千葉県市川市のマンションで07年3月、英国籍の英会話講師、リンゼイ・アン・ホーカーさん(当時22歳)が殺害された事件が、発生から2年7カ月余りで急展開した。10日、大阪市内で逮捕された市橋達也容疑者(30)=死体遺棄容疑で指名手配=はフェリーで沖縄に向かおうとしていたところを通報された。整形手術を重ね、最後まで逃亡を続けようとした執念は、どこから生まれたのか。【荻野公一、清水隆明、山縣章子、倉田陶子】
「午後8時17分、大阪府警が市橋容疑者を住之江署で死体遺棄容疑で逮捕しました」。10日夜、捜査本部のある行徳署の大谷毅副署長はそう発表すると「よかった」。ほっとした表情を浮かべた。捜査本部は今月5日、整形した市橋容疑者の顔写真を公開。以来1000件超の情報が寄せられ、公開から5日後のスピーディーな逮捕となった。
マルエーフェリー大阪支店によると、市橋容疑者は10日昼、神戸市の同社神戸営業所を訪ね、那覇行きフェリーに乗船しようとした。しかし、この日の那覇行きは大阪南港始発だったため、社員が南港に向かうよう説明し、同時に大阪支店に「市橋容疑者とみられる乗客が南港に向かった。現れたら警察に通報するように」と連絡。南港の乗船カウンターの社員が、市橋容疑者が現れた際、110番したという。
事件の現場となった市川市福栄のマンションは分譲だが、市橋容疑者の4階の部屋は表札もカーテンもなく、空き室状態。同じマンションに住む女性(68)は「捕まらないので戻ってくるのではと、ずっと怖かった。整形を繰り返して逃げていたと聞き、生きることに執着していたんだと思った」と話した。
事件前から市橋容疑者を知っていたという50代女性は「まじめでいい子だった。捕まって本人のためにも良かった。今日までのことをすべて警察に話し、早く罪を償ってほしい」、50代の男性会社員は「初動捜査がまずかったから事件が長引いたのでは」と話した。
学生時代の市橋達也容疑者を知る千葉大大学院名誉教授の本山直樹さんも「このままでは行き場がなくなり、追いつめられてしまうところだった」と話し、ほっとした表情を見せた。
本山さんは昨年春に千葉大を退職する前、顧問を務めていた同大の空手サークルで市橋容疑者と約1年間、週2回の昼休みにけいこをした。部員は10人ほど。けいこ前に全員で道場の床をぞうきん掛けし、けいこ後はシャワーを浴びながら言葉を交わした。「まじめで、事件を起こすような性格ではなかった」と振り返る。
市橋容疑者が整形手術を繰り返しながら逃走していることを知り、今月8日に「市橋達也君に告ぐ」という文章を自身のホームページ(HP)に掲載。「責任を回避して逃げ回るのは君らしくない」「犯した罪の償いをすべきだ」と呼びかけていた。
本山さんは「どんな事情があっても元学生は永久に元学生。その幸福を願うのが大学人の役目。残りの人生でしっかり償え、と言ってやりたい」と結んだ。
毎日新聞 2009年11月10日 22時03分