きょうの社説 2009年11月11日

◎耕作放棄地に植林 里山保全に「民」の連携持続を
 能登の里山里海保全のため、珠洲市と東京のNPO(特定非営利活動)法人が石川県な どの調整で連携協定を結び、同市の中山間地の耕作放棄地で植林活動を開始した。原野化が進み再生が困難な農地を林地化することが中山間地域の課題の一つになっているが、珠洲市でのNPO法人の取り組みは、農業者や行政だけでは対応し切れない耕作放棄地対策をカバーするものである。NPO法人同士の連携は地域の交流人口を増やす一助にもなり、末永い活動が望まれる。

 農林水産省が今春まとめた耕作放棄地の全国調査によると、現状のままでは耕作に使え ない農地が石川県で約6800ヘクタール、富山県で約550ヘクタールに上る。

 国、自治体は農地の保全と農業生産拡大のため、耕作放棄地の再生利用に力を入れてい るが、荒廃が著しく進んで、再生利用が不可能な耕作放棄地も多い。景観を損ね、有害鳥獣の隠れ場所にもなるこうした荒れた耕作放棄地の広がりは、過疎地の深刻な農業問題であると同時に、里山保全上の重要課題にもなっている。

 農水省は中山間地域等直接支払制度のなかで、再生不能の耕作放棄地や、条件が悪くて 維持が困難な「限界的農地」を山林に変更して管理する場合、植林などの経費を交付する仕組みを設けてきた。しかし、実際に林地化に取り組む農業者は少なく、一般市民の協力が期待されるところである。

 珠洲市でのNPO法人の連携活動は、環境省が今夏能登で開催したアジア太平洋環境開 発フォーラムを機に実現した。同市で里山里海保全に取り組む法人「能登半島おらっちゃの里山里海」に、東京都港区を拠点に環境活動を展開する法人が3年間の活動費100万円を寄付し、共同で植林作業を行うものである。

 最初の活動として、広葉樹のクヌギの苗木約200本を珠洲市内の耕作放棄地に植えた が、民間協力による耕作放棄地解消策のモデルケースになり得よう。植林後の管理が重要であり、そのために法人同士の連携、交流を持続、拡大させてほしい。それが地域に人を呼び込むことにもなる。

◎アフガン支援 小切手外交と言われても
 インド洋での海上自衛隊による給油活動に代わって、アフガニスタンに5年間で最大4 500億円を投じる復興支援策は、湾岸戦争当時のように、汗をかかずにカネだけを出す「小切手外交」との批判を免れないのではないか。

 給油活動は、安全性の高い「人的貢献策」で、日本の存在を広くアピールできたうえに 、08年3〜7月の燃料費が月平均で約1億6千万円と比較的安上がりだった。国連安全保障理事会が「謝意」を示すなど、国際的な評価が高く、米英やパキスタン政府などは強く継続を求めている。費用対効果の高さを考えれば、活動をやめてしまうのはもったいない。

 さらに言えば、給油活動は、テロリストの移動や麻薬、武器などの運搬阻止を目的とし た「対テロ戦争」への後方支援でもあった。国連安保理による「テロ防止への一層の努力」を求める決議などを受けて参加したのに、対テロ包囲網から日本だけが離脱するマイナス面も無視できないだろう。

 給油活動をやめるなら、より効果的な支援策を打ち出さなければならないはずだが、閣 議決定された復興支援策は、イスラム原理主義組織「タリバン」の元兵士に対する職業訓練や農村開発、医療などの民生支援が柱である。どれもアフガンの民主化に必要な援助であり、広い意味でのテロ防止策になるのかもしれないが、人的貢献を抜きにした財政支援だけでは国際社会に日本の顔は見えず、存在感は乏しいままだろう。

 日本は01年以降、総額約20億ドルの復興支援を表明し、アフガンの全警察官約8万 人の給与負担のほか、農業、医療分野に1800人以上の専門家を派遣し、現在も日本人約50人が現地で活動している。昨年8月には日本のNGOメンバーが、現地の武装勢力に殺害される痛ましい事件も起きた。タリバンが勢力を盛り返し、治安が著しく悪化している現状では、民間人を増やすのは危険である。

 給油活動に強く反対する社民党の存在ゆえに、給油活動の継続という合理的な選択がで きない鳩山政権の限界を思わざるを得ない。