アニリール・セルカンという名をご存知だろうか。宇宙エレベーターや11次元宇宙理論で知られる日本在住のトルコ人宇宙物理学者にして建築学者である。
多岐にわたるジャンルにおいてずば抜けた才能を発揮している人物で、特に近年ではインフラに依存しないで暮らせる居住空間の開発の研究で多方面から注目されている。 彼の研究に対するスタンスは大変ユニークだ。彼が出してきた様々な成果は学者というよりむしろクリエイターと言ったほうがいいアプローチから成し遂げられているといってもよい。規格外の研究者、アニリール・セルカン。その彼のスタンスを彼の研究とともに迫る。
セルカンの研究の特徴の一つに他の学問の視点・発想をもとに理論を導くことがある。
その例を見てみよう。
氏の最新研究。インフラに依存しないで暮らせる居住空間の開発が目標である。彼の博士論文は「宇宙静止軌道上施設の設備関連」。これを地上に応用したのがこのインフラフリーだ。
*現在NASAで研究中
彼はよく「面白い発想」という言葉を発する。いかにユニークな発想を生み、いかに現実に落とし込むか。彼の視点はクリエイターのそれと同じである。
インフラに依存しないで暮らせる居住空間の開発研究のこと。特に災害時などにおける仮設住宅建築に有効とされる。都市圏にある整備されたインフラを見直すというよりは、インフラ利用が不可能な特殊な状況下での都市デザインおよび住空間構築の研究といっていいだろう。
「基本は、倹約して現代生活のレベルを落としていくというより、ハイテクノロジーの利用をふまえつつ、水、エネルギー、食糧という人間にとって不可欠なものをゴミに出さずすべて100%循環させ、再利用する未来のライフスタイルを構築する研究のこと。言い換えれば"ゴミが宝となる"ための研究がインフラフリーなんです。」
また、ゴミ排出過多で悩む自治体からも問題解消策の一つとして注目されている。
この研究の興味深い点はクリエイターや他のジャンルの専門家も共に研究する余地があることだろう。
「実は、そういう可能性の面白さもあってこの研究を始めたのもあります。講演を行うと特にデザイナーや環境関連の研究者は反応がいいですね。インフラフリーの魅力は、設備、環境、社会システム、ライフスタイルに関わってくるために様々な分野の専門家や企業に参加してもらえるところです。従来の研究は自分達だけでやっていた。でもそれだと面白い発想も生まれにくいんですね。いろんな専門家が参加することで、新たな発想が生まれるはず。もし、クリエイターの人たちがこの研究に興味を持ったなら、是非僕が所属している大学の研究室のウェブサイトや個人ブログを見て気軽に連絡をしてほしいと思っています。」
「今のインフラ上での生活は便利なので、それを不便にする必要ないと思うのです。あくまで一つの例ですが、水を節約しないといけないと思うと現在の快適性が失われます。
節約する部分は住宅に任せてしまえばどうでしょうか。この研究は災害時利用の想定ですが、日常生活にも応用できます。そこに住むだけで使用した生活用水をまた同じように利用できること。そんな完全な自立型エネルギー循環システムを建築に落とし込むことを目指しています。」
1973年ドイツ生まれ。国籍はトルコ共和国。大学卒業までをドイツ、スイスで過ごし、1995年イリノイ工科大学建築学科卒業、1997年プリンストン大学数学部講師に就任。1999年バウハウス大学建築学科修士課程終了。2003年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程を修了、日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部宇宙構造物工学研究室講師を経て、現在、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教、エール大学客員教授などを務める。2001年NASAジョンソンスペースセンター宇宙構造・材料系客員研究員として宇宙飛行士プログラムを終了、2004年トルコ人初宇宙飛行士候補に選ばれる。宇宙エレベーター計画など、宇宙構造物に関する研究開発により、U.S Technology Award、ケンブリッジ大学物理賞及びAmerican Medal of Honorを受賞。現在は先端技術を応用し、インフラに依存しないで暮せる空間技術(INFRA-FREE LIFE)を開発、研究している。また、日本科学未来館の全天周映画「宇宙エレベータ」の監修、和歌山県串本町の串本大使、子供・企業向けの講演など、その活動は多岐にわたっている。