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来年度の予算案づくりに向け、行政刷新会議の事業仕分けがきょう始まる。歳出の無駄を洗い出し、鳩山由紀夫首相の掲げる「コンクリートから人へ」の組み替えを実現できるか。その成否は新政権の評価に直結する。
民主党の国会議員と自治体職員、エコノミストら民間の有識者が「仕分け人」となり、役所の担当者と議論しながら、ひとつひとつ事業の必要性を吟味する。
目標は、95兆円に膨らんだ来年度予算の概算要求から3兆円規模の削減を生み出すことだ。仕分け対象は政府の全事業の約15%にあたる447事業だが、対象外でも類似の事業には今回の判断をあてはめる。
一口に無駄といっても、それぞれの事業にはそれなりの理由と目的があり、恩恵を受ける人もいる。それらを仕分けるのは▽費用に見合う効果はあるのか▽縦割り行政のなかで重複はないか▽財政が苦しい中で今やる必要はあるのか▽地方や民間に任せるべきではないか、といった観点からの検討である。仕分け人には、官僚の説明に言いくるめられない眼力が求められる。
作業にあたるのは枝野幸男元政調会長ら民主党の国会議員7人のほか、民間の有識者56人が起用された。各分野での専門知識を生かすのはもちろんだが、一般市民の常識に照らしておかしくはないか、説得力はあるかという視点を大事にしてもらいたい。
事業の必要性を問うことは、その事業を定めた制度や事業を担う組織の見直しにもつながる。単に削減額を積み上げるだけではなく、文字通り、将来の「行政の刷新」につながる議論も期待したい。
これまで予算査定を一手に握ってきた財務省は、対象事業の選定に全面的に協力した。仕分けにも主計局の職員が出席して意見を述べる。財務省主導の予算削減の隠れみのになっては元も子もない。仕分け人たちの主体性が何よりも重要である。
仕分け作業の結果をその通りに予算案に反映させるかどうかは、首相が議長を務める行政刷新会議の判断にかかっている。地方交付税や義務教育費の国庫負担、在日米軍への思いやり予算といった案件では、内閣全体としての判断が問われることになる。
特筆したいのは、仕分け作業が全面的に公開されることだ。会場で傍聴できる人は限られるだろうが、インターネットで中継され、全国どこでも見ることができる。国民からの意見を受け付ける仕組みも検討しているという。
予算査定の生の現場が公開される。納税者としてこの機会を見逃す手はない。私たちの納めた税金がどのように使われようとしているのか、しっかり目をこらしていこう。民主主義の原点を確認する機会にもなる。
「東アジア共同体」をめぐる発言や動きが国際舞台で目立つようになってきた。鳩山由紀夫首相が推進を表明したことも力となって、先の東アジアサミットでは、政府間で域内の経済連携を研究することで合意した。
しかし、首相が語る共同体は、まだぼんやりした理念にすぎない。中国と韓国、東南アジア諸国などはそれぞれ、人口も経済力も格差が著しく、政治体制も異なる。この多様な地域を、欧州連合(EU)のように通貨から政治面まで含めて統合するというのは、なお夢物語に近い。
現実的なのは、「共同体」への足がかりとなる「共通市場」化ではあるまいか。域内での経済連携の拡大による自由貿易圏づくりだ。
ヒト、モノ、カネがスムーズに流れることで域内の経済成長につながる、という未来図である。だが、それさえも簡単なことではない。
輸出競争力がある中国、対日貿易赤字の拡大を恐れる韓国、農産物輸入自由化に踏み切れない日本。それぞれの間で自由貿易協定(FTA)を結ぶことに尻込みしているのが実態だ。
鳩山政権は、まずこうした現状を打開するために汗をかくべきだ。中国、インドを代表格とする新興国はますます繁栄の道を歩む。アジアは世界の成長センターとして発展するだろう。
人口減少と超高齢化で陰りが出ている日本は、この地域の成長力や「アジア内需」と連動して未来を切り開く覚悟が必要である。
まず域内でFTAの機運を盛り上げるような協力を積み重ねてはどうか。たとえば、アジアを縦断する交通路をつくることや、通関手続きや食品の安全基準の整備、環境問題での協力など、互いの利益が期待できるテーマで成果を上げていくことだ。
はるか先の「共同体」についてではあるが、構成メンバーについての意見は割れている。中国は、日中韓と東南アジア諸国連合による13カ国を主張。日本はインドや豪州、ニュージーランドを加えた16カ国の枠組みを提唱し、隔たりは大きい。
米国の扱いも対立の火種だ。米国抜きの共同体をつくろうとする議論に対し、米国は不満を表明している。鳩山政権は、岡田克也外相が「米国まで含めることになっていない」と言うかと思えば、鳩山首相は米国の関与を求める発言をしている。
共同体の構成について結論を急ぐことは問題をこじらせ、生産的ではない。日本はむしろ、政治的にも経済的にも緊密な米国とのFTAをアジア諸国とのFTAと同時に推進することに力を注ぐべきだろう。
東アジアと環太平洋の共通市場化を進めながら「共同体」のありようをじっくり考えていきたい。