネット右翼が跳梁跋扈した。石を投げれば右翼に当たる国になった。病的な右翼ショービニズムが蔓延し、反韓反中がマスコミ言論の常態となる異形の社会空間になった。バブルが崩壊して、国民生活が窮乏化するスパイラルが始まり、日本国民は精神の安定を喪失して発狂の症状を呈し始めた。オウム真理教事件が起き、少年による凶悪な殺人事件が頻発し、中学生が教師や同級生を刺し殺した。米国のバブルが崩壊して１年になるが、米国は果たしてどうだろうか。
クリントン時代からブッシュ時代にかけて、長い間、米国は世界をグローバルに支配統治する帝国であった。米国が帝国であり、米大統領が皇帝であることを、その事実を最もよく可視的に証明して、米国のマスコミと国民を納得させたのは、日本の首相と政府と国民の常軌を逸した卑屈な隷従的態度だった。日本は米国に対して想像を絶するほどの盲従と隷属と奉仕と献財を尽くし、米国の奴隷として犠牲になることが生きる無上の歓喜であるという宗教の原理主義者となっていた。日本経済を破滅させ、米国企業に日本の国富の全てを献上し、日本を植民地に改造する「年次改革要望書」（イニシアティブ）を、日本は自ら主体的に提案して実行していたのである。米国のマスコミと国民はそれに慣れ、それを認め、それを信じた。日本の狂信的で自滅的な宗教を事実として認めざるを得なかった。そして、日本の隷属と盲従と自虐の確固たる事実によって、自己の、世界を支配する帝国の正統性を確信したのである。鳩山政権ができて、「対等な日米同盟」などという言葉が太平洋の向こうから聞こえたとき、ワシントンポストがそれを耳障りに感じ、属国の奴隷が生意気を言うなと侮辱的な警告を発した事情は理解できる。日本は自主的に米国の植民地になった国であり、米国の奴隷として生きる宗教の国だったはずだからだ。この感覚は、米国の保守マスコミだけでなく、米国民一般の対日視線もまた基本的に同じだろう。奴隷の分際が「対等な関係」を言うのを聞くのは不愉快に違いなく、オバマ政権の対日政策は、その米国民の傲慢な対日感情に迎合した路線でなければ支持を得られない。
米国民は、「米国を崇め米国に貢ぎ続ける日本」を要求し、その日米関係が不変であることを願う。国防総省は、ＭＤなど最新兵器を言い値で買い続ける日本が必要で、米軍再編に率先して協力し、国防総省の求めるままに惜しみなく米軍に資金と便宜を提供し続ける日本が必要である。米財務省は、次の金融危機に襲われて米国債とドル紙幣が紙屑になりそうになった際に、ＩＭＦに再び１０００億ドル（１０兆円）を拠出して助けてくれる日本が必要である。だから、「対等な日米関係」など構築したくはないのだ。日本との関係において、CHANGEは米国の国益にならないのである。ブッシュ政権時代の日米関係こそが米国に最大の利益をもたらした二国間外交だった。ブッシュ政権からオバマ政権に変わったが、対日政策は何も変わってないし、米マスコミの居丈高な対日姿勢も変わっていない。外交の目的の第一が国益の確保と追求である以上、オバマ政権はブッシュ政権時代の日米関係をそのまま延長させようとするはずで、米国に負担や支出が発生する日本からの要求はデフォルトで拒絶する対応に出るだろう。米国の東アジア政策のCHANGEは、おそらく対中外交にこそ新しい構想と地平がある。今回、オバマが赤坂で発表するステイトメントは、中国を意識したもので、中国に対するメッセージである。中国に滞在する３泊４日の成果をマキシマムにするための布石だ。こちらは相当にサプライズな中身が入っている可能性があり、中国の国民の心を掴むプレゼントがあるかも知れない。日本に対するリップサービスの政治は、「マツイヒデキ」で終わりである。沖縄の負担軽減などインタビューの中で一言も出なかった。辺野古沖移設の日米合意の履行を迫る脅迫で、現状維持に着地を続けさせるだけの日米関係が続く。そのオバマの訪日で週末の列島が絶叫して、テレビがオバマ歓迎一色になる。憂鬱だ。
